第9話 女神様、念願の安納芋を食する
セレネディアの所有する秘密工房に向かう途中、彼女の眷属である竜種――エンシェント・ドラゴン達が迎えに来た。
この周辺は元々セレネディアの支配する領域で彼女が封印された後は彼等の一部が此処に住み着きこの地を守護していた。
「遅いっ! 我が襲われ、事が終わった後に駆け付けるとは何事か!」
セレネディアに頭をピコピコハンマーのようなもので幾度も殴られ、涙目で縮こまる彼等の姿には上司や妻からパワハラやDVを理不尽に受ける世のサラリーマンのように悲哀に誘われるものがあった。
エンシェント・ドラゴン達に守られながら秘密工房に辿り着くと其処は周囲の景色に合わせてカモフラージュして、その上に結界が張られて隠されていた。
そんな隠された場所にあるセレネディアの秘密工房の中に足を踏み入れる。
神話の時代から留守にされていた割リには建物の外も内も傷んでいない処か汚れも無い。
その秘密は工房内を行き来する人形が工房の手入れをしていた為であった。
「へ~、ゴレームか何かですか?」
「リビングスタチューよ。 ゴーレムよりは脆いけど、器用だし複数の命令を同時に理解して実行できる知力と器用さを備えてるの」
工房内には世界中の四季や気候を再現した部屋があり、その部屋の中では自然が広がっていた。
様々な植物が植えてあるその中には巨大な大樹――世界樹も植えられていた。
だがその世界樹は伊織が初めて見たものと比べ、葉は萎びれ幹も細く弱々しかった。
此処でセレネディアは捕まえたヴィゾープニルを収納空間から出す。
「コケ~~~~~~ッ!!」
途端に雄鶏はセレネディアから逃げ出して伊織の後ろに隠れる。
デカイだけに隠れきれておらず、時折伊織の背中から顔を出してはセレネディアを見ていた。
「何故に伊織の後ろに隠れるっ!?」
「そりゃ、貴女がこの鶏を食べるって言ったからじゃないですか……」
呆れれを含んだ言葉を口にする伊織に対して、セレネディアは溜息を一つ吐くと自分の後ろに生えている世界樹を見て言う。
「そうしたいのは山々だけど、うちの世界樹がかなり弱ってるわ。 前居たヴィゾープニルを食べた後、我やシャーランが封印された所為で長い間世話が出来なかったのよ……。 仕方ないからうちの世界樹が元気になるまで、食べるのはお預けにしてあげるわ」
「食べるのは諦めないんですね」
伊織の突っ込みを気にせず、セレネディアは指をクイッと動かしてヴィゾープニルを引き寄せると弱った世界樹目掛けて放り出す。
「飛んでけーーーっ!!!!」
「コケ~~~ッ!!」
するとヴィゾープニルは鶏の癖に生意気にも空を飛んで世界樹の頂上まで自力で辿り着くと、体を光り輝かせて世界樹を照らし始めた。
「これでこの世界樹も元気になる筈」
セレネディアと伊織は広い部屋にゆったりと寛げそうなソファーに足の短いテーブルがあるリビングに移動する、
シャーランは気絶している灰狐の獣神の少女を別の部屋に連れて行き、ベットに寝かせて傷の手当をしていた。
「さて……じゃあ、伊織のユニークスキルの確認しときましょうか。 それに健康状態も。 目覚めたばかりの【ブレイブエンブレム】み加えて、芽吹いて直ぐにあんな強力なユニークスキルを使ったんだから体に反動が起きてる筈よ」
「さっきから体がダルイのはそれだったんですね」
「ちょっと、イオリ! そういう大事な事はちゃんと言いなさいな!」
セレネディアは無茶をして体に負担をかけた伊織を叱りつけると半ば強引にソファーに座らせると伊織を診察する。
「……凄いわね。 アレだけの力を使いながら体の倦怠感だけで済むなんて。 普通なら力を使い果たして死んでるってのに」
「ふぁっ!?」
命に関わる事と言われたら流石にビビる。
これからはユニークスキルの使用は自重しようと心に決める伊織であった。
「しかも、スキルの階梯が既に四つ開放されて、五つ目も開放されかけてる」
「スキルにレベルなんてありましたっけ?」
「スキルやギフトにはないけど、ユニークスキルにはあるのよ。 最大上限は十まで。 上がるごとにユニークスキルの強化や能力の応用幅が広がるの」
「へ~、そうなんだ。 処で、俺のユニークスキルって何です?」
自分で使ってみて何となく分かっていたが一応セレネディアに自分の能力について確認を取る。
「【ブロック】って、なってるわね」
「よっしゃっ!!」
果たして、念願の能力であった事にガーツポーズを取り大喜びする伊織。
「今日は疲れたでしょ。 何か軽いものでも食べて休みなさい。 ……そうね。 折角だから、あの安納芋とやらを食べましょう!」
「いやアレ、軽くないですから。 十分腹に溜まりますから」
「ツベコベ言わない! ……よいしょっ、と」
自分の収納空間に回収して仕舞っておいたコロコロ太った大ぶりの安納を三個取り出すと、空中で浮遊させた状態で炎で包む。
「あ、直接火で焼くよりもアルミホイルか小石で包んで焼いた方が焦げないし、美味しく焼けますよ」
「あら、そうなの? アルミホイルは知らないけど、小石なら……」
”ちょっと待ってて”と言うと彼女はどこかに行ってしまい、暫くすると皿に載せた焼き立てホカホカの焼き芋を手に、獣神の少女の治療を終えたシャーランと一緒にリビング戻って来た。
「美味しそうな匂いがしますね」
「でしょでしょっ! さあ、食べましょう!」
手に持って安納芋を真ん中で割ると、蜜が溢れ出して来る。
芋を伝い手に垂れる蜜を舌で舐めて掬い取る。
安納芋は収穫して直ぐには食べない。
最適な環境で三週間以上ゆっくり時間を掛けて熟成させる事で糖度が上がり、蜜が溢れ出るほど甘くて美味しい芋になるのだ。
「くう~っ!! 甘くて美味しい!!」
「ディア様、端ないですよ」
「いいじゃない! 封印から開放されての久しぶりの食べ物なのよ!」
「はいはい、今日だけですからね。 では、私も……」
一口食べる。
すると口一杯に広がる甘さと美味しさに、思わず目を大きく見開いて驚くシャーラン。
「ホントに、美味しいですね……」
「ふふん! シャーラン、我に感謝しなさい!」
得意げな態度で言うセレネディア
「ありがとうございます、ディア様」
(これ持って来たの、オイラなんだけど……)
何処か釈然としないが、美味しそうに食べる美女二人の笑顔に心癒やされると何も言えなくなってしまった伊織であった。
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