第6話 少年、女神様と遭遇する

「……で? 何でその偉そうな女神様が態々ワルプルギスまでオイラを呼び寄せたんですか?」


 安納芋を神の力で探しだして回収しているプラチナブロンドの女性――セレネディアに尋ねた。


「”偉そう”じゃなくて”偉い”の! ……いい? お前は我の生み出した【ブレイブエンブレム】の所持者なの。 そして【ブレイブエンブレム】とは、我と敵対する”太陽神ペルセリオン”を討滅する為に我の神力の大半を込めて生み出したギフト。 その能力は神殺しを成す為、あらゆるものを破壊し、あらゆるものを殺害せしめる力、その二つの力を最大限に活かす為の戦いの力、その三つの能力を宿しているの」


「そんなギフト、オイラ持って無いですよ」


「お前の胸の中心には紋章が刻まれている筈。 それが何よりの証拠よ」


 言われて胸元の襟を引っ張り、中を覗いて胸を確認する。

 確かに彼女――セレネディアの言う通り、胸の中心辺りに今まで無かった痣が浮かび上がっている。


「じゃあ、もしかして、この木が倒れたのって……」


「まだ目覚めたばかりでこの程度だけど、本来の力なら破片すら残さず木っ端微塵よ」


 普通なら人間の拳で軽く叩いただけではビクともしない巨木を倒したのに彼女は『この程度』と言ってのける。

 その言葉の意味を理解した伊織の顔は血の気が引き、真っ青になる。


「ちょっ!? なんてもの人の身体にぶち込んでくれてんですか!! これじゃあオイラ、もう普通の生活できないよ!!」


「それは、【ブレイブエンブレム】を受け入れるだけの器を持ってるお前がいけないのよ! 我も創り出したは良いけど、この力に耐えられるだけの存在が、まだこの世界に居なかったんだもの……」


「その【ブレイブエンブレム】に力の大半を注いで消耗した直後をペルセリオンに襲撃されて、私共々纏めて封印されてしまったんですよね。 だからあれ程、慎重に少しずつ気付かれないように進めましょうと申しましたのに……」


 困り顔でセレネデイアの過去の過ちを責めるシャーラン。


「煩いわね! だから封印中にタップリ反省したわよ!」


「そもそも何で、その太陽神ペルセリオン?とか言う神様倒すのに、こんな大仰なもの生み出したんですか?」


「それはですね。 ディア様はこの性格ですから嫁の貰い手が無く行き遅れたんですね。 それこそ神界で一番の女誑しであるペルセリオンですら『お前は無理。 論外』とか言われて拒否されるぐらいに」


「ああ、成る程。 それで八つ当たりしたんですね」


「違うわ! それは半分だけ! アイツ、この世界を自分の所有物にする為に我以外の原初の神々を殺し、それ以外の神々を支配しようとしたの! ワルプルギスはこの世界に存在する全ての皆のモノ。 それを独占するのは例え神だろうと許され無いわ!」


 前半は兎も角、後半は至極真っ当な事を主張するセレネデイア。


「それに我はペルセリオンの双子の兄――技巧と技芸の神ヴェデルが本命でアタックしてたけど、我がヴェデルとくっつくと神々の勢力が一気にこちらに傾くからそれを阻止する為にアイツ、自分の兄であるヴェデルを殺したのよ! これはその敵討ちでもあるわ! 【ブレイブエンブレム】はアイツに対する取って置きの切り札になる筈だったのよ!」


「いえ、原初の神々とヴェデル様は――」


「でもそれを創った直後に封印されたら意味ないんじゃ……」


 シャーランが会話に口を挟もうとしたが、伊織の即座の突っ込みで言葉が遮られた。

 微妙な顔をしながらも”まぁ、良いか……”と独り言を呟いて聞きに徹する事にしたシャーラン。


「ぐっ!? う、煩い! そもそもお前が――イオリがあの時居なかったのが行けないのよ! それで我はペルセリオンに負けて封印されたんだから!」


「うわっ、何だよそれ! 理不尽だ! 横暴だ! 責任転嫁だ!」


「兎に角、この巨木――世界樹に神の力を吸われた所為で弱った我の力を回復するのにお前の中にある【ブレイブエンブレム】を回収して取り込む必要があるの! それでお前を呼び寄せたの!」


「人の話聞けよ……。 まあ、こんな物騒な力いらないから良いけど。 ……それにしても何で日本人のオイラにこのギフトが宿ったの? オイラ、この世界の住人じゃないよ?」


 セレネディアは呆れを含んだ視線を向けながら伊織の質問に答える。


「何言ってるの? イオリはこのワルプルギスで生まれたのよ。 でなきゃ、ギフトが宿る対象にならないわ」


「でもっ! オイラは――」


「事情を聞かれても、我にも分からないわよ。 イオリの中の【ブレイブエンブレム】が目覚めて我との回線パスが繋がったのは此処数日の事だもの」


「そう、ですか……」


 何だか落ち込んでしまった伊織。

 気まずい雰囲気になってしまった。

 その雰囲気に耐えられず、セレンナディアは話を強引に変える。


「そ、そうだ、イオリ! 【ブレイブエンブレム】は無くなるんだから、代わりに別のギフトをあげる!」


「え? いりませんよ、そんなの」


「何でよ!? ギフトよギフト!! 超強力な能力なのよ!! 人間なら誰もが欲する力よ!!」


「そのギフトの所為でオイラ、今、現在進行形で貴女から迷惑を被ってるんですが?」


 ジト目でセレネディアを見る伊織。

 その目に耐えかねて顔を背けるセレネディア。

 例えギフトが普通の人間にとって喉から手が出るほど欲しい力でも、今の伊織には面倒事を引き寄せるトラブルの種にしか思えないのだ。


「うっ!? じゃ、じゃあじゃあ、大マケにまけてユニークスキルにしてあげる!!」


 ユニークスキルとは誰も持ち得ない世界でもたった一つだけ存在するスキルの事だ。

 ギフト程ではないにせよ、これもまた希少で強力な力を持つ。

 ただしスキルやギフト違い、とても風変わりなのが特徴で、十全にその能力を使い熟せた者は殆どいない。

 

「う~ん……、まあ、それなら……」


 何が大オマケにまけてなのかよく分からないが、セレンナディアの性格から引き下がらないだろうと思い承諾する。

 それに伊織自身、ユニークスキルに興味がある。

 もしかしたら自分が望む能力が手に入るかもしれないから。


「その前に、お前の中にある【ブレイブエンブレム】を回収するわよ」


「はい、どうぞ――むぐっ!?」


 突然、セレネディアに抱き寄せられて唇を奪われる。

 唇どころか舌が口内に入り込み、蹂躙されてその行為に翻弄される伊織。

 同時に自分の中から何かが抜け出し、力が抜ける感覚を味わう。


「ぷは~っ!! ご馳走様!!」


 セレネディアに開放された伊織はギフトが抜け出た後遺症とセレネディアから受けた激しい行為によって全身の力が抜け、ヘナヘナと地面に倒れ込む。


「ゼェ…ゼェ……何て事、してくれてんだ!」


 荒い息使いで彼女に文句を言う伊織。


「でも気持ち良かったでしょ? 我の生まれて初めての口付け、有り難いと思いなさい!」


「オイラも初めてだよ!」


 確かにセレネディアの言う通りちょっと気持ち良かった。

 しかしそれを認めてしまうとこの女神に敗北してしまう気がしたので決して認めはしないが。


「ん~、これで三分の一って処かしら?」


「三分の一? 大半の神力を取り戻されたのでは?」


 シャーランの疑問も最もだ。

 セレネディアは【ブレイブエンブレム】を創り出す時、力の殆どをそれに注いだのだから。

 

「神話の時代から遥か長い年月、この世界樹に神力を吸われ続けた所為で神力の容量キャパシティが三倍以上に増えたみたい」


「それはとても迷わ……いえ、喜ばしい事ですわ」


 セレネディアに対して思わず心の声が口を突いて出掛けるのを止めて言い直すシャーラン。

 彼女に奉仕するべき眷属神でありながらとてもそうは思えない。

 そんなシャーランの言動に気付かず話を続けるセレネディア。


「それじゃあ、お前のユニークスキルの創造に取り掛かるわよ」

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