第1話 少年、元気に育つ
――西暦2022年 双共三年
「ふぁ~、ねむぅ……」
早朝、六時過ぎ。
とある大きな神社の広い境内にて。
作務衣に身を包んだ今年十三に成る少年は眠気を催しながらも祖父や神社に所属する神職に混じって清掃作業に勤しんでいた。
「こりゃっ!
「違うよ! 鈴と一緒にネトゲのVBOをしてたんだよ! 明日の試合イベントの準備でVBの組み立てやら調整が夜中まで長引いて――」
「言い訳無用! 中学の入学式まで休みだからと言って弛んどるぞ!」
てい!っと掛け声と共にこの神社の宮司で祖父――久那・
その少年と祖父の遣り取りを周りにいる大人達はいつもの日課が始まったと苦笑いして見ていた。
「ごめんなさい、宮司様。 私が試合イベントに誘ったの。 それで伊織ちゃん、昨日は準備で寝るのが遅くなって……」
其処へ前髪と後ろ髪を切り揃え、紐で後ろ髪を一つに結んだ白衣に緋袴の少女が止めに入る。
年は伊織と同じ年。
その少女の容貌は独特で、通常の人間の顔に本来備わっている筈の二つの目が一つしか存在していなかった。
それもその筈。
少女は人間ではなく、モノアイと呼ばれる一つ目が特徴の種族であった。
彼女は伊織の幼馴染で休みを利用してこの神社――久那神社に巫女のアルバイトに来ていた。
「お~、そうかそうか。 だがな、
そう言いながら持っていた竹箒を伊織に向けて剣術の構えを取る。
「クッ、爺ちゃん! 血を分けた肉親同士で戦うなんて不毛だよ! オイラ、そんなの嫌だ!」
そう言いつつ、伊織は素早く踏み込み、死角から武昭の横腹に向かって竹箒の柄を叩き込もうと振り抜いた。
それを避けつつ伊織をジト目で睨む武昭。
「……伊織、そう言いつつ本気でオイラを仕留めようとしているのは何故かな?」
「爺ちゃんなら死んでも死なない!」
ドヤ顔で答える伊織。
「オイラでも死んだら死ぬわぁ!」
同じく竹箒で応戦する武昭。
それを傍でオロオロしながら見ている鈴。
徐々に加速して行く二人の剣速。
勝負を決めようとお互い同時に箒を一際大きく振り抜く。
だがしかし、二人は互いの剣戟を防ぎ、竹の乾いた音を響かせた。
鍔迫り合いと成り、顔を突き合わせて睨み合う二人。
「ッ……中々…やるようになった…な、伊織!」
「でも、まだまだ…だよ! さっきの…一撃、で……爺ちゃんを…仕留めきれなかったんだから、ね!」
「お前!? 本気でオイラを殺すつもりか!!」
だが、其処で唐突に勝負が終わる。
先端に吸盤が付いた矢が二人に向かってそれぞれ一本ずつ飛来し、それが伊織の頬と武昭の禿頭に直撃した。
「二人共、朝から元気なのはいいですけど、もう朝ごはんですよ。 鈴ちゃんもね」
困リ顔で武昭の妻で伊織の祖母――久那・
「「はい……」」
「あ、ハイ!」
既に他の者は朝食を摂りに社務所に向かっていた。
伊織と武昭は吸盤が付いた矢を引き抜き、竹箒を隅にある倉庫に片付けて向かう。
その二人の後に付いて行く鈴。
暫くして無人となった倉庫内で。
ニ本の竹箒の柄が内部から発生した圧力により破裂した。
☆☆☆☆☆☆
「う~……んっ、と! やっと開放された!」
今日一日の神社のお勤めから開放された伊織は伸びをして体をほぐす。
夕方の掃除の折、倉庫内で竹箒が二本破裂していたという珍事があったが、それは何かの偶然だろうと言う事で片付けられた。
社務所に設けられた神主や職員用の更衣室で緋袴から普段着の洋服へ着替えを済ませた伊織の幼馴染――一番・
「伊織ちゃん……体、大丈夫?」
「ん? 別になんともないけど……。 ああ、明日のMBOの試合イベントなら絶対に出るから大丈夫だよ!」
「そういう意味じゃ無かったんだけど……。 大丈夫ならいい」
何だか浮かない顔で歯切れが悪い鈴。
「?」
伊織自身、特に体に異常を感じない。
だから、彼女が何を言わんとしているのか今一つ分からなかった。
疑問に思う伊織を
「VBの準備、出来た?」
「勿論! その為にVBのパーツや武装を買い集めて準備してきたんだから!」
二人が話題にしているのは仮想現実世界体感型ネットワークゲーム。
その中でもロボットを題材にしたゲーム――マルチ・ボット・オンライン――通称MBO。
プレイヤーはゲーム内でヴァリアヴル・ボット――通称VBと呼ばれるロボットを組み立て、装備を整えてクエストや対戦を楽しむネットゲームである。
VBのロボットタイプはスーパーロボットからリアルロボット、果てはドールフィギュアタイプまで幅広いジャンルをサポートしている。
ものによっては変形や分離・合体も行う。
「絶対に三位以内に入賞する! そんでもって限定機体と限定武装を手に入れるのだ! だから今日は精神統一の意味でいつものブロックでもするよ」
「伊織ちゃんはホント、ブロックが好きだよね」
「ブロックには無限の可能性がある! 組み合わせる事で形が自由自在に変化して際限なく世界が広がって行くんだ! VBもブロックみたいで好きだけどね」
伊織の趣味はレ○ブロックのような様々な種類のブロックを組み立てて遊ぶ事が趣味だ。
今では材料や工具を購入し、自分で自作する程の熱の入れよう。
だが最近、幼馴染の鈴に誘われて初めたMBOも面白い。
ブロックのようにロボットを組み立て、それを自分で
「ふふっ! あ、私、もう帰るね! じゃあね、伊織ちゃん。 また明日」
鈴はそう言って伊織に向かって手を振り、久那神社の隣にある自宅に帰宅して行った。
☆☆☆☆☆☆
伊織は夕食後、二階の自室に戻る。
伊織の部屋はロフトになっており、ロフト下の壁側には透明なプラスチック製の棚にお気入りの作品の数々が飾られ、ロフトにはブロックを種類や用途に合わせて収納した小型の棚や入れ物が置いてある。
窓際庭には勉強机が置かれ、机の棚には学校で使う教材や教科書――今まで使用していた初等科の教科書と新しく通う中等科の教科書は入れ替え済みだ。
部屋の中央には大きめのコタツには近年ホビーなどで使用されている3Dスキャナーや小型でフルカラーに対応したインクジェット法の3Dプリンタとその3Dプリンタで使うカートリッジ、それにパソコン。
「さて、と……」
伊織はパソコンと3Dプリンタの電源を入れ、3Dソフトを起動させる。
3Dソフトの保存ファイルには、今まで伊織が制作したブロックの形状データやそのブロックに使う各種ジョイントの形状データで埋まっている。
「今度は武御剣をブロックで再現してみるかな。 ん~、そうなるとブロックは板ブロックが足りないな。 後、ジョイントも。 インクは……まだ足りるか」
『………』
「ん? 婆ちゃん?」
不意に誰かに呼ばれたような気がして耳をすませる。
「……気の所為? まぁ、いいや」
伊織はその後、その出来事を気にする事なくブロックの自作とそれによる作品の製作に没頭した。
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