Middle

UGN

 真面目で何事にも真剣だと名高い我らが生徒会長は、「あなた達のその体、それに・・・」と呟きながらこちらを見まわしている。


「誰?」

 と、水純さんからさっきと同じ言葉が聞こえてきた。小首をかしげている彼女の周りでは、地球の引力を無視した瓦礫がふよふよと浮かび、あれだけの爆発に巻き込まれたにも関わらず怪我一つしていないようだった。

 そしてそれは俺自身も同様で、一瞬の痛みや熱さは確かに覚えているのに火傷どころかかすり傷一つない。地面を見れば粉塵は俺をよけるように散っている。まるで目の前に横たわる大木が俺を守ってくれたようだ。


「詳しい話は後。二人とも私についてきてちょうだい。」

 一人納得したらしい会長が俺たちに呼びかけてくるが、この状況に突然現れた時点でかなり警戒してしまう。

 そもそもあの爆発はなんなのか、ここだけなのか。俺たちの家の方は大丈夫なのか?

 吹き飛ばされた中に子ども連れが居たことが頭をよぎる。

「ま、待ってください!一度家に帰らせてください。こんな意味の分からない爆発があるなんて、家族も心配だし……」

「今のところ、今日爆発したのはここだけよ。近くにいなかったのなら無事なはず。ご家族は安心していいわ。」

「なんでそんなこと会長がわかるんですか!」

 焦りと混乱で怒鳴りつけたが、会長は「それが知りたいなら、来なさい。」と一言いうと歩を進めだした。

 こうなったら着いて行くほかない。妙にいらついて思わず「くそっ」と声が漏れる。

 



 連れてこられたのは、人気のないビルの一室。

 案内されるままに、テーブルをはさんでソファーに座る。

 「さて、今の気分はどうかしら?」

 「どうもなにも、何が何だか。」

 まあ少なくとも、良いわけはなかった。

 ちなみに水純さんはここまで文句ひとつ言わずに素直についてきて、俺の隣に腰を掛けている。

 「そうよね……。混乱しているだろうけど、少し話をさせてもらうわ。今から私の口から出る言葉は全て真実。落ち着いて聞いてちょうだい。」

 

 「まず、あなたたちがあの爆発で無傷な理由だけれど……それはあなたたちが発症者―オーヴァード―というものである証明よ。20年前に世界中に拡散したレネゲイドウィルスによってその能力を持ったの。今は、そうね、自分が漫画かなにかの異能力者になったと理解して。現実のことだけれどね。」

 「異能力者」という言葉に水純さんはヒーローショーに湧く子どものように目を輝かせている。俺はとても信じられずに訝しんで会長を見ていた。

 「例えば、そうね…私は血液を操る能力があるわ。」

 俺が信じられずにいたことを察したのか、そういうと会長は小さいカッターを取り出し、自らの手のひらを傷つける。すると会った時に目にしていた赤い剣がまたたく間に形成された。それはすぐに形をくずし、彼女の手に戻る。会長の手のひらには傷一つ残っていなかった。

 「は!?」

 突然の自傷行為に思わず立ち上がった俺は、目の前で起こったそれをただ茫然と見つめて、もう一度座り直すことしかできなかった。

 

 「それから、ここはどこかということね。ここはUGNという組織の地方支部。UGNはオーヴァードの人権保護、そして一般社会での生活を支援する組織よ。あなたたちがオーヴァードであるという秘密を守り、オーヴァードの力を乱用、悪用する人とは戦う組織ね。」

 何事もなかったかのように会長の話は進んでいく。

 「今回の爆発も含めて最近の爆弾魔事件、あれはオーヴァードが起こした事件なの。だから私はその調査、阻止を目的としてあそこにいたわけ。止められなかったし、あなたたちをこちら側に来させてしまったけど……」

 会長はそこで初めて表情を曇らせた。反対に言えば、そこまでのことは本当に何事もない日常で、俺たちが巻き込まれたことだけが想定外だったかのように。

 「……。」

 口を挟む事も出来ず、ただ静かに話を聞いていた。そういえば、さっきから隣もやけに静かだ。ちらりと目をやると、眼を閉じて、すやすやとゆったり呼吸している。

 もしかして……寝てる!?

 よくこの状況で寝られるな…。

 

 「心苦しいのだけれど、こちら側に来てしまったあなたたちにお願いがあるの。」

 お構いなしに話を続けていく。さすがにこの場面で寝ているなんて想像もつかないだろうし、うつむいて真剣に聞いているように見えているのかもしれない。

 「実は、他の事件で主要なメンバーはかかりきりになってしまっていて、爆破事件は率直にいうと人員不足。少し私たちUGNを手伝ってくれないかしら?」

 その言葉に俺は一度立ち上がり、会長の座っている周りをぐるっと見て回った。怪しいものは何もない。さっきの剣も仕込みではないようだった。

 そもそも会長は真面目で何事にも真剣な人なのだ。ましてや自分の学校の生徒に、冗談半分にこんなトンデモ話をするはずないのは分かっていた。

 「はぁ…、嘘じゃないみたいですね。手伝うって言っても、俺たちは何をすれば?」

 「爆弾魔についての情報収集、噂程度でもいいわ。とにかく足も手も足りない状況でね。事件現場跡など危険なところには行かなくて大丈夫だから。」

 「なるほど…」

 「……。」

 「……あの、水純さん、起きて?」

 思い出したように水純さんを軽くゆすってみると、むにゃむにゃと目を覚ました。

 「ん…終わった…?」

 「えっと、聞いてなかった、よね‥?」

 「うん。長くて寝てた。」

 「だよ、ね。あーえっと、最後のとこだけでいいので、会長、もう一回お願いします。」

 緊張していたのもばかばかしくなり、かくして改めて俺たちは爆弾魔について聞き込みなどの情報集めをしてほしいらしいことを確認した。

 「わかった。日野君…は、どうするの?」

 「どうするかは、いまいちわかってないけど。出来るだけ手伝ってみてもいいかな。」

 「そう。わかった。私も。」

 俺が引き受けると、水純さんもそこに同意する。

 「ありがとう。あなたたちのことは必ず私が守るわ。」

 そういう会長は責任感の強い、いつもの頼りになる生徒会長に見える。先程の血さえみなければ、普通の人間にしか見えない。

 「ところで、誰だっけ・・?」

 「あ、」

 結局教えないままだったな。

 「そうね、私もあなたたちの名前を確認してなかったわ。」

 会長は、「黒笠依都」と名乗った。そういえば俺も会長としか覚えていなかったことにそこで気が付いた。



―――

いつの間にか、疑わしい気持ちはなくなっている。

自分がよく分からないウイルスにかかっていることに納得している。

 日野拓弥の侵蝕率が9上がった<34→43>

 水純真の侵蝕率が5上がった<32→37>

 

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DX3rd小説風リプレイ「Demolish an illusion」 深海月 @sinnkainotsuki8

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