第2話 少年、VRMMOのイベントに参加する
――翌日 MBO試合イベント
最後の調整を済ませた伊織は時計を見て時間を確認する。
時間は午後の八時三十分。
イベント開始まで三十分前。
「……ちょっと小腹が空いたな。 ログインする前に夜食でも食べるか」
伊織はコタツから立ち上がり、台所へと向かう。
「確か、お昼のオヤツの残りがあった筈……」
「どうしたの、伊織?」
其処へ風呂から上がったばかりの祖母――
「ちょとお腹が空いたから、おやつの残りを貰いに」
今日のおやつは久那神社の氏子から頂いた安納芋。
何でも親類が農家をやっていて、安納芋を送って来たそうだ。
沢山貰ったので神社の神主や職員、巫女のアルバイトに来ていた鈴達にも焼き芋として振る舞われた。
「ああ、それなら冷蔵庫の一番下の隅に置いてあるわよ」
「え? ……お! あった、あった! ありがと、婆ちゃん!」
皿に載せられラップが掛けられた安納芋の焼き芋一個を取り出し、別の皿に移し替えてレンジで温める。
「伊織、早く寝ないとまたお爺さんに叱られててしまいますよ」
「分かってる。 終わったら直ぐに寝るよ」
「じゃあ、程々にね。 おやすみなさい、伊織」
「おやすみなさい、婆ちゃん」
雫が寝室に向かった後、温め終わった安納芋が載った皿を取り出し、アツアツの安納芋を頬張る。
「アチアチ! でもウマウマ! はふはふっ!」
『……それ、食べたい……』
「ん?」
祖母が戻ってきて呼びかけられたのかと思い、台所の出入り口を見る。
しかし、其処には誰の姿も無かった。
その声は何処と無く、昨日の夜に自室で一人で居た時に一度だけ聞こえた女性の声に似ていた。
「……幽霊? でも、神社の中は、浄化や結界の力が働いてるから、よっぽどでないと入って来れない筈。 まさかオイラ、この歳でボケが始まった? ……それは、ヤダな」
伊織は残り小さくなった安納芋の焼き芋を口に放り込み、使用した皿を片付けて自分の部屋に戻った。
☆☆☆☆☆☆
「遅いよ! 伊織ちゃん……じゃなくて、イオ!」
「ゴメンゴメン、ベル! 夜食におやつの残りの焼き芋食べてたんだ」
ゴーグルタイプの機器を目に掛けパソコンに接続。
電脳空間に構築されたMBOの仮想世界にログイン、アクセスすると既に鈴――プレイヤーネーム”ベル”が既にログインして試合のイベント会場で待っていた。
「夜食を食べてたって……余裕だね、イオは」
呆れた口調のベル。
現実世界の気弱な様子とは打って変わり、アバターは勝ち気な感じで身体のラインがハッキリ分かるレオタードタイプのバトルスーツを着用している。
「腹が減っては戦は出来ぬ、ってね! それに、エントリーはもうしてるし、まだ試合は始まってないでしょ?」
対して伊織――プレイヤーネーム”イオ”のアバターはモスグリーンの迷彩模様で装甲服タイプのスーツを着用していた。
「何に言ってるの! 試合の出場者に割り当てられた
イオはベルに腕を引っ張られて格納庫に向かった。
☆☆☆☆☆☆
――試合の出場者の為に用意されたVB《ヴァリアヴル・ボット》の格納庫内
イオとベルは自分の機体データを展開し、
ベルの機体は頭と胴体が一体で目がモノアイ、手には大きなニ本爪が特徴の水陸両用型のVB――【サイクロクラブ】のカスタム。
装甲の素材を変更して防御力を上げ、それに加えて装甲を一枚余分に重ねて更に防御力を高める。
両腕にはそれぞれ追加で小型のシールドを装備。
そのシールドの裏面には射撃武器のカノン砲を一門ずつ装備。
イオの機体は癖の無い機体で操作性も抜群、素人でも操作しやすく見た目のデザインからも人気が高い汎用型のVB――【
機動性を上げる為、ベルのサイクロクラブとは逆に装甲を削り、足まわりとブースターを強化。
その代り防御力を確保する為、両肩にフレキシブルで動く中型のシールドを一枚ずつ装備。
裏面には牽制の為のバルカン砲を二門、計四門。
手持ち武器はハンドガン、カービン、ライフル、ダガー、スピア、ブレードの六タイプに変形する【マルチライフル】を一丁。
今回の試合イベントは一人以上、三人まで一緒に参加が可能なので、ベルはイオを誘ってチームを組んだ。
「この試合イベントって、
「うん。 エントリーシート見たけど、名前は載ってなかった」
「今回はどうしても限定機体と限定武装が欲しいんだよね。 でも、あいつが出て来たら入賞も危なかったよ」
「イオ、すごいよね。 MBOを始めてたった一月なのに、もうランキングが百位以内なんだもん。 しかも、今まで誰にも撃破された事の無いMBOプレイヤー、”
プレイヤーネーム”
MBOに於いて相対すれば必ず相手を倒し、負け知らずと言われる伝説のプレイヤー。
しかし、神出鬼没で何処にいつ現れるか分からない。
MBOを始めて間もない頃、一度遭遇した事があり、何も知らなかったイオは繰々丸に勝負を挑んだ。
だが、繰々丸はイオが初心者だと知るとハンデを与えたのだが、イオの強さに思わず途中からハンデを忘れて本気で相手をしたが、結果、両者相打ちとなった。
そのバトルの光景をベルは間近で見ていたのだ。
「いや、あれ、オイラがMBO初心者だったから相当手加減してくれてたから。 最初から本気出されてたらオイラも他のプレイヤーと同じように負けてたよ」
「その繰々丸も居ないし。 私も今回の入賞賞品はどうしても欲しい」
「分かってる! オイラも入賞で出る限定機体と限定武装が欲しいから頑張るよ!」
二人の話が丁度終わるのを見計らったように、試合出場者の格納庫内に試合開始のアナウンスが流れる。
『時間に成りました。 試合を開始します』
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