第5話 最果ての市場
第5話 最果ての市場 上
草原を駆け抜けると、言われていたとおり森の入り口が見え始めた。
二人はその手前で一夜を明かした後、中へと入った。
始めはまばらだったものの、着々とその濃さを増していく緑。
いつしかそれは、密林と呼ぶにふさわしい様相となった。
道は細くなり蛇行しては、茂みに遮られることさえあるなど険しい。
また、暗くもある。
背の高い木々や蔦の枝葉が厚みある天蓋を織り成し、月光を遮ったのだ。
それでも何とか進めたのは、ナイトウォーカーのライトだけでなく、生物と水晶による所が大きかった。
密林にはちらほらと、柔らかな暖色の光を放つ虫達がいた。
小さな陸棲の蛍や、羽ばたきに合わせて明滅して舞う蝶。
彼らの放つ光がシダやモンステラの合間に無造作に置かれた、濁りなき六角柱の集まりを透過し、または反射し、いたるところを照らし出す。
ゆっくりと二人がその歩を進めるごとに、虫達が儚く揺らめく度に、世界がその色と形を変える。
それはまるで万華鏡のようだったが、一度として同じ模様を見せない点と、息づく森の実体感がそのメタファーを打ち消した。
何かが飛び立つ音。枝葉が擦れる騒めき。暗闇に光る眼と、照らし出されて見えるその持ち主の姿。むせ返る程の草木の芳香。虫の声、鳥の声、獣の轟き。
そしてふいに訪れる漆黒と無音。
幻想でありながら、どこまでも現実。
そんな幽玄の世界において、二人に時間と距離の感覚はなかった。
あったのは心身が清められる畏怖と、自分の内部に潜り込んでいくような意識だけ。
――この先に待つ大きな試練。その困難の前触れが、二人を包み込んでいた。
唐突に、大地がその口を開いた。
地面が大きく隆起して出来た空洞が、道を飲み込んでいる。
縦に十メートル、横はその倍近くあるだろうか。
二人はそこでバイクを止め、ヘッドライトで中を探る。
全くもって見通しは利かないが、洞窟がその広さを保ったまま、地下へと沈んでいっていることはわかった。
道も続いている。階段という形を取って。
アリッサはナイトウォーカーを箒として握り、柄先のライトでもって先を照らしながら一段ずつ下って行った。
じき階段が道に姿を戻した。
下りは思いの外短かったのだ。
二人はまたバイクに跨り、慎重に進む。
道は全く狭まらず、一切の蛇行もない。
おかげで、暗闇の中でも迷わずに済んだ。
どれほど進んだ頃だろうか、ふいに道の先に光芒が射した。
気付いた二人は、少しだけスピードを上げる。
そして今、眩い光の中に飛び込み――二人は言葉を失った。
そこはまだ洞窟の中だった。
直径百メートル近い半球の間。
その天井に巨大な、あまねく紫の輝き。
よく見るとそれはいくつもの面に切り出された、錐状の結晶塊だった。
おそらくはアメジストだが、先程の光芒はこれによるものだったのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
二人を驚愕させたのはその真下。
アメジストよりもずっと大きな、全長三十メートルはあろうかという――
「ドッ、ドラゴン……!?」
龍だった。
アメジストと全く同じ紫をした鱗の連なり。三本の太く湾曲したかぎ爪。
返しのついた細長い尾。肩口に覗く畳まれた大きな翼。
後頭部に生えた二本の角。黄色い眼。
龍は、その大きく見開かれた眼で、二人を見据えている。
そして大きく息を吸い――
「ヴォアァァァァァーーーーー!!!!」
大地を震わす、咆哮をした。
「うぅっ…………!」
「ぐぁぁっ…………!」
アリッサもジローも、龍の放つ重低音に腰が抜けて、逃げることすらできない。
ただ体を丸めて顔を伏せ、両手で両耳を塞ぎ、その圧力に耐える。
十秒経っても、二十秒経っても鳴りやまない。
この大きな空間いっぱいに反響して、様々な角度から二人を襲う。
「ァァァァーーーーー、ふふっ…………あーっはっはっはっはっは!」
しかし、途中から何やら圧力が弱まったのに気付き、ちらと龍を伺う。
すると口をめいっぱい広げ、高らかに笑っているではないか。
「あっはっはっは!うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
二人は全くもって訳がわからず、茫然とそれを見続けた。
やっと笑いが収まる頃には、すでに二、三分は経っていたかもしれない。
「いやー、笑った笑った。千年分は笑ったわ」
眼から溢れる涙を手で拭う龍。
軽薄な声と言葉が、ホールに響き渡る。
「まさかヴォアーーで来るとは思わないっしょ?どんだけステレオタイプなドラゴンだよ。今時そんな奴見たことねえって、なぁ?」
「は…………はぁ?」
依然としてものも言えないアリッサの後ろで、ジローが呆れた声を上げる。
「いやー、わりぃわりぃ。ちぃと気合入れすぎちまったかな?
さっきまでここでちょっくら寝てたのよ。まあ、百年くらい?
そしたら急に人間の匂いがしてなぁ。びっくらこいたのはむしろこっちって訳よ。
――ははっ、そうビビんなって。別に取って食ったりしねぇよ。
お前らマズそうだし。そもそも俺、魔力しか食わねぇし」
そう言ってアメジストに手を伸ばし、ひとかけ折ってバリバリ噛み砕く。
「俺はシリュウ。紫の龍だからシリュウ。ここのところは、そう名乗ってる。
そんでお前らは――アリッサとジローね、了解」
彼は目を少し細めただけで二人の名を把握したようだった。
「なんか意味わかんねぇけど、悪い奴じゃあない、のか……?」
声を潜めてそう尋ねてくるのはジロー。
アリッサはそれに首をかしげて応える。
「アリッサ、ジロー、よくぞここまで来た!
あとはこの先の階段を登っていけば、すぐにメルカートだぜ!」
龍が手を打ち鳴らして祝福する。
「あの……あなたが試練、じゃないんですか?」
あまりの拍子抜けに、アリッサが口を開く。
「俺が試練?巷じゃそう言われてる感じ?
ないない。そんな大層なもんじゃねえって。
さしづめ、面接官ってのが妥当なラインだな」
右手を顔の前で二回振って笑うシリュウ。
「面接、ですか」
「ああ。面接だ、面接。面接、しようと思ったんだがなぁ……。
お前ら、ちぃと若すぎやしねぇか?」
今度は表情を訝しげに歪めて、龍は続ける。
「その年でここまで来れたのは素直にすげぇことだ。俺も驚いた。
きっとお前らの若さというか、純粋さがあいつらにウケたんだろうな。
確かに、純粋ってのは、いいもんだ。真っすぐで、穢れがねぇ。
このアメジストとおんなじで。
ただな、じゃあそれだけで正しい判断ができるかって言うと、そうでもない。
純粋さには、物事の向きってもんは備わっていないからな。
全くもって見当違いな方向にだって、疑うことなく真っすぐ進めちまう。
しかも、そこに悪意がねぇから、なおさらタチが悪い」
シリュウの抽象的で的を得ない発言。
口調は一貫して軽いままだが、その内容は一気にシリアスさを増している。
二人は突然の変調にうまく付いて行けず、またも黙って彼を見つめる。
「うーん、どうしよっかなぁ……。
若いフレッシュな力を信じるか、もうちょい待ってみるか……」
首を捻って俯き、顎に手を当てて真剣に思案するシリュウ。
じっと見守る二人。
そのうち、あることに気付いた。
龍はなぜだか時折、指の隙間から右の眼を半開きにしては、こちらをちらと伺って来ているということに。
「……?どうしたんだろう……?」
「…………さぁ?」
「惜しいなあ……。あと一押しなんだけども。
何かあと一押しあればお前らに決めるんだけども……」
彼はまだまだ決めきれないようで、ああでもないこうでもないと唸る。
ちらちらと、こちらを伺うことも忘れずに。
戸惑うアリッサ。
その時ふいに、ジローがあっ、と声を上げた。
「おい、もしかしてこれ、何か貢ぎ物が必要とかそういう話なんじゃねぇのか?」
「えっ?そうなのかな……?」
「きっとそうに違えねぇぜ。ほら、見てみろ。――あの眼は何かやましいことを期待している眼だ。俺にはわかる」
そんなこと全く想像もしていなかったアリッサは、ジローの言葉を疑わしく思った。
しかしあの龍の胡散臭さを鑑みるに、結局やってみる価値はあると判断した。
それでようやくバイクを降り、荷台の中に探りを入れる。
「でもあげられるものなんて、一応持ってきた貴金属の類しか……」
「無いよりマシだ。聞いてみろ」
「ちょっと、発案はジローでしょ?あなたが聞いてよ」
「バカ野郎、龍ときたら若い女!昔から相場で決まってんの!さぁ行った行った!」
そう言って後ろに回り込みアリッサを押し出すジロー。
「はぁ…………」
ため息を深く吐いて従うアリッサの顔には、もうどうにでもなれ、という諦めの感があった。
「シリュウさん。えっと…………いつも、お疲れ様です?」
十歩程度前に歩み出て、龍に声をかける。
まだ二十メートル程度は距離があるが、あまりの圧力にアリッサの産毛が粟立つ。
「ああ、なんのなんの。これも役目ですからね。ええ」
左手で頭を掻きながら、大げさに恐縮する龍。
アリッサは湧き上がる緊張と羞恥を抑えて続ける。
「それで、そんな頑張ってるシリュウさんにお土産……じゃないんですけど、何かお渡しできたらいいなと思って……」
「えぇ!?そんな、受け取れませんよぉ!」
言葉に反して口端をニンマリと吊り上げる彼を見て、アリッサはジローの推察の正しさを確信した。
賄賂染みたやり方に嫌気は射すが、これも果てに行くためだと思い我慢する。
「いやいや、本当、ちょっとしたものなんで。受け取っておいてください。
それで肝心のモノなんですけど、こういうのはどうです?
同じようなものが向こうにまだまだあって……それ全部あげますから」
後ろ手に隠していたダイヤや金貨を合わせた掌に載せ、差し出す。
しかし、シリュウはそれに渋い顔をする。
「あー、それはいらないかなぁ。うん」
「……そうですか」
断られたが、アリッサはまだ引かない。
シリュウがこちらから何かを引き出そうとしていることには確信があった。
彼女はなんだかまだるっこしくなって、自ら尋ねてしまうことにした。
「じゃあ、何か欲しいものを言ってみてください。そしたら持ってるか確認してみますから」
「えっ?悪いなぁ……。じゃあ食い物!食い物がいいかな!」
顔を上げたシリュウの顔からはすでに興奮の色が見える。
「食い物ってことは……」
「そう。魔力な!さっきも言ったけど俺、魔力の籠ったもんしか食わないから。
魔力が入ってさえいればなーんでも食えるから。こいつみたいに」
天井の結晶を指さして快活に言う彼に対し、今度はアリッサが渋る。
「あー……。でも私、魔力の籠ったものなんて持ってなくって……」
それを聞いたシリュウは、なぜだかあんぐり口を開けて驚く。
「いやいやいやいや!持ってるよ?君。すんごいいいもの持ってるよ?」
「え?どこにですか?」
アリッサには全く心当たりがない。
バイクを振り返りジローを見やるも、やはり彼にもわからないようだ。
「ほら、あるじゃん!そのローブの内側だよ!
それ捧げてくれれば、ガンガン面接しちゃうから!」
こちらもじれったくなったのか、直接的に願望をさらけ出す。
だがアリッサはすぐには意味するところがわからず、時間をかけて咀嚼していく。
ローブの内側……?服の中……?捧げる……?
そして彼女はある考えに行き着き、思わずはっ、と息を飲む。
みるみるとその顔が紅潮していく。
「とっ、突然何言い出すんですか!?この、変態!!」
「うわぁ、さすがに引くわぁ……。何歳離れてると思ってんだよ……」
想定外の誹りに困惑するシリュウ。
慌てて再度言葉を紡ぐ。
「はぁ?何ってだから、お前のローブの中にあるものが欲しいってだけだけど?」
「だから!――そっ、それってつまり、私のかっ、体が欲しいって……!」
「…………ロリコンドラゴン」
ようやく全てを理解したシリュウ。
今度は彼が顔を赤らめる番だった。
「ばっ、違ぇよ!何勘違いしてんだおめぇら!
ローブの内側のポケットに入ってるだろうが!変な紙切れみたいのがさぁ!
それがすんごい魔力放ってて、こっからでも丸見えなの!
俺が言ってんのはそれのことだよ!」
「えっ、紙切れ?……ってこれのことですか?」
アリッサは言われた通りに内ポケットに手を入れ、あるものを取り出す。
それはポラリスに手渡された招待状だった。
怪訝な顔で舐めるように見回すも、彼女には一切魔力を感じられない。
「うおぉ、それそれ!やべぇ、すんげぇうまそう!くれ!」
もう涎も止まらぬといった形相で、じりじりと迫ってくる龍。
それに対してアリッサは――
「いやです」
「なんでっ!?」
バッサリと断った。
「大切な人からのもらい物ですから」
「でも、それくれないと通さないよ?」
「いやです」
アリッサは頑として譲らない。
「いやだから、それ決めるのは俺の方で……」
「いやです。何でもいいから早く通してください」
「そうだ!さっさと通せ!」
「ねぇ、君ら、何でそんな強気なの?俺、腐っても龍よ?ドラゴンよ?
そういう態度、すんげぇ傷ついちゃうんだけど……」
長い首を折り曲げ、がっくりうなだれるシリュウ。
「弱い者から強奪みたいなマネして、恥ずかしくないんですか?」
「そうだ!このセクハラ野郎!」
「…………」
そんな姿を見てか、一層強まった二人の追撃に、龍の双肩がわなわなと震える。
「ええい、うるさい!!黙って渡せばいいんだよお前らは!!」
そう言い放つと同時に勢いよく上げられた顔には、怒りの相が浮かんでいる。
シリュウは二人に掌を向けてから、手繰り寄せるように捻って握りこんだ。
すると招待状がアリッサの手元を逃れ、猛スピードで彼の方へ飛んでいく。
「ああっ、ちょっと!!」
二人が慌ててももう遅い。
シリュウは握り拳をパッと開き、指の間で器用にキャッチした。
「へっへっへっ、ざまぁみろ!人を変態よばわりした報いだ。
俺がその気になりゃあこんくらい訳ないってことよ」
「この卑怯者!」
「返せ、このデカブツ!それは姐さんがくれた大事なものなんじゃい!」
「あーあー、聞こえない聞こえない。小さすぎて聞こえない」
二人がどれだけ罵ろうと全く動じないシリュウ。
しばらくアメジストにかざすなどして目で楽しんだが、遂には上を向いて大きく口を開け、そこへ紙を落とすように入れた。
ああ、と悲鳴を上げる二人。
それをよそに龍は口を閉じ、今、咀嚼する。
「――うまい!!うますぎる!!
上品な、凝縮された魔力!こんなうまいのは三千年ぶりだ!
うおお、力がみなぎるぜ!!」
掌を上にして両腕を広げるその様は、まさに至福といった様子。
アメジストの光を受けて、一層神々しく見える。
「――でもちょっと待てよ?なんかこの魔力の感じ、俺は知ってるぞ……?」
小さな紙切れを惜しむように何度も噛みしめ、飲み下した後で、シリュウはふと我に返り、記憶を探ってみる。
「ごめんなさいポラリスさん……。私、守れませんでした……」
「うぅ、姐さん……!」
その間アリッサとジローは地に跪き、自分の無力を嘆いていた。
そしてシリュウは、小さな違和感の正体に辿り着き――
「これ、ババアの魔力の味じゃねぇか!!!!」
絶叫した。
思わず二人も彼に注目する。
「おえぇぇぇぇ!気持ち悪っ!あいつの魔力を食べるなんて、なんたる屈辱!
明日からあいつの魔力で生きながらえていくのかと思うと、死にてぇ!」
さっきまでの二人よろしく、四つん這いで地に伏せて、ガンガンと拳を叩きつける。
ぐらぐらと揺れるホール。
やはり付いて行けずに呆然とする二人。
「おい!ふざけんじゃねぇぞお前ら!俺に毒を盛りやがったな!?」
体勢はそのままに顔だけ上げて睨むシリュウ。
しかし二人はもう怯まない。
――こいつ、ひょっとしてただのバカなんじゃないか?
そういう不遜な考えの方が、すでに恐れを上回っていたからだ。
「そんなことしてませんよ。それに勝手に食べたのはあなたですし、ねぇ?」
「なぁ?」
顔を見合わせる二人。
もはやおちょくっているようにすら見える。
「このクソ共め……!さては、ババアの差し金か!談合して一杯食わせてやろうって、そういう魂胆だったんだろう!?」
「いえ、違いますけど……。まずババアって……ポラリスさんのことですか?お知り合いなんですか?」
「ああそうだ。因縁の宿敵だ。この世界に来るずうっと前から、何度あいつに痛めつけられてきたことか……!」
嫌悪感のありったけを言葉に込めるシリュウ。
まるで呪詛のようだ。
「でも、どうせあなたに非があるんでしょう?」
「そんなことはない!……確かに大本を正せばそうだが、でも今は違う!
俺は悪くない!!」
「はぁ」
「全く、大事なことは早く言え、な?ババアのお墨付きだって知ってたなら、ちょっかいかけたりしなかったわ!なんせ、関わり合いになりたくないからな!」
そう吐き捨てるように言うのを見て、アリッサは理不尽さを感じたが、それ以上に呆れ果てたので黙っていた。
「はぁ、まあいいや。もう忘れよう。忘れてさっさと面接済まして寝よう。
こういう時は寝るに限る」
シリュウはネガティブに開き直り、体を起こして二人に向き直る。
「これから、お前達がこの先に行くにふさわしいかを見定めるために、面接を行う。
それで叶えたい願いを持ってるのはどっちだ?」
「私です」
アリッサが一歩前へ出る。
「そうか。それじゃ早速その内容を聞かせてくれ、と言いたいところだがその前に、一つ話をさせてもらう」
「はい」
シリュウの言葉から真剣さを感じ取り、身構えて言葉を待つ彼女。
「メルカートではどんな願いも一つだけ叶えられる、と言えば聞こえはいいが、それは逆にどんな間違った願いでも叶えることができてしまうリスクも孕んでいる。
わかるな?」
「ええ」
そのことにはすでにアリッサも思い当たっていた。
モンクやミランダは人間を何か高尚な存在のように捉えていたが、それは楽観的すぎるというものだ。
何でも実現できる力を手に入れたいと思う人間の大半は、よからぬ事を企んでいるものだとすら彼女は思っていた。
「だから俺がここで人間の願いを確かめ、叶えてもいいかどうかを確かめてるんだ。
ちなみに、メルカートの入り口は一つしかない。他は全部潰して、街を壁で囲ったからな」
「でも、嘘をついて通ろうとする人もいるのでは?」
「その通りだ。だがそれは通用しない。俺の魔法とアメジストの前には、真実しか存在できないからな。――お前も、気を付けろよ?」
シリュウは右手の人差し指で頭上を指しながらニヤリと笑う。
「俺の話は終わりだ。
さぁ、聞かせてもらおうか、お前の願いを」
その言葉にアリッサは目を瞑り、一つ深呼吸をしてから口を開く。
「私の願いは……生き別れた両親と、もう一度会うことです」
彼女はしっかりとシリュウを見据えて言い切った。
心の中を見透かされるような、彼の冷たい視線に耐えながら。
「なぜそう願う?」
「私はこれまでずっと、両親の事なんてどうでもいいと思ってた。私には必要ないものだって。だけど、この旅で気づいたんです。
本当はいつも羨ましくて、妬ましかった。ただその感情に蓋をしているうちに、感じ取れなくなってしまっていただけで。
だから私は会います。会って、逃げ続けてきた感情に決着をつけたいんです」
勇気をもって胸の内をさらけ出すアリッサ。
その横顔を、ジローがじっと見守っている。
「会うだけでいいのか?願いの力は絶大で、際限はないんだぞ?」
シリュウが質問を重ねようと、アリッサは揺らがない。
「いえ、会うだけでいいんです。その後のことは、私が自分で決めます。
彼らが望んで私を捨てたのか、やむを得ず手放したのか、それはわかりません。
でも、ちゃんと知りたい。この目で、どんな人間か見極めたい。
そうすれば、私はやっと前に進めると思うから。
それに――」
言葉の途中で、アリッサがジローの方を振り向く。
それから柔らかな笑みを浮かべ、優しい目で見抜く。
「私にはもう、家族がいるから。上手くいかなくたって、大丈夫なんですよ」
ジローもそれに頷いて、笑い返す。
「……ああ。間違いねぇさ」
それで満足したアリッサはゆっくりとシリュウに向き直り、続ける。
「あと、これは何の根拠もない願望みたいなものなんですけど……。
少しだけ、信じてみてもいいかなって、思うんです。家族の絆って奴を。
どれだけ離れていたって、やり直せる可能性はあるんだって。
一度途切れてしまった思いも、紡ぎなおせるって。
身をもって、教えてくれた人達がいたから」
「…………なるほどねぇ」
話終えた彼女の満たされた顔を見て、シリュウは目を細めて難しい顔を浮かべたが、すぐにそれを追いやって代わりに不敵な笑みを張り付けた。
「わかった。それじゃ嘘がないか、しかと確かめさせてもらうぜ。
――よっと!」
掛け声と共にまたも手繰り寄せるように拳を作る。
すると先の招待状のようにアリッサの体が宙に浮かび、彼の元へ引き寄せられる。
「きゃあああ!!」
それは丁度シリュウの頭の上で止まった。
「いきなり何するんですか!?」
「アリッサを返せ!変態ドラゴン!」
そんな罵詈雑言の嵐を完璧に無視してアリッサをアメジストにかざし、じっくりと見回す。
「ふむ、嘘はついてないみたいだな。……まぁ、あんな臭い演説かましてくれたからには、そうだろうとは思ったが」
「臭くないです!下ろしてください!変態!」
シリュウの目と鼻の先で四肢をじたばた動かすアリッサ。しかし重心は固定されているのか微動だにしない。
「あーあー、うるせぇなお前。じっとしてろよ。
今から辿ってきたルート見て、そしたら下ろしてやっから待ってろ。
――まずは入口からすぐババアの店入って、そこからこっちに進んだわけか」
「何をうだうだ言ってるんですか!?道なりに来たに決まってるじゃないですか!」
「その後森に入って……ってなんだこりゃ?ルートが一回途切れてんじゃねぇか。
おいアリッサ、お前らエメラルドの森のあたりでなんかあったのか?」
疑いの目を受け、思い返す彼女。
「エメラルドの森で……?ああ、少し迷いはしましたけど?」
「いや、こりゃ迷うとかいうレベルじゃなく、一回人間界に戻っちまってるぜ?」
「えっ!あれ人間界だったんですか!?」
「まじかよ、めちゃくちゃなピンチだったわけか……」
驚きを隠せない二人。特にアリッサは腑に落ちず反論すらする。
「でも私達、その先でドワーフに会いましたよ?人間界にはいないはずです」
それを聞いて、今度はシリュウが驚きを隠せない。
顎をあんぐり落とし、目を見開く。
今までも何度かその顔は見たが、これほど近くで見るとすごい迫力だな、とアリッサは改めて思った。
「おっ、お前らまさか、ボルヘに会ったのか……?」
その口から思わぬ人物の名を聞いたアリッサは、嬉しくなってすぐに肯定しようとした。
しかし、先程ポラリスを悪く言われたことが重なって感じられ、態度を硬化させる。
「……はい、会いましたよ。ボルヘさんも私達の恩人ですけど、それが何か?」
「お前、ボルヘは……ボルヘって奴は……」
迫真の表情のまま、その体を震わせる龍。
これはまた怒るに違いないと思い、ぎゅっと目を瞑り待ち構えるアリッサ。
「めっちゃくちゃいい奴だよなぁ!あいつ!」
だが、その予想は裏切られた。いい方に。
「へっ?」
「なんだよお前ら、ボルヘと会ってんのかよ!全く、早く言えって大事なことは!」
そう言ってシリュウは大口を開け、今までで一番の笑みを見せる。
「俺とあいつはマブダチだよ、マブダチ。そんでもって、マブダチのダチのお前らは俺のダチでもあるってことだな。がっはっはっは!
――なぁ、あいつ、元気してたか?」
今までよりも増したマシンガントークの勢いに押されるアリッサだったが、どうやら彼は単純に旧友との縁故を楽しんでいるだけなのだろうと思われた。
それでまた胸ポケットに手を入れて、金時計を取り出す。
「これ、ボルヘさんからもらったんです。これがあれば迷わないって」
「うおぉぉぉぉ!それ、あいつが一番最初に作った金細工だよ!
うわぁ、懐かしいなぁ……!思い出すぜ、あの頃のあいつはまだまだ未熟で、気持ちばっかり先走って……ってあれ、それは今もあんま変わってないか?ははっ」
ボルヘとの思い出を語る彼の幸せそうな顔を見て、アリッサの心まで和んだ。
彼はそれからしばらく金時計を黙って見つめ、満足してから口を開いた。
「よし、さっさとルート確認しちゃうからちょっと待ってろ。
――森を抜けて、丘を越えて、湖に入って…………よし了解。もういいぜ」
集中してアリッサを見た後そう言って、シリュウはふわりと優しく彼女を元の場所に戻した。
「いやぁ、なかなかいい旅を送ってきたみたいだな。うんうん、悪くない」
「それじゃあ、合格、ですかね?」
好感触な反応に、期待を持って尋ねるアリッサ。
とうとう、その口から結果が告げられる――。
「うん。いんじゃね?別に」
「軽っ!!」
声を合わせて叫ぶ二人。
「ははっ。まあ俺も合格出したの初めてだしなぁ。
……でも、軽い気持ちで出したわけじゃあねぇぜ。これでもしっかり考えた。
その上で、お前達しかいないって、そう判断したんだよ。
ポラリスに会い、ボルヘに会い、それだけでなくいろんな経験をしてきたお前らなら、きっとうまくやれるはずさ」
そんなシリュウの信頼のまなざしを受け、ようやく喜びが二人の心に広がる。
「やったね、ジロー……!」
「あぁ。とうとう、この時が来たんだな……!」
お互いの手を取り、強く握り合う。
「へっ、まだ終わっちゃいねぇぜ、こっから先が肝心だ。
待ってろ、今扉を開けてやるからな!」
シリュウが回れ右をし、ホールの出口に向かう。
そこは彼の言うように分厚い扉で閉ざされていた。
大きさは今まで通ってきた洞窟の幅と丁度同じくらいだ。
そんな扉に相対し、手を当てていろんな方向に押したり引いたりするシリュウ。
始めはそれを温かく見守っていた二人だが、一分もかかろうかという頃合から、その顔が曇り始めた。
「あのー、シリュウさん?何やってるんですか?」
痺れを切らし、足元まで歩み寄って声を掛ける。
「いやぁ、恥ずかしながら、うまく開かなくてな。何しろ、こいつも三百年くらい動かしてなかったわけだからなぁ」
「はぁ……?」
それで二人は少し後ろから開け方を見抜こうと俯瞰する。
ふと、ジローが口を開く。
「シリュウ、鍵とか持ってないのか?」
「鍵、か…………それだ!確かにあのババア言ってたぞ!
人間が入ってきたら鍵を渡しておくから、それを使えとかなんとか。
さぁ、お前ら、何か持ってるだろ?出せ」
「いや、そんなもんもらってないけど?なぁ、アリッサ」
「うん。もらってない」
「なに?じゃああのババアが渡し忘れたのか?いや、でもあいつそういうところはしっかりしてる気がするんだよなぁ。うーん……」
唸りながら、また壁を探るシリュウ。
「あっ、あったぞ鍵穴!小さすぎて見えなかったわ。でも、なんだこの形?
横に対して縦の幅が無さすぎるだろ。こんな形の鍵見たことねぇよ。
なんかまるで、カードキーみたいな……うん、カードキー……?」
シリュウは、猛烈に嫌な予感に襲われた。
ゆっくりと振り返り、二人の顔を見る。
するとそこにはもう、今まで見たこともないような苦い表情が張り付いていた。
「なぁ、さっきの紙さぁ……あれ、ポラリスからもらったんだよね?」
「……はい」
「ってことはさぁ、もしかして俺が食ったのって……」
「その扉の鍵、でしょうね……」
重い、重い沈黙が横たわる。
そのまま、しばらくの時間が過ぎて……
「だから、は・や・く・言・え・よ!!!!」
シリュウの怒号が響いた。
「だから、あなたが勝手に食べたんでしょうが!!」
「そんな大事なもんだって知ってたら食わなかったよ!!」
「何を言っても聞く耳持たなかったじゃないですか!!」
「うわぁ~~やべぇよこれ。やべぇよぉ!!」
「なんとかしてくださいよ!あなた、誇り高きドラゴンなんでしょ!!」
「いやでもこれ、めちゃくちゃ高度な術式が彫り込まれてるから……」
「やっぱロリコンは駄目だな!」
困り果て、慌てふためく三人。
「仕方ない、今からでも戻ってポラリスさんを呼びに行くしか……」
「待て、それだけは駄目だ!!」
「じゃあ他に方法あるんですか!?」
「う~ん……」
答えられず、顎に手を当てて俯くシリュウ。
それを見た二人は、もう居ても立ってもいられずバイクの元まで駆ける。
その時あっ、と扉の方から声が響く。
「そうだそうだ!俺、扉を開ける裏技教えてもらってたんだった!!
いやぁ、やっと思い出したわ!すぐ開けるから、ちょっとそこで待ってて!」
今や入り口付近にいる二人に向かいそう言う。
ただどうにも胡散臭くて信じきれないのか、疑いの視線が彼を射抜く。
「大丈夫、心配すんなって!ちゃんとした裏技だから!」
「ちゃんとした裏技って、なんなんだろうな、アリッサ」
ジローの核心を突いた呟きが、やけに大きく聞こえた。
「ただな、この裏技だが、人に見られてるとうまく行かないんだよ!
だから、お前らはそこでむこう向いてうつ伏せになって耳塞いでろよ!」
「……わかりました。そうします」
二人はもう、彼が何を狙っているか大体わかってしまった。
ただ、それで先へ進めるのなら文句はないと判断し、従うことにした。
それで地に伏せて待つこと少々。
ドン!!という衝撃音と同時に、ボキッという音が血の気が引いてしまうほどはっきりと響いた。
「硬っ!!ふざけんじゃねぇぞ、あのババア!どんだけ硬くしてんだ!!」
次いでシリュウの悲鳴にも似た叫び声が響く。
「シ、シリュウさん!今、完全に何かが折れた音しましたけど、大丈夫ですか!?」
アリッサが急いで後ろを見やる。
そこではシリュウが右腕を抱えて丸まっていたが、それも一瞬。
すぐに背筋を伸ばし、笑顔でこちらを振り向く。
「いやなに、もう治ったから大丈夫。ほら、この通り。こういう手順だから。
自分から、折りに行ったのよ。決して、折れたってわけじゃなくてさ」
「はぁ」
その笑顔の中で、眼だけが全くもって笑っていないのを確認し、アリッサは追及は不要だと判断した。
「さぁ、まだまだ途中だから、むこう向いててくれよな!」
「……わかりました」
それでアリッサはまた地に伏せる。
しかし今度は耳を塞がず、彼の様子を伺うのに使う。
したらば何か、ぶつぶつと小さく呪文のようなものが聞こえてくるではないか。
彼女はそれに意識を傾けてみる。
「ふざけんじゃねぇぞあの野郎、俺を誰だと思ってやがる。俺はドラゴン族のエリート、シリュウ様だぞ?あんなロートルに負けてたまるかってんだよ。元はと言えばあいつのせいで俺はこんなところに追いやられてるってのによぉ…………。
ああ、マジでムカつく。ぜってぇぶっとばす。なめんじゃねぇ、なめんじゃねぇぞ。こんなもん屁でもねぇってんだよ…………」
アリッサはそっと耳を塞いだ。
何も聞かなかったことにしようと決意し、じっと待つ。
しかしその後、ドスンドスンと大きな揺れを近くで感じ、またも顔を上げて振り向く。
すると、シリュウがすぐそこまで来ているではないか。
「あの、シリュウさん。どうしてこんな遠くまで……?」
「ん?そりゃ、これも手順だからね」
またもあのアルカイックスマイルで、彼はそう言い切る。
「あっ、それなら、仕方ないですよね……」
だから彼女はもう押し黙ることしかできず、三度顔を背けて待つ。
今度はだいぶ長いこと待った。
その間、何やら魔力が一か所で膨らむような感じを覚えたり、呪文を唱えるような声を聞いたりしたが、できるだけ気にしないことにした。
それから、とうとう彼が地面を蹴ったのだろう、地面がドンと揺れた。
「はあぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
もう隠す気はあるのだろうか、という気合の入った構えの声がホールに響く。
「為せば成る!!!!」
そして今、意味不明の掛け声と共に、何かが後方で爆散した。
「きゃあああああ!!」
ドガァァンという先程とは比べ物にならないほどの衝撃波。
それと同時に、今度は二つの音が響く。
一つはブチィと何かが千切れるような音。聞きたくなかった。
けれどもう一つは、ガラガラと音を立てて何かが崩れ去る音。
「オラァ!!どんなもんだ!!お前の作ったもん、完膚なきまでに叩き潰してやったわ!!俺の勝ちじゃ!!!!」
「もう完全に趣旨変わってますよね……」
そう言いながら立ち上がり、振り返るアリッサとジロー。
そこでは、右前腕の無くなった龍が両腕を広げ、己の勝利を高らかに宣言していた。
それからシリュウによるガレキの撤去作業もひと段落し、やっとメルカートへと続く階段が姿を現した。
二人は今その前に立つ。
「シリュウさん、いろいろお世話になりました。……腕、大丈夫ですか?」
「ああ、なんてことねえよ。さすがに全快とはいかねぇが、もうこの通りピンピンしてるぜ」
あの後すぐに生えてきた右腕をさすりながらシリュウが言う。
継ぎ目を境に少しだけ色が違うが、形や動きには問題なさそうだ。
「それじゃあ私達、行きますね」
しっかりと相手の眼を見て軽くおじぎするアリッサ。
「おう。そんじゃ最後に一つ、餞別の言葉を贈ってやる」
「はい、お願いします」
シリュウはフッと小さく笑って、続ける。
「俺はさっき、試練なんて無いと言ったな」
「ええ」
「それは撤回する。試練はある。メルカートにな」
「はぁっ!?」
別れ際の思わぬどんでん返しに驚く二人。
「ははっ!まぁ、元々は本当に無かったんだけどな。お前の願いで事情が変わった」
「私の、願いで?」
「そうだ。実のところその内容を聞いた時、俺は結構迷った。
でも、いつまでも先延ばしにはできないんだろ?お前も。
だったら行っちまえよ。行って、玉砕してこい。
俺はそういうの、嫌いじゃないぜ?」
「いや、玉砕は嫌ですよ」
アリッサにはその言葉の半分も理解できなかった。
でも、信頼されていることだけは十分に伝わった。
「ははっ、冗談だ。――うまくやれよ?」
「ええ、もちろん」
そして二人は別れを済ませ、前を向いて階段を登っていく。
再びの暗闇を、柄先のライトで照らしながら。
一段ずつ、しっかり踏みしめて。
来た時の下りと同じくらい上った頃、また先に光芒が射した。
けれど先程のように歩を速めたりせず、ゆっくりと確かに上り、今、その光の中へと踏み出す。
するとそこは、夜だった。
頭上には久方ぶりの濃紺の中に、星と満月の輝き。
だがそれに見入っているような余裕は二人にはない。
より強い輝きの世界が、目の前に開かれていたから。
「やっと、着いたんだね」
「ああ」
太く、一直線に伸びるマジカルロードの両脇を彩る、無数の光の連なり。
ずっと遠く、道が細く合わさったところまで続いて果てしない。
その正体はランプ。
道沿いに隙間なく並べられた出店の軒先に吊るされたランプだった。
黄、または橙のはつらつとした光がその店内だけに留まらず、道全体をも照らし出している。
いや、よく見ればそれだけではない。
鉄パイプの骨組みの上にプラスチックのトタン板を重ねただけの、簡易な出店。
合間から奥を覗き込むと、歩道を挟んでレンガ造りの建物が並列している。
その歩道の端、つまりは出店の丁度裏手にこれまた一列に街灯が立っており、それらが放つ光も相まって道の全体が煌々と輝いていたのだ。
思わず目がくらむほどの光の渦に圧倒され立ち尽くし、もし天の川が落ちてきたらこんな感じかも知れない、などと考えるアリッサ。
目が慣れてきたのか、より細部まで見えるようになってきた。
出店はそれぞれ様々で、食器、衣類、本などから宝石まである。
もちろんどれも普通とはかけ離れたものばかり。
皿や服の柄は生きているように動き、魔導書は妖しげな魔力を放ち、宝石の色は際限なく変わる。
精巧な品々から突飛なゲテモノまでなんでもあり。
全ての店が摩訶不思議。
そんな、まさに幻想の果てと呼ぶべき夢のような景色の中に、この道で経験したあれこれを一つ、また一つと見出す二人。
目を閉じなくても、浮かんでくる。
たった今起きていることのように、ありありと描き出せる。
お互いと出会った日のこと。
マジカルロードに辿り着いた瞬間の期待感。
そこに降り立ち、しっかりとアスファルトを踏みしめた時の感触。
ナイトウォーカーを駆け、全身に風を浴びる清々しさ。
数々の困難と、乗り越えてきた自負。
ポラリスとボルヘに受けた無償の優しさ。
ミランダがくれた愛、家族。
全ての思い出が内側から自然に込み上げて来ては、移ろうような景色の中に浮かび上がり、泡のように弾け、溶けあって一つになる。
とうとう二人は、メルカートへ着いたのだった。
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