第8話 金の実と金の卵

 翌日の目覚めは、すっきり爽やか――には、ならなかった。だってまだ外が明るくなりきらないうちから、大音量のニワトリの鳴き声が聞こえてきたんだもん。


「コケッ、コケッ、コケーコッコッコッコ。コーケッコッコー。コーケコッコー」


 うわわわわわわわっ。

 な、なに、何の音!?


 飛び起きた私は、見慣れないベッドと部屋に一瞬ここはどこだろう、と考えた。


 寝起きで良く頭が働かないけど……確か昨日は……。


「コンサートに行こうとして足を滑らせて……」


 そしてここに来たんだった。

 うん。思い出した。


「コーケコッコー!」


 そしてあの声はコッコさんだね。

 ニワトリだから早起きだなぁ。


 まだ早いし、二度寝しよう。

 そう思ってお布団の中に潜ったけど、コッコさんの素晴らしい美声が止まる気配はない。


「うう……諦めて起きるか……」


 昨夜は日が暮れてそれほど時間が経たないうちに寝ちゃったから、そんなに寝不足というほどではない。早起きは三文の徳って言うし、もう起きよう。


 あれだけの大音量で鳴いてるんだから、てっきり部屋の中で鳴いてるんだろうと思ったコッコさんだったけど、部屋の中を見回してもその姿はなかった。


「コーケコッッコー」


 もしかして外で鳴いてるのかな。

 よく見ると、部屋の窓が開いていて、カーテンが少し開いている。


「あ~。カーテンが遮光カーテンとかじゃなくて普通のカーテンだけだから、どっちみち日の出とともに起こされる運命だったのかも……」


 遮光カーテンなんて錬金の本に載ってたかなぁ。


 段々明るくなっていく部屋に、これから必然的にもたらされる健康的な生活を思う。

 ……とりあえず、今夜も早く寝よう。


 少しだけ開いていた窓を思いっきり開けて、早朝の清々しい空気を吸う。

 森の中だし、空気がおいしい。


 んー、っと思いっきり伸びをして。


「あれ。そういえばオコジョさんも見当たらない」


 昨日は一緒に寝たはずだけど、どこに行ったんだろう。

 そう思っていると、お風呂場のドアが開いてオコジョさんが出てきた。


「おはようメイ。朝風呂って気持ちがいいね~」


 ……オコジョさんは魔法生物のはずだけど、すっかりお風呂が気に入ったらしい。

 綺麗好きなのはいいことだけどね、うん。


 私も朝の支度をして、朝ごはんにしようっと。

 今朝は何を食べようかなぁ。


 とりあえず昨日の服に着替えてから籠を持って庭に出る。


「コケーッコッコー」


 コッコさん、絶好調だなぁ。

 庭にいるであろうコッコさんの姿を探す。でもどこにも見当たらなかった。


「コーケコッコー」


 あれ? 声は上から聞こえてる?


 振り返って顔を上げると――


 まるで風見鶏のようなコッコさんが赤い屋根の上にいた。

 ひとしきり鳴いて満足したのか、コッコさんはそのまま羽を広げて庭に降り立つ。


「ニワトリなのに飛べるのって不思議」


 よくTVで見るニワトリの滑空じゃなくて、ちゃんと翼を広げてパタパタと飛んでいる。

 コッコさんは何を当然、というように首を傾げて、私の足を軽くつついた。


「いたたっ。ちょ、ちょっと待って。痛いってば」


 そして誘導された先は、例のコッコさんの主食の金色の実の前。


「えーっと、つまり、ご飯よこせ、ってこと?」

「コッコーッ」

「……はい、どうぞ」


 手の平に乗せてあげると、コッコさんはクワッとくちばしを広げて実を丸のみした。

 やっぱり、コッコさんってニワトリじゃなくて小さな恐竜なんじゃないかな……。


「コッコさんのご飯は終わったから、今度は私たちのご飯だよね」


 そういえばオコジョさんも動物だけど、私と同じ物を食べても大丈夫なのかなぁ。

 ほら。動物には塩分は良くないって言うし。


「メイ、朝ごはんは何を作るの? 楽しみだな~」


 ……魔法生物だから問題ないみたいだね。


「パンと野菜しかないから……。あれ?」


 金の実をつける木の陰に、鳥の巣のようなものがある。

 ちょっと深さのある中を覗くと、そこには――


「卵!?」


 しかも金色。


 えっ。ちょっと待って。

 これって金色だけど、ニワトリの卵だよね。


 この箱庭にいるニワトリって、コッコさんだけだよね。

 ということはつまり、この卵はコッコさんが産んだってこと?


 でも、コケコッコーって鳴くのはオスだけじゃないの?

 それに立派なトサカがついてるよ。


 一体、どういうことぉぉぉ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る