第7話 勘違いじゃね?
春風そよぐ うららかな昼下がり~
春の人事移動の通達を受け、ある中学校で離任式が始まろうとしていた。
生徒たちに教えてきた教師たちも転勤が決まりお別れのあいさつが。
若い女性教師
「・・・という事で短い挨拶でしたけど、私はあなたたちの事は
他の学校へ行っても忘れません!有り難う御座いました(涙)」
生徒たち
「せんせ、やだよ、もっと居なよ、短か過ぎ・・・(涙)」
「そ~だよ、オレたちのアイドルだったのによ~(涙)」
続いて教頭先生が
「山田さん、ほんの一言でいいですから・ね」
最後の順番の離任職員の山田さん
「え~、ただ今ご紹介に預かりまして・・・君たちと共に過ごした
貴重な日々、とっても、有意義に仕事に励むことが出来て・・・」
父兄ママさんたち
「えっ誰あの人?あんな先生居たぁ?」
「知らないし、赴任したばかりだったりして?プフ」
山田さん
「まあその、私もアタマの出来が悪くて、家庭の事情もあり3流大学
でしたが、一応成績トップで首席卒業して、当時の花形産業だった
銀行も25倍の難関を突破し、男子は6人のみ、私以外は慶応、
早稲田、明治、国立も一人・・・私は肩を並べました・・・」
父兄たちのざわめき
「なにアレ、自分の身の上話しとか自慢ばっかじゃね、普通する?」
「しないっしょ、この席で!空気読めないの?浮いてるぅ~(呆)」
山田さん
「・・・てな訳でして、私が一番君たちに言いたい事はですね・・・」
教頭先生、貧乏揺すりを始める「む・む・む・む・・・」
学年主任が小声で「なに言ってんだか?ほんまに」と不機嫌に呟く。
生徒たちも「長過ぎ、何あいつ」「可笑し過ぎっしょ」「ポンツク」
山田さん
「君たちがもし進路に迷った時は必ず誰かに相談しなさい!ご両親や
先生方に!決して独りで決めないように・・・解かりましたね・・
では短い挨拶でしたが惜春の想い冷めやらず、君たちと過ごせた
半年間は決して忘れぬ、私の人生の1ページを刻むでしょう(涙)」
父兄ママさんたち
「えっ半年?短か過ぎっしょ、何それ」
「何の教科を教えてたのかしら?顔も知らないし」
壇上を悠々と降りてきた山田さんに教頭先生が詰め寄ってきて、
「や、山田さん、ほんの一言だけでいいんですよ、君は、よ・・・」
と言いかけた時、お局さん的存在のコワモテ女性教師が叫んだ!
「”用務員”のくせに教師より長い挨拶してどうすんの、アンタ!」
山田さん「へっ?あっ?いえ・・・」硬直状態で直立不動に固まる。
父兄ママさんたちもどよめき出す。
「よ、用務員?えーー?」「ちょっとお~、勘弁してぇー」
「髪も薄いしテンパってガチに教師気分に浸りたかったんじゃね?」
「やだね~」「そだね~」「なに気取って、恥ずかし過ぎっしょ!」
硬直状態から溶解し、恥ずかしさの余り居た堪れなくなった山田さん
「お、お邪魔さまでし、ったぁぁ~~」スタスタ、ヒョコヒョコ~
一同参席舎が笑い出す~
「おいおい、両手と両足互い違いに・・・欽ちゃんじゃね」(大爆笑)
赤面し冷や汗を掻きながら卒業式会場の体育館を一目散に逃げ出した
山田さんだったが、直ぐに開き直り校舎に背を向け歩き出した。
「ふっ、まいっか、やっぱ学校っていいよな、もっと居たかったな」
ふと、何人かの女子生徒らが体育館の出口からそわそわ出て来て、
「山田さあ~ん、頑張ってえ~!」掛け声を掛けながら手を振った。
「おう、君たちも元気でな!ありがとう・・・」
少しだけ振り向いた山田さんの目から涙がこぼれていた。
女子生徒たち
「ねえ、見たぁ、山田さんの顔」
「うん、目がうるうるしてたよねぇ~」
「山田さん、前に言ってたんだ、本当は教師になりたかったって」
「なんか、超、可哀想~」
「でもアタシさあ、ああは成りたくないよねえ~」
「だよね~~」
「でもさ、山田さん、いつもアタシたちに声掛けてくれてさ~」
「うん、優しかったよね~、ウチのダメ教師たちと違ってねぇ」
その時、山田さんの片耳がピクンと僅かに動いたように見えた。
山田さんは女子生徒たちの密やかな会話が聞こえたのだろうか?
たぶん、きっと・・・
でも山田さんは、それが聞こえていなかったかのように、再び
校舎に背を向けると静かにそっと手を振りながら去って行った。
それを見て女子生徒たちはもう何も言わなくなっていた・・・
一人か二人か、女子生徒たちの目にきらりと光るものが見えた。
春風そよぐ うららかな昼下がり~
満開に咲いている桜の花びらが春の陽ざしに煌めきながら、
ちらほらと舞い降りていた~
まるで山田さんの後ろ姿を優しく隠すかのように・・・。
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