第3話 守護者のコッコさん
目の前に広がるのは庭というより、かなり広い庭園だった。
真ん中に噴水があって、その周りを草や花が囲んでいる。少し離れた所には、果物のなった木も植えられていた。
「うわぁ。凄いね」
「界渡りの魔女の自慢の庭だからね。ここには魔法がかかっていて、収穫しても翌日にまた収穫できるようになるんだ」
「それって、取り放題ってこと?」
「うん。それに水やりも必要ないから、注意するのは――」
そこでオコジョさんが言葉を切った。
「メイ、走って!」
「えっ」
とまどっていると、後ろから何かに押された。
そのまま地面に突っ伏して、背中をさらにドンドンと叩かれる。
……というか、踏まれてる?
恐る恐る振り返るとそこには怒れる目つきの悪いニワトリがいた。
「ニ、ニワトリ?」
「コケーッ!」
立派なトサカの雄鶏は、更にゲシゲシと足を踏み鳴らす。
「痛い、痛いよ! オコジョさん助けて!」
でも前を見ると、どこにもオコジョさんの姿はない。
えええーっ。
もしかして、見捨てられた?
「ひどいよ……」
そう呟いた時、キラリと光るものがこっちへ飛んできた。
「コケーッ」
背中に乗っていたニワトリがジャンプしてそれをくわえる。
そして私の背中の上でムシャムシャと食べ始めた。
ちょっと待って。どうなってるの?
「ごめんごめん。コッコさんのお腹が減り過ぎて凶暴になってたみたいだ。この金の実をあげれば大人しくなるから、覚えておいてね」
「そういうのは早く言ってよぉ」
「でもボクもコッコさんとは初対面なんだよ。初めまして、コッコさん」
オコジョさんがお辞儀をすると、コッコさんも「コケッ」と挨拶をした。
そしてまた私の背中をゲシゲシと踏みつける。
「いたたたた」
痛いよー! 金の実をあげたら大人しくなるんじゃないの?
「あっ、コッコさんは礼儀にうるさいらしいから、メイもちゃんと挨拶してね」
「それも早く言ってよー」
コッコさんは相変わらず背中を踏んでいる。
「コッコさん、私、メイって言います。よろしくお願いします!」
踏まれてうつ伏せのまま叫ぶ。
すると背中の重みが消えて「コッコッコ」と鳴くニワトリが私の顔の前に来た。
三白眼のニワトリなんて初めて見たよ……。
「あ、メイからこれをあげるといいよ」
「ありがと」
オコジョさんがくれた金の実を、コッコさんに捧げる。
コッコさんはパカッと黄色いクチバシを開けてその実を食べた。
……一瞬、食べられちゃうかと思った。
ニワトリなのに、迫力ありすぎだよ。
「コケコッコー!」
コッコさんは胸をふくらませて、大きな声で鳴いた。
ぎゃあ。鼓膜が破れそう。
耳が痛くなって押さえていると、コッコさんは満足そうに羽(は)繕(づくろ)いを始めた。
「仲良くなって良かったね~」
オコジョさんがのほほんと言う。
そ、そうか。これってご機嫌な鳴き声なのね。
とりあえずこれ以上の攻撃はされないみたいで良かった。
よろよろと立ち上がると、オコジョさんが私の肩に乗った。
「なんだか疲れてるみたいだね。……あっ、そうだ。練習がてらポーションを作ったらどうかな」
ポーションの作り方って確かもらった本に書いてあったよね。えーっと、水とヒール草がいるんだっけ。
「いいけど……ヒール草ってここにあるの?」
「もちろん。あ、そうそう。あの噴水の隣にはえてるのが金の実をつける木だから、収穫する時には必ず一個は残すようにしてね。そうしないとコッコさんが怒り狂うから」
それは怖い。絶対に忘れないようにしなくちゃ。
私はブンブンと首を縦に振った。
「それでね、ヒール草はこっちだよ」
オコジョさんの指さす方は家のすぐ側だった。
「この丸い葉っぱを十枚くらい摘んでね」
丸い葉っぱの草は、一見すると雑草みたいだった。一枚摘んで匂いを嗅いでみると、ちょっとミントっぽい匂いがする。
「これを水と一緒に錬金釜で混ぜるんだよね?」
「そうそう。簡単だから、すぐに作れると思うよ」
オコジョさんに太鼓判を押された私は、ヒール草を持って家に戻る。なぜかコッコさんも一緒だ。
もしかして錬金の才能があるかどうかチェックするために来たんだったりして。
が、がんばろう。
私はテーブルの上に置かれた錬金釜にヒール草と水を入れて、かき混ぜ用の棒でぐるぐるとかき混ぜていった。
葉っぱのまんま混ぜてもポーションってできるのかな。
なんとなく、葉っぱを粉状にするとかお湯で茹でてエキスを出して作るようなイメージだけど。
「あ……。色が変わってきた」
そして葉っぱがどんどん溶けていく。
「かき混ぜる時の抵抗がなくなったら完成だよ。そう、上手上手。さすが界渡りの魔女の後継者だ」
界渡りの魔女かぁ。
どんな人だったんだろう。
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