第13話 クローゼット

 懸念していたコッコさんとロボの関係だけど、どうやら私の知らないところでロボは教育的指導を受けたらしく、コッコさんに大人しく従っている。


 たまにコッコさんが鳴くと、ロボのしっぽがヒュッと股の間に入っちゃってるんだけど……。

 一体、あの二匹の間に何があったんだろうね。


 想像しちゃダメダメ。


 ロボのお母さんは、コッコさんとオコジョさんが埋葬してくれたらしい。庭の片隅に、こんもりと土が盛られていた。


 最初は私たちを警戒していたロボだけど、数日もすると懐いてきた。

 最近では夜寝る時も一緒だ。


 右にオコジョさん、左にロボで、もふもふしながら幸せな眠りを満喫しています。





「さーて。今日も錬金しよーっと」


 私は青い表紙の本を開いて、何を作るか考える。


 昨日はポーションをたくさん作ったから、今日は……う~ん。毒消し薬なんてどうかなぁ。


「えーっと。ヒール草と毒キノコとお水だって。うぇっ。毒キノコも必要なの!? そんなのも箱庭にあるの?」

「家の裏手にあるよー。そっちは毒っぽいのが多いから気をつけてね」

「……毒っぽいって……」

「食べられるキノコは陽の当たる場所に生えてるから、すぐ分かると思うよ」

「じゃあ見に行ってみる」


 ロボをお供に家の裏手に行ってみると、なんというか、暗くてじめーっとした畑があった。その端っこに、紫色で赤い斑点のついた、どこからどう見ても立派な毒キノコが生えている。


「これが毒キノコ……。あっ、ロボ。ここにあるのは絶対に食べちゃダメだからね」


 そう言うと、ロボは「きゅんっ」と返事をした。

 よしよし。ちゃんと分かってるみたい。


 私は小さな頭をなでなでした。


「それにしても、このまま手で触っても大丈夫かなぁ」


 毒々しいキノコの色に、そのまま触るのをためらってしまう。


「軍手とか錬金で作れないかな」


 一度家に戻って錬金の本をチェックしてみよう。

 ロボと一緒に戻って、軍手が錬金できるかどうか調べる。


「あっ。軍手のページが増えてる。綿が一個でいいのね」


 綿はたくさんあるから、すぐに作ってみる。


 ぐ~るぐるぐ~るぐる。


「でっきあがり~♪」


 軍手のかんせーい。


 一応、予備に何個か作っておこうっと。


「そういえばオコジョさん、この本って服が載ってないよね」


 寝巻はあったけど、普段着る服がないんだよね。

 だから私の持っている服は、この世界に来る時に着ていたワンピース一着きりだ。


「確かにそうだね。じゃあ何か出してあげようか? 可愛いのとカッコいいのと、どっちがいい?」

「その二択なら、可愛いのかなぁ」


 あんまりスタイリッシュな服って好きじゃないんだよね。普通のゆるふわな服でいいんだけど。


「りょうか~い。そーれ!」


 オコジョさんが指さした先に、クローゼットが現れる。


 ……なんていうか、オコジョさんって、お腹に不思議なポケットのある猫型ロボットみたいだね。実は何でも出せちゃうんじゃないのかな。


「ありがとう」


 でも着たきりスズメにはなりたくないし、ありがたく頂きますね。

 ちょっとウキウキしながらクローゼットを開けて――固まった。


「きゅん?」


 ロボが不思議そうに鳴く。

 いや、だって、これ……。


「なんでロリータ服なのぉぉぉ!?」


 クローゼットの中にはひらひらのレースがふんだんに使われているロリータ服しかなかった。


 うん。確かに可愛い。

 でも、可愛すぎない……?


「だって、可愛い服といったらこれしかないよね?」

「……ちなみに、スタイリッシュを選んだらどんな服が出てきたの?」

「こんな感じかな」


 ポンッとクローゼットに追加された服は、ドクロマークのへそ出しTシャツとヒョウ柄のミニスカートだった。


 これがスタイリッシュ?

 なんか違~う!


「他にはないの?」


 オコジョさんの服のチョイスが極端すぎるよ。

 もっと普通なのをお願いします!


「ごめんね。ないんだ。……気に入らなかった?」


 しょぼんとうなだれるオコジョさんに罪悪感が沸く。


「あの、別に、気に入らないってわけじゃないんだけど……。ほら、庭で採取したり錬金をするには立派過ぎるかな、って。それに似合わないと思うし……」

「そんなことないよ。メイに似合うから出したんだよ。さあ、着てみて」

「……うん」


 とりあえずクローゼットの中で一番フリルの少ない、水色のアリス風ワンピースを着てみる。

 鏡がないから分からないけど、本当に似合ってるのかなぁ。

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