異世界でゆるっとふわっとアトリエ生活 メイともふもふの箱庭
彩戸ゆめ
第一章 異世界でゆるっとふわっとアトリエ生活始めます
第1話 始まりのお話
あ、死んだ。
やっぱり台風直撃の駅の階段で、一段抜かしなんてするんじゃなかった。
でも、このコンサートは絶対行きたかったんだもん。チケットをゲットする為に何度もネットで応募して。
元々人気のあるグループだったけど、映画の主題歌が爆発的にヒットしてから更にチケットが取り辛くなったんだよね。
だからコンサートに向かうべく、スキップして階段を登ってたんだけど。
うん。大雨の滝のように雨水が流れてる階段で浮かれちゃダメだった。
ズルッって滑ったと思ったら。景色がスローモーションで流れた。
聞こえてくる電車の音と、雨の音と悲鳴と。
仰向けに落ちていく私の頭が固いものにぶつかった感触がした。
ああ、コンサート。行きたかったな……。
そう思いながら、目を閉じた。
どこかで、何かが鳴いている音がする。
う~ん。これはニワトリかな。
コケコッコーって凄く元気な声で鳴いてる。
あれ? でも私コンサートに行く予定だったよね。
そうそう。それで階段から滑って落ちて……。
私はパッと目を見開いた。
目に映るのは明るい光。外じゃなくて……部屋?
って事は、なんとか助かった……のかな。それでもって、病院に運ばれたとか。
いやでも、思いっきり階段から落ちて頭ぶつけてたけど。
生きてるのはいいとして、体は動くのかな。
そっと指に力を入れてみる。
うん。両方とも動く。
その手をそーっと目の前に持ってくる。
足……も、動くみたい。
首は……と思ってあたりを見回すと、ガランとした部屋が見えた。家具どころかカーテンすらない。
……どう見ても、病院じゃない。ここ、どこ?
頭を打ってるから慎重に起き上がってみる。
クラクラ……は、してないみたい。
でも凄い勢いで階段から落ちたはずなのに、無傷なんて事あるのかな。
その時また、窓の外からニワトリの鳴き声が聞こえてきた。
窓の外には青い空と木が見える。
本当に、ここ、どこやねん。
はっ。驚きのあまり大阪弁になってしまった。大阪人じゃないけど、この衝撃を表すには大阪弁じゃないと。
……って、それどころじゃなーい! 一体どうなってるの!?
キョロキョロと見回した私は、体の横に手紙が置いてあるのに気がついた。
恐る恐る手に取ると、そこに書いてあった言葉にびっくりする。
だって、そこには『この家で目覚めた見知らぬあなたへ』って書いてあったから。
『この家で目覚めた見知らぬあなたへ
初めまして。私は界渡りの魔女です。いきなり知らない所で目覚めてびっくりしたでしょう?
ごめんなさいね。私がその場にいて説明できたら良かったんだけど、すぐにでも旅立ちたかったから、お手紙を残すことにするわね。
まず最初に。
あなたは元の場所では、残念ながらもう亡くなっています。ここへは魂だけが来た、と言っていいのかしら。
私が召喚した条件は『魂が離れる寸前であること』『この家を受け継ぐための錬金術の適性を持っていること』『この世界に敵意を持たないこと』の三つなの。だからその条件に合ったあなたは、もう元の場所へは帰れない。
あなたを私のわがままでこの家に連れてきてしまってごめんなさい。
でもせっかく作ったこの箱庭を残しておきたかったの。
私が旅立つのは、こことは異なる世界。……そうね、分かりやすく異世界と言った方がいいかしら。
ふふ。異世界なんて本当にあるのかって疑ってるかしら。
でも本当にあるのよ。私はそうやって色んな世界を旅してきたから。
この世界にもそうやって旅してきたんだけど、思いのほか居心地が良くて長居してしまったわ。
あなたにはここで快適に暮らせるように、錬金術を使うための導き手を残しておくわね。
箱庭を守る守護者と共に、あなたの力になるでしょう。
守護者のコッコは少し気難しいところのある子だけれど、箱庭にある好物の黄金の実をあげれば大丈夫よ。
何か分からないことがあれば導き手に聞くといいわ。
それからあなたをここに呼ぶにあたってなるべく元の姿のままにしたのだけれど、感情を揺さぶられるような記憶に関しては消去させてもらったわ。そうしないと魂に傷がついてしまって呼べなくなってしまうの。
事後承諾でごめんなさいね。
それではあなたのこれからの生活が幸多きものであることを祈って。
見知らぬあなたへ、愛をこめて
界渡りの魔女より』
ちょっと待って。界渡りの魔女って誰?
魔女とか錬金とか、一体どういうこと?
誰か……。
誰か説明してー!
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