第15話 森の中は危険がいっぱい

 すると私の横を白い風が走った。

 コッコさんだ。


「コケーッ!」


 その勢いのまま、巨大な蛇に蹴りつける。

 そしてひるんだところを、更に蹴飛ばす。


 蛇はクワッと大きな口を開けてコッコさんを丸飲みにしようとするけれど、羽を広げて空に飛んだコッコさんは蛇の後ろに回り、後頭部に爪を立てて落とされないようにする。そして鋭いクチバシで頭をつつきだした。


 ひ、ひえぇぇぇぇ。

 スプラッターだぁ……。


 白いコッコさんが真っ赤に染まる頃、蛇はドウと倒れて動かなくなった。


「コーケコッコーッ!」


 勝利のおたけびをあげたコッコさんは、羽をプルプルッと震わせた。

 すると、真っ赤だったコッコさんの体が真っ白になる。

 ついでに飛び散っていた血もどこかに行った。


 これも、魔法なのかな……。

 なんていうか、ニワトリと巨大蛇の戦いという非現実的な光景に、心がついていかない。


 いや、怖いのは怖いんだけど、実感がないというか……。


「コッコー。コッコー」


 コッコさんが、倒れた蛇を見ながら鳴く。


「コッコ、コッコ」

「え……。もしかしてこの蛇も材料になるの?」

「コケッ」

「えー」


 嫌だったけど。

 ものすごく嫌だったけど、コッコさんからの圧力に負けて、しっぽの先に手で触れて腕輪の中に収納する。


 うわーん。せっかく集めた素材と蛇の死体を一緒に入れておくのなんて嫌だぁぁぁ。

 コッコさんが怖いから言えないけども!


 その時、また茂みがガサガサと音を立てた。


 うぇぇぇぇ。

 また蛇~?

 と、思ったら。


「……人?」


 藪から出てきたのは、剣を構えた男の人だった。金髪に青い目の、顔立ちの整った人だ。


「え……? 子供……と、ニワトリと犬?」


 私もびっくりしたけど、向こうもびっくりしていた。

 そしてコッコさんは無反応で、ロボは姿勢を低くして唸っている。


「おい、ジーク。キング・スネークは見つけたか? ……って、子供か? なんでこんなとこに?」


 剣を構えた人の後ろから、もう一人弓を持った人が現れる。こっちは黒髪に青い目の人だけど、金髪の人と同じくらい容姿が整っている。

 その人も私たちを見て目を丸くしていた。


 見つめ合うこと数分。


 先に口を開いたのは、最初の金髪さんだった。


「君は、森の魔女か?」


 森の魔女……?

 箱庭を作った界渡りの魔女のことだろうか。


「違います」


 すぐに否定するけど、二人とも疑わしそうだ。


 確かに魔物が出るこんな森の中に女の子が一人でいたら変だよね。しかもさっきのキング・スネークみたいな強そうな魔物がいるんなら、なおさらだ。


「おいジーク。こんな森の中にいるんだから、その子がただ者じゃないのは確かだ。……毒消しを持っているかどうか聞いてみようぜ」

「そうだな。……俺はミスリルランクのジーク・アーノルトと言う。もし毒消しを持っていたら分けてもらえないだろうか」


 ジークという人は、服の下からドッグタグのような物を出して私に見せた。銀色のピカピカなプレートには、確かにジーク・アーノルトという名前が書いてある。


 でも、ミスリル・ランクってなんだろう。

 いわゆるファンタジーの定番、冒険者ギルドの階級か何かかな。


 もー。

 こんな時にオコジョさんがいてくれれば色々と説明してもらえるのに!

 ここにいるのがコッコさんとロボだけじゃ、不安だよ。


 でもまあ、毒消しを上げるくらいなら大丈夫かな。

 森に来るからと思って、出かける前に毒消しを何個か作っておいて良かった。


「一個でいいんですか?」

「持っているのか!?」

「はい。ちょっと待ってくださいね」


 私は腕輪から毒消しを一個取り出してジークさんに渡す。

 ジークさんはそれをじっと見つめて、それから私に銀色のコインを手渡した。


 あっ。これがもしかしてこの世界のお金かな。


「アレク、この毒消しをすぐクラウドに」

「了解」


 毒消しを持ったまま戻るアレクさんに、もしかしてクラウドって人が毒にやられちゃってるのかなと思う。


 毒消しが効くといいけども。


「それで君は一体、なぜここに?」


 アレクさんを見送ったジークさんに聞かれて、私は素直に答える。


「ええと……お散歩?」


 素材の収集も兼ねて、だけど、間違ってはいない。


「この森で……か?」


 う~ん。やっぱりこの言い方だと、ここはかなり危険な魔物がいっぱいいる森だって事だよね。


 でも私にはコッコさんという最凶……じゃない、最強の用心棒がいるから大丈夫なのです!

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