第11話 門の外の来訪者
と、その時。門の外で何かがキュウキュウ鳴いている声が聞こえた。
すると、コッコさんの体の向こうに、灰色のボロ布の塊のようなものがあった。
その隣には、か細い声で鳴く灰色の雑巾。
「……動物?」
よく見れば、か細い声でキュウンキュウンと鳴いているのは、子犬のようだった。
しかも所々毛が抜けていたり毛玉になっていたりして、見るからにボロボロだ。
「もしかして、子犬!?」
子犬は大きな灰色の塊にぴったりとくっついて鳴いていた。
しかも鼻が詰まってるのか、時々ブヒュンとくしゃみをしている。
「親子なのかな……」
二匹ともガリガリでボロボロで……。
それに親の方はピクリとも動かない。もしかして……もう死んじゃってるのかな。
とりあえず介抱しようと一歩踏み出したら、コッコさんが「ココッ」と鳴いて足をつつく。
「……あの子たちを助けちゃダメってこと?」
コッコさんは私がアーチを潜ろうとする度に、足をつついて先に行かせまいとした。
でも、ここで見捨てたら、あの子たち死んじゃうんじゃうよ。
「ねえ、コッコさん。あの子たちを助けちゃダメ? せめて食べ物をあげるだけでも、ダメかな?」
多分あの親犬は、この庭にたくさん食べ物があるのを知っててここに来たんじゃないかと思うんだよね。
だから……。
「メイ~。何やってるの?」
後ろからのんびりしたオコジョさんの声が聞こえた。
あれ? もうお風呂から出たの?
タオルはどうしたの?
そう聞くと、オコジョさんはプルプルっと体を震わせて水気を取るしぐさをした。
「こうすれば、ほら。もう大丈夫」
そう言えば、動物の毛って
特にオコジョさんの毛は水分をよく飛ばしそう。
「それなら良かった。ところでオコジョさん、あの子たちって助けられないの?」
私の指さす方を見たオコジョさんは、う~んと腕を組んだ。
「あれはウルフドッグの親子だね。群れで生活するはずだから、この親子だけ群れからはぐれたか、他の動物に襲われてここまで逃げてきたのか、どっちかだと思うよ。……メイは助けたいの?」
「うん」
だってあんなにボロボロでガリガリなんだもん。目の前にそんな動物がいたら、助けたいと思うのは当然だよね。
「でも残念ながら、親の方はもうダメみたいだね」
「そうなの?」
「うん。ここまで来るのがやっとだったんだろうね」
「そうなんだ……」
母犬は、自分がもう長くないことを知って、それで食べ物のたくさんありそうなこの箱庭までやって来たのかな。
「ただここは魔法の力で守られてるから、入れなかったんじゃないかな」
この世界に来た私にはなぜか家族の記憶がない。
多分……界渡りの魔女が手紙で書いていたように、感情を揺さぶられるような記憶に関しては消去されちゃってるからだと思う。
だけど家族の暖かさだけは覚えてる。
だから、母犬が命がけで守った子供だけでも、なんとかして助けてあげたい。
「金の実をここから投げるといいよ」
そのオコジョさんの言葉に反対したのはコッコさんだ。コケコケコケと短く鳴いてオコジョさんに訴えている。
「でもここはもうメイの庭だから、金の実を誰にあげようと、メイの好きにするといいんじゃないかな」
「コケッコッコ」
「そうだけど……。だったらさ、コッコさんの部下にすればいいと思うよ」
「ココッ」
「うん、そう。コッコさんが鍛えればいいんだよ」
「コッコッコ」
「それは分からないけど。ダメでも番犬くらいにはなるんじゃないかな」
……どうやってるのか謎だけど、オコジョさんとコッコさんは意思の疎通ができるらしい。
今度からコッコさんと会話をしたい時は、オコジョさんに通訳を頼もうっと。
「メイ~。ここから金の実を投げてごらん。まずは一個でいいよ」
「分かった」
腕輪から金の実を取り出して、キュンキュン鳴いている子犬の方へ投げる。
放物線を描いた金の実は、ぽとりと地面に落ちた。
落ちた衝撃で実が少し潰れたのか、甘い匂いが漂う。
子犬は鼻をひくひくさせながら、金の実へと近づき、ペロリと舌で舐めた。
そしてしっぽをフリフリさせて、金の実をくわえながら母犬の口元へと持っていく。
「キュゥゥン。キュウゥン」
甘えたような声で、母犬を呼ぶ。
でも力尽きて息絶えた母犬が動くことはない。
「キュゥゥン。キュゥゥ」
それでも子犬はずっと母犬に寄り添って鳴いていた。
私は思わず花のアーチの下まで行き、そこにしゃがんで腕輪からもう一つ、金の実を取り出す。
「ほら。おいで。これをあげるからおいで」
何度も何度も声をかけると、やがて子犬が少しずつ近づいてきた。
私は手を伸ばしてアーチの外に金の実を置く。
すると子犬は、弱っているとは思えないほど素早い動きで金の実をくわえ、母犬のそばに戻って食べ始める。
「メイ。もう一つ金の実を出して、そのまま手から食べさせるといいよ」
オコジョさんの提案に従って、金の実を取り出す。
手の平に置いて待っていると、警戒しながら子犬がやってきた。
そしてフンフンと匂いをかいでから、手の平の実をぱくりと口にする。
食べた! 良かった!
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