代用可能 新しい〇〇

倦んでいた。

いつものように階段をおりる。リビングテーブルに残っている昨日の夕食を食べる。

いつものように身支度を整え、いつもの電車、いつもの通勤路、いつもの仕事。

業務連絡程度の会話を二つ三つ、時間になったら仕事道具を片付けて退社。

後は朝の逆回し。

職場の同僚はいいやつもいれば嫌なやつもいる。時たまルーティンワークに雑談と飲み会が加わって、適度にはしゃぐ。家に帰ってきて酔い覚ましをのみ、シャワーを浴びて寝る。また朝。いつもの。

さみしいわけでも、行き詰っているわけではない。これが平穏な一般的生活というものだろう。


これはだめだな、と彼は思った。

ほどよく健康的、ほどよく煮詰まった日々に、彼は飽きている。


スマホのアドレス帳を全部削除してポケットに入れた。

こざっぱりした服に着替えて、原付を隣県まで走らせる。駅近くのアパートも良かったが、今度は閑静な住宅街というのもいいんじゃないか?


静かな昼間、うすいピンクの壁が剥げかかった一軒家をみつける。庭に面した窓から入り、キッチンに居た女を殴殺する。二階に上がって子供を二人、黙らせる。

冷蔵庫には朝食の残り物らしいハンバーグがあったので、しめたものだと平らげる。その夜、帰ってきた男を風呂場で眠らせた。やれやれ。


片付けるのは明日にしよう、と彼は寝室に入って寝転がる。

見知らぬものたちの匂いがする。真新しい生活の匂いだ。


朝、彼は身支度を整える。名刺とスケジュール帳を確認し、会社と通勤路と場所を確認する。

清々しい朝だった。なにもかもが新鮮だった。

いつかまた新鮮味も薄れてくるだろうが、それまでは問題ない。置換可能な一般的生活を楽しもうではないか。

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