第2話 導き手

 心の中で叫んでいると、目の前の手紙が少しずつ丸まっていった。


「どうなってるの?」


 そしてそれは丸い玉になり、ポンっと音がして――


「……え?」

「こんにちは。ボクは君の導き手だよ。君の名前を教えてくれるかな?」

「……えーっ!?」


 待って。どうして手紙が動物になるの?

 もしかしてこれは魔法?


 っていうか、私、死んじゃって魔法のある世界で復活したの?


 意味分かんないけど、どういうことー!?


「もう一度聞くけど、君の名前は?」

「め……

「メイちゃんか~。いい名前だね。えっとね、ボクの名前は……ああ、まだついてなかった。だって今生まれたばっかりだもんね。えへへへへ」


 シュールだ。フェレットが喋ってる。

 顔が小さくて胴が長いからフェレットだと思うけど……。


 でもフェレットって確かもうちょっと大きいよね。この子は多分15センチくらいしかないし白いから、どっちかって言うと。


「オコジョ……?」

「分かった! ボクの名前はオコジョだね。メイ、これからよろしくね」


 あああああああ。

 オコジョって名前になっちゃったよぉぉぉ。


「あ、いや。オコジョっていうのは動物の種類で名前じゃなくて」

「そうなの? でもこの世界にはオコジョって動物はいないから、名前として認識されちゃったよ。だからボクの名前はオコジョだよ。よろしくー!」


 真っ白なオコジョが嬉しそうに笑った。小さな手がちょんと差し出されたので、その手を握って握手する。


「あ、うん。よろしく」


 思わずうっかり握手したけど、相手はオコジョだ。

 うーん。


「ところでメイは錬金は得意?」

「錬金って何?」

「ありゃ。そこからかぁ。……大丈夫かな、ちゃんと箱庭の後継者になれるのかな。素質がないと呼ばれないんだから、大丈夫だよね、きっと」


 短い手を組んでウンウンと頷くオコジョさんは「錬金っていうのはね」と説明してくれた。


「簡単に言うと、素材と素材を組み合わせて錬金釜に入れて、全く別の物を作ることを言うんだ。最初は簡単なものしか作れないけど、どんどん作っていくうちに、色んなものを作れるようになるよ」


 そして、はい、と手渡されたのは青い表紙の本だ。


「これを見てごらん」


 ページをめくると、錬金の素材と組み合わせが書かれていた。


 えーっと、なになに。


≪ポーションの作り方≫


 ポーションって、怪我とか治すやつだよね。さすがにそれは私でも知ってる。

 作り方は、と。


≪ヒール草と水を合わせる≫


 おお、思ったよりも簡単だった。これならすぐにポーションを作れそう。


「錬金釜はこれだよ」


 オコジョさんはそう言って、何もない空中から本に続いて黒に金色の模様が入った釜を取り出した。

 ……本といい、錬金釜といい、一体どこから出したんだろうか。謎だ。


「あっ、そうだ。錬金を始める前に、テーブルが必要だよね。メイはファンシーとモノクロとナチュラルのうち、どれがいい?」


 えっ。それってテーブルを出してくれるってことかな。

 その三つのうちのどれかなら、やっぱりナチュラルな感じのテーブルがいいよね。


「ナチュラルで」

「オッケー」


 軽い返事をしたオコジョさんは、またもや空中から何かを取り出した。


 テーブルかな、と思ったらそれだけじゃなかった。ベッドやイスやキッチンなど、生活に必要そうな家具や設備がどんどん部屋の中に配置されてゆく。


 そしてあっという間にナチュラルな家具の揃ったワンルームのお部屋が出来上がっていた。


「これは君の世界の部屋を模しているんだ。気に入ったかな?」


 まるで雑誌に出てくるような素敵な部屋に、思わずため息がもれた。


「素敵……」

「うん。気にいってくれたみたいだね。じゃあ外に出ようか。箱庭を案内するよ」

「……!」


 なんと、くるんと後ろを向いたオコジョさんの背中に白い羽があった。

 かっ、かわいいっ。


 羽の付け根をモフモフしたいっ。

 というかむしろ、全身をモフモフさせて頂きたいっ。


 そんな私のヨコシマな思いを知る由もなく、オコジョさんはパタパタと可愛らしくドアへ向かって飛んで行く。

 私はその後を追って、ドアの外へと一歩を踏み出した。

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