第7話狂気と産声と過ち

 「横文字をふんだんに使って、スタイッリシュを目指して……、『All the troubles』とかどうだ」

 「俺らがすべての元凶みたいだな」

 「加勢と火星を掛けて……、『マーズい問題に加勢』とかどうですか?」

 「大気圏をブレイクスルーして、もはや本質を忘れていないかい」

 「逆に情緒的に……、『明けぬ夜に光芒』とかどうでしょう」

 「もはや何の部活か分からんな、怪しさがジャックポット級だ」

 「ここはやはり、直球で心に訴えかけるように……、『助けてやる!』とかどうだ」

 「愚直な不器用さが爆発してますね。こんなんアホしか寄ってこないですよ」

 「いやいや……、『君と紡ぐ、学園物語』とかはどうだ」

 「シンプルにダサい」


 そして、二時間後、ようやく決着が付いた。

 皆の顔は晴れ晴れと輝き、手に付いたインクの汚れが誇らしく滲んでいた。絞り尽くした頭には感性という二文字が染みわたり、ガッツポーズをとる者もいる。

 そして、俺らの眼前のホワイトボードには。

 『Youが望む鬱牢が先の光芒』という文字が、凛と、君臨していた。

 誰もが手塩をかけて端正に育て、手前味噌ながら、どこに出しても恥ずかしくない最高傑作だと確信していた。

 二時間という、長きに渡る戦い。

 敗者はいない。あるのはただ、栄光と誇りのみ。

 しかし、戦いは終わったのではない。

 これから続くは、この看板を背負い続ける、血風吹きすさび雷光暴れ廻る鉄火場である。

 しかして、戦いは終わったのである。

 今はただ、束の間の永遠を享受し、凱旋の歌を白々明けの空に響かせる。

俺らは、拳を突き合わせた。

 その行為はさながら、剣と剣を突き合わせる兵士の讃え合い。暁の戦場に指す、日の光に溶ける絆。

 俺らは、口々に互いの健闘を称賛し合った。

 それはまるで、友の旅立ちを祝福する号砲のカプリッチョ。昼も夜もなく、ただ踊り狂うような喝采。

 俺らはきっと、この日を、この瞬間を、忘れない。

 今日から続いていくのだ。俺らの伝説が。

 この記念日に打ち立てられた、このホワイトボードこそが記念碑。

 俺らの部活は今日、改めて、産声を上げた。

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