第10話 オムレツを召し上がれ
出来立てのオムレツを出すと、オコジョさんはじっとお皿の上を見つめた。
黄色いオムレツの上には、ケチャップでハートを描いてある。なかなか色鮮やかで見るだけでも楽しくなるね。
「これが、オムレツ」
「うん。出来立てのうちにどうぞ。いただきま~す」
「いただきます」
オムレツにスプーンを入れると、中からとろりとした半熟の中身が出てきた。
今日は中に具を入れなかったけど、そのうちにひき肉とかチーズを入れたらもっとおいしいんじゃないかな。
一口分をすくって口に運ぶ。
「う~ん。ふわとろ~」
錬金釜で作ってみたけど、私の作った特製オムレツと同じ味がする。
トマトケチャップの酸味と卵のコクが合体して、舌の上に乗せるだけで幸せな気持ちになるなぁ。
「ちゃんと再現されてる。凄い」
感動しながらもう一口食べる。
ふわふわの食感で、口の中で何とも優しい味がする。
「おいしいね~」
返事がないのでオコジョさんの方を見ると、物凄い勢いで食べていた。
一応フォークとナイフは使ってるけど、口の周りが黄色くなっている。まあ、もふもふだしね。仕方ないよね。
えーっと、口を拭くものって何かあったかな。
あっ。タオルがあった。
「口の周りがオムレツでベタベタだよ。これどうぞ」
タオルを手渡すと、オコジョさんは口だけじゃなくて顔全体をタオルで拭いた。
「ダメだよ、オコジョさん。それじゃかえって汚れがついちゃう」
慌ててストップをかけたけど、時すでに遅し。
オコジョさんの口だけじゃなくて顔全体にオムレツが広がってしまった。
「わぁ。どうしよう。顔を洗うかお風呂に入らないとダメかも」
「じゃあ食べたらお風呂に入るよ」
「オコジョさん、お風呂好きだね~」
「あんな素晴らしい物を好きにならない生き物はいないよ!」
確かに、露天風呂で人間だけじゃなくて、猿とかカピバラがのんびりお湯につかってたっけ。
「オコジョさんがお風呂から上がる前に新しいタオルを作っておくね」
「メイ、ありがとう」
卵色の顔になったオコジョさんがニコーッと笑う。癒されるなぁ。
「このタオルも洗濯して……。あっ、洗濯機がないっけ」
う~ん。洗濯機がないとお洗濯が大変だなぁ。
そういえば石鹸もないよ!
えーと、石鹸の作り方はこの本の中に……。あったあった。椿を二個と石を一個だって。
それならすぐに作れるね。
洗濯機はオコジョさんにお願いしないとダメかも。
「オコジョさん、洗濯機を出してもらってもいい?」
「今ならおいしいものを食べて元気いっぱいだからいいよー」
お腹いっぱいだと色んな物を出せるのかな。
そういえば昨日もご飯を食べたら復活してたっけ。
だったらおいしい物をたくさん作って食べてもらおうっと。
「じゃあねぇ、メイの頭の中に洗濯機を思い浮かべて」
「うん」
洗濯機は、どうせなら全自動で乾燥機もついてるといいなぁ。最近のドラム式洗濯機って、乾燥してもシワシワにならないんだよね。
洗剤と柔軟剤も自動で投入してくれるタイプがいいなぁ。
「オッケー、分かったよ。どこに出せばいい?」
「じゃあね、この辺でお願い」
お風呂場のドアの並びに設置してもらう。
「いくよー」
えいっ、という掛け声と共に、最新型ドラム式洗濯機がドーンと現れる。
「ありがとう、オコジョさん!」
「どういたしましてー」
水の配管とか排水とかないけど……。魔法の洗濯機だもんね。きっと汚れた物を入れてスイッチを押したら、洗濯物が全部綺麗になって乾燥されるに違いない。
「じゃあ私はタオル用の綿とヒール草を取りに行ってくるね」
「ありがとーう」
籠を持って庭に出る。
綿は家のすぐそばで採れるから楽だよね。ヒール草は金の実の木のそばだったよね。
のんびりと噴水に向かって歩く。
いい天気だなぁ。
そういえば腕輪の中に入れておけば状態保存の魔法がかかってるから劣化しないんだっけ。
だったら多目に収穫しておこうかな。
明日にはまた元通りになってるんだしね。
噴水のそばのヒール草を摘んで、それから金の実もついでに一つ残して後は全部もいじゃおーっと。
他にも野菜は色々収穫しておこう。
手当たり次第に腕輪の中に入れていくと、いくらでも入れられる。
「凄い。結構入れたけど、まだ腕輪の中に収納できそう」
おもしろくなってどんどん入れていると、気がつけば庭の一番端っこまで来ていた。
「門?」
目の前には生け垣の切れ目があって、そこに桃色の花のアーチがあった。真ん中が少し垂れていて、よく見るとハート型になっている。
「かわいい~」
この外はどうなってるんだろう。
好奇心を覚えてちょっと出てみようかと思う。
でも……。
「コケーッ、コケーッ」
いきなり現れたコッコさんが私の行く手を塞いだ。
びっくりしたぁ。
どうしたの?
外に出ちゃダメってこと?
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