第4話 導き手のオコジョさん

「ねえ、オコジョさん。界渡りの魔女ってどんな人だったの?」

「ボクもよく知らないんだよね。だってさっき生まれたばっかりだし」

「えっ。そうなの」


 てっきり界渡りの魔女の右腕みたいな存在かと思ってた。


「コッコさんは元々界渡りの魔女が飼ってたニワトリだから、彼女のこともよく知ってるだろうけど」


 つまり……ペットだったの?

 こんなに凶暴なのに?


 そんな私の心の中の呟きが聞こえたのか、コッコさんは「コケッ」と鳴いた。


「メイ、ダメだよ、手を止めちゃ。失敗しちゃうよ」


 いけない、いけない。コッコさんの威嚇に怯えてつい手が止まっちゃってた。


「オコジョさんはさっき生まれたの?」

「うん。君が読んでた手紙が元になってるんだ」

「手紙が? それって魔法みたい……。って、そういえば界渡りの魔女だから魔法を使えるのは当然かぁ」

「そうだね。界を越えるほどの力を持つ魔女なんて彼女くらいだと思う。ボクは彼女に作られた、えーと……使い魔? 使徒? なんかそんな感じだよ」


 ゆ……ゆるい。


 まあとにかく、オコジョさんは界渡りの魔女に作られた魔法生物ってことでいいのかな。

 コッコさんは……。


 チラリと見ると、コッコさんの三白眼と目が合った。

 ……コッコさんは、コッコさんでいいかな。うん。


 錬金釜に視線を戻すと、いつの間にか丸い葉っぱが消えていた。


「わっ。いつの間にかできてる」

「うまい、うまい。それを瓶につめれば……あれ、瓶がないや。じゃあ錬金で作れば……。ありゃ、錬金釜にはポーションが入ってるね、どうしよう」

「えっ。そういうことは先に言ってよ」


 もー。これで何度目なの。


 オコジョさんは私の導き手ってことだけど、ちょっと頼りないよ~。


「ごめんごめん。お詫びに瓶は用意してあげるよ。はい」


 オコジョさんの言葉と共に、テーブルの上に十個の瓶が現れる。


「瓶も錬金で作れるの?」

「うん。中級の錬金術師アルケミストになればね」

「……それまでは?」

「あれ? 作れないね。どうしよう。ポーションをたくさん作らないと初級のままだ」


 それじゃダメじゃないのー!


「……私が中級錬金術師になるまで、オコジョさんが瓶を出してね」

「仕方ないなぁ」


 ぽりぽりと頬をかくオコジョさんはとても可愛い。

 頼りないけど。


 くぅっ。いつか絶対モフモフしてやるんだから。

 そう心の中で誓いながら、出来上がったポーションを瓶に詰めていく。


「さあ、飲んでごらん。品質は、そうだなぁ。普通かなぁ」

「コケー」


 それを聞いたコッコさんが期待外れだなとでも言うように一声鳴いて部屋から出て行った。

 初めて作ったんだから、ちゃんと作れただけいいじゃない。


 瓶に入ったポーションを、腰に手を当てて一気飲みする。


「あ……。痛くない」


 コッコさんに蹴られた背中が全然痛くない。

 おおおお。ポーションって凄い。

 おもしろーい!


 調子に乗った私は、それからたくさんのポーションを作った。


「メイ~。もうテーブルの上に乗りきらないよ~」


 呆れたように言うオコジョさんに、ハッと我に返った。


「……作り過ぎちゃったね」


 う~ん。これ、どうしようかなぁ。


「保存庫を作れば……。あ、ダメだ。瓶を作り過ぎて、もう力が出ないや」


 もーっ。本当にこのモフモフ、ポンコツ過ぎるー!


「じゃあこれしかないかな~」


 そう言って取り出したのは……銀色の腕輪?


「えっとね、君が必要だったら渡すようにって預かってたんだ。中にたくさん物をしまえるから便利だと思うよ」

「預かってたって界渡りの魔女に?」

「うん、そう」

「でも会ったことがないんでしょ?」


 なのに預かってたっていうのはどういうことだろう。


「う~ん。なんていうのかな。ボクは導き手だからさ、キミが困ってる時には助けてあげるのが役目なんだ。でも最初から便利なアイテムを全部手にしちゃったら、向上心がなくなっちゃうでしょ? だから必ず必要っていう時しか、こういう貴重なものは出せないんだよ」

「よく分からないけど、そういう決まりってこと?」

「そうそう。それでね、この腕輪だけど、結構たくさん収納できると思うんだ。こう、ポーションを持って収納したいって考えればOKだよ。出す時には取り出したいものを思い浮かべればいいからね」


 へ~。それは便利だなぁ。


「ただ何を入れていたのか忘れちゃうと、そのままになっちゃうからね。それだけ気をつけてね」

「うん、分かった。入れてたものが忘れ去られてカビカビになったら嫌だもんね」

「それはないかな~。状態保存の魔法がかかってるから。ポーションも劣化しないよ」

「それは便利!」

「でしょー。入れてみてー」

「うん」


 ポーションを手に取って腕輪に押しつけてから、収納、と心の中で言ってみる。

 すると、ポーションが手の中から消えた。


「おおっ、凄い」

「じゃあ今度は取り出してみて」

「えーっと、ポーションはどこかなぁ。あ、出てきた」


 まるで手品のように、手の上にポーションが現れる。

 手品じゃない、魔法だ。


 うわぁ。魔法、すごおおおおおおおい!

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