第14話 生まれた国に帰って来た少年

生まれながらに抱えていた問題の解決がなされ、地球に帰れると喜んでいた伊織だったが。


 ――実はまだ、ワルプルギスに居たりする。


 何故かと言うと、トリスヴァン王国の王太子であり父イオルには伊織以外に子供が居なかった。


 よって、順当に行けばイオルは次期トリスヴァン国王であり、伊織は王太子となる。

 そしてイオルが国王を引退すれば次は伊織が国王となる番だ。


「伊織、悪いけど日本帝国に帰す訳にはいかないんだ。 ゴメンね」


 申し訳なさそうに謝るトリスヴァン国王オーグ改め、技巧と技芸を司る神ヴェデル。


 トリスヴァン国王の正体がヴェデルであったこの衝撃の事実は瞬く間にワルプルギス世界を駆け巡り、人々に知れ渡る。


 何せ神話の時代から今まで行方知れずとなっていた神々の王であり太陽神ペルセリオンの兄が、大国にして列強国の国王に収まっていたのだ。

 驚かれない訳がない。


 妖精族の頂点に立つハイエルフが複数の大陸を統一して治めるトリスヴァン王国。

 その王家が事故によって異世界の日本帝国からこのワルプルギスの未開領域地(セレネディアが封印されていた)に召喚された伊織の救助をイオル王太子が冒険者ギルド本部に要請した。


 その際、伊織が生後間もなく死産したとされる王太子イオル・ガウル・トリスヴァンと日本帝国人の久那・珠姫との間に生まれた実子である事が正式に公表された。


 当時生まれたばかりの伊織は体が弱く、いつ死んでもおかしくない状態だった。

 其処で医療技術がワルプルギスより発達している日本帝国に身柄を移し、珠姫の実家に預けて育ててきた。

 今まで死んだと公表してきた理由は伊織が助からなかった時、混乱を少しでも抑える為だったとしている。


「オイラ、生まれだばかりの頃は健康優良児で元気過ぎて凄く困ったって、爺ちゃん婆ちゃんに言われてたけど……」


「まっ、全部ぶっちゃける訳にはいかないでしょ。 特に神殺しのギフト【ブレイブエンブレム】を持ってるなんて公表したら、例え大国と言えど神々に睨まれてはやってける訳がないし」


「事の原因のあんたが言うな! ……ったく!」


 そう文句を言いつつ、セレネディアに後ろから抱きしめられて、彼女の大きな胸が背中に当たっているのがちょっと嬉しい伊織。


「――で、それを伏せてのこの発表と言う訳ですね。 でも、伊織がハイエルフの血を引いているのは納得です」


 伊織の容貌にうっとり見惚れるシャーラン。

 彼女の灰色の瞳にじっと見詰められて気恥ずかしくなる。


「シャーランさんこそ美形の代名詞、ダークエルフの始祖――ダークエルダーじゃないですか」


 原初にして万能の女神セレネディアとその眷属神シャーランは伊織が滞在(という名の軟禁)しているトリスヴァン王城にちゃっかり居着いていた。


 変幻を司る狐獣の女神ユティーファは傷付いた体を癒やす為、あれからずっと伊織の体の中で眠りについている。


 ペルセリオンは兄であるヴェデルに神々が集う神殿に強制連行。

 神々の王が座す玉座に鎖で括り付けられたそうな。


「それにしても暇だな~」


 やる事もなく閉じ込められた状態では退屈でしょうがない。


 どうせなら折角手に入れたユニークスキル【ブロック】の能力を使って色々と試してみたいのだが生憎と今は使えない。


 因みに伊織のユニークスキルは現在以下の通り。







固有スキル 【ブロック】


 Lv1  ブロックの基本の形、組み立てるもの、組み手済みのものを含む設計(インターフェイス、

      性能シュミレーター、3Dスキャナーでの取り込み)、ツールデヴァイス【アガトゥース】(New!)

 Lv2  ブロックの色彩とテクスチャーの作成

 Lv3  ブロックの製作

 Lv4  ブロックの組み立てと解体

 Lv5  ブロックの属性・機能・能力(ブロック一個に付き一つ)

 Lv6  ブロックの無限収納庫とメンテナンス

 Lv7  ???

 Lv8  ???

 Lv9  ???

 Lv10 ???







 ユニークスキル【ブロック】のレべルがユティーファを殺され掛けた怒りの余り、一気にLv6まで開放されていた。

 常識では考えられない成長速度だと言う。

 だがこれ以上成長させると体にどんな負担が掛かるか分からない。

 よって、ユニークスキルが体に完全に馴染むまでセレネディアとヴェデルの二柱が一時的に伊織の能力に封印を掛けた。


 そしていつの間にか神器【アガトゥース】がユニークスキル【ブロック】に取り込まれていた。

 これは所持しているスキルと相性の良い道具との間に時々起こる現象だという。


「折角、帰れると思ったのに……」


 もうすぐ中等科の入学式も始まる頃なので、伊織としては早々に自宅がある久那神社に帰リたかった。

 勝手に抜け出して帰ろうかとも思ったが、セレネディアやシャーラン、それに監視約としてヴェデルの弟子ある双子の美女エルフに張り付かれていて下手な動きができない。

 

「ふう~、やれやれ……やっと仕事が終わったよ!」


 そんな風に考えを巡らせていたら、伊織が滞在している部屋に祖父ヴェデルが尋ねて来た。


「ヴェデル! 我やイオリを放っておいて何してたのよ!」


「そう言われましても……これでも僕はトリスヴァン王国の王様をやってるんです。 色々忙しいんですよ。 その上、セリオンが凝りもせず女性関係でヘマやらかして、その解決に彼方此方奔走して回っていたら、仕事が溜まりに溜まって……。 そしたら今度は、ディア様が異世界で大事に育ててたうちの孫をこっち《ワルプルギス》に掻っ攫うわ、焦った息子が生きてる事バラしちゃうわで、国の内外が大混乱してその収拾で余計仕事が増えるわで……大変だっんですよ?」


 ジト目で見られ、こりゃ不味い!と思ったセレネディアはその視線から顔をサッと逸らす。


「伊織、こんな所に閉じ込めて悪いね……でも、そうしないと君の安全は確保できないんだ。 伊織が生きている事を知られた今、伊織の存在を疎む連中が動き出すだろう。 万が一の事もある。 接触する者は極力少なくしたい。 それは身内――僕の息子であり伊織の父でもあるイオルも例外じゃあない」


 そう、伊織は自分が生まれた国に帰って来たそうそうこの部屋に閉じ込められてしまい、この国の人間どころか未だ両親とも会っては居なかった。


 それに対して別に不満はない。

 薄情に思うだろうが、伊織は今まで両親が居ないものとして育ってきたのだ。

 両親に対する思慕の念はハッキリ言うと――無い!

 それよりも、折角異世界に来たのだから観光したい!買い物したい!食べ歩きしたい!

 それが出来ない事の方が大いに不満であった。


「僕の仕事も一段落ついたから、漸くゆっくり出来るよ。 ――だから、伊織のこれからの事を話そうか」

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