第3話 少年、目標を達成する

 試合の予選はバトルロワイヤル方式。


 各十六ブロックに別れ、最後に生き残った時点で予選は終了となり、次に生き残り同士の十六組で本戦が開始される。


 イオとベルは見事予選を勝ち抜き、本戦へと駒を進めた。


 そして本戦でも勝ち進み、準決勝に進出。


 が、準決勝開始早々にベルが撃破された。


 相手チームは三機。


 イオは三対一の状況で善戦したが、惜しくも敗退。


 しかし、三位決定戦では勝利をものにし、無事三位で入賞を果たした。




☆☆☆☆☆☆




「ごめんなさい……私が足引っ張っちゃったね……」


 大きな一つモノアイに涙を一杯貯めて、潤んだ瞳で謝罪するベル。


「何言ってんだよ。 今回の試合イベントの目標は三位以内入賞だろ? オイラ達は目標を達成したんだ。 ベルが謝る必要なんてないよ。 だから泣くな」


 そう言って笑顔を見せながらベルを慰めるイオ。


 イオ自身、今回の試合は勝ち負けよりも三位以内に入り入賞賞品の入手の方が大事だった。

 今回は見事その目的を果たしたのだから不満も悔しさもない。


 三位以内の入賞者に配布される賞品は今回限りの限定品のVBとその武装。

 それを三種類の中から一つを選択。

 そして副賞としてそれらを3Dプリンタから出力できる3Dモデリングのデータが入った専用メモリが後日配送されて来る。


 ベルはVB【サイクロクラブ】の上位機種で変形機構を持つVB【オクトクラブ】。

 武装は陸海空対応の背部に装着する移動ユニット【ブロガー】。


 イオは機体を自由に組み替えられ、変形や分離・合体も可能になるVB 【ブロックスレイダー】。

 武装はブレードライフル【雷紫電】。

 特殊なエネルギーの結晶でできた刃が出せると言う設定のライフル兼大太刀で、二本に別れてブレードカービン【雷紫】とブレードガン【紫電】にもなる。

 

 イオは時間が気になって、システム設定画面を開き、其処に表示されている時計を確認する。

 時間は既に深夜――日付が変わり一時過ぎ。


「げっ!? もうこんな時間か! ベル、ゴメン! オイラ、もうログアウトするね! VBと武装の確認は明日……じゃなくて、もう今日か。 今日の夜、一緒にしよ――」


『……あの……美味しそうな、お芋……食べたい………』


「――っ!? また??」


「どうしたの、イオ?」


「昨日から幻聴って言うか……女の人の声が聞こえるんだ……」


「昨日から? やっぱり……」


「やっぱり?」


「イオ……伊織ちゃん、昨日の朝から身体の中に物凄く大きくて強い何かが在るのが見えたんだ。 それが段々大きくなってる。 今日なんてもう、身体一杯に広がってた」


「魔眼の力――【解析】で見たの?」


 モノアイ族には生まれながらに一つ目のその瞳にはスキルが宿る。

 人々はそれを魔眼と呼ぶ。

 鈴の場合、【鑑定】の上位スキルである【解析】が宿っていた。


「今日、宮司様に言って、病院で専門家の人に見て貰った方が良いよ!」


「専門家って……もしかして――」


「うん……何かのスキル、だと思う」


「思う? 鈴の魔眼でも分からないの?」


「力が物凄く強いんだけど、目覚め掛けみたいでちゃんと【解析】で見えないの……」


「鈴が見えないなんて……。 分かった。 爺ちゃん婆ちゃんに相談してみるよ」


 伊織は鈴と別れ、VBOをログアウトして現実世界に戻って来た。

 ゴーグルを外してそれを専用の容器に収納し、パソコンの電源を落とした伊織は寝巻きに着替えると直ぐに布団に潜って就寝した。

 そして早朝、伊織は起きると早速、武昭と雫に鈴が話した自分の身に起こっている事を相談した。


「……鈴ちゃんがそう言ってたんだな?」


「うん……」


「分かった。 今日はオイラも手が空いてる。 車で病院まで送ろう」


「婆ちゃんだけで良いんじゃ?」


「お前のそのスキルに心当たりがある。 もしかしたら……いや、何でもない」


「爺ちゃん?」


「今日のお勤めはしなくていい。 朝食まで部屋で休んでいなさい」


「うん……」


 武昭の言葉に従い伊織は部屋へと戻る。

 伊織がその場から立ち去ると、雫が不安な顔をして武昭に話し掛ける。


「あなた、もしかしてあの子の目覚め掛けてるスキルって……」


「まだ、分からん……だが、可能性は高いだろう。 もしもの場合はイオル殿と連絡を取る」


「何事も無ければ良いんですが……」


「そうだな……」




☆☆☆☆☆☆




 何時も通り朝食を摂り終わると、伊織は直ぐに武昭が運転する車に祖母の雫と一緒に乗り込み、スキルを専門とする病院に向かった。


 診察にスキルを調べる専用の機械での精密検査が行われ、専門医からその診断結果が知らされた。


 伊織を診察した専門医は二十代後半の青年だった。


「……確かにスキル、のようですが……。 う~ん……どうも、目覚めたばかりで不安定なようだ。 ハッキリ分かりませんね……。 数日様子を見ましょう。 時間が経てばスキルが身体と精神に定着して鑑定できます。 なので、五日……いえ、三日後にいらして下さい」


「そうですか……分かりました」


 医者の前に椅子に座る伊織

 その横で同じく椅子に座った雫が不安気な顔で医者に応答する。

 雫の後ろでは浮かない顔の武昭が立っていた。


 結局、伊織の中にあるスキルがどういったものか、専門医でも分からなかった。

 医者の言う通り三日後に診て貰う事を約束し、伊織達は帰宅した。

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