ブロック万能説
真田 貴弘
プロローグ
――西暦1866年 一月一日 日本
幕末期――大政奉還を翌年に控えた皇宮において、とある珍事件が発生した。
宮中で天皇が元旦に行う祭祀の最中、突如数名の人物が出現した。
その者達の風体はバラバラだが皆何らかの武装をしていた。
直ぐに警護の者が大勢駆けつけ取り押さえられる。
強制的に武装解除させられたその者達を見て人々は驚愕した。
明らかに人から逸脱した体格、容姿の者が混じっていたのだ。
耳が長く容姿がとても美しい
身長が低く、体格はガッシリしていて長い顎髭を伸ばしている老人。
同じく背は低いが成人した容貌の小人。
極めつけは獣の耳と尻尾を生やした者に一つしかない目を持つ者。
当然、天皇陛下に差し向けられた暗殺者、もしくは代々続く天皇家を滅ぼさんとする輩が使役する妖しの類と疑われた。
しかし、当代の天皇はその者達を何故か客人として
政権が江戸幕府から明治政府に移行して以降、政府はこの時出現した者達――”冒険者”と協力し、彼等が持つ技と術――”スキル”と”魔術(もしくは魔法と呼ばれる)”を駆使し、異世界への扉を開いた。
異世界の名は”ワルプルギス”。
その異世界の地には童話や昔話、架空の物語に登場する生物や種族、能力や道具、果には神々さえ存在していた。
明治政府は共に異世界ワルプルギスの扉を開いた冒険者達が所属する――”冒険者ギルド”と呼ばれる組織と接触。
大日本帝国は冒険者ギルドが持つ伝を使い、ワルプルギスの国々へ交渉団を派遣。
交渉の結果、幾つかの国と国交を結ぶ事に成功した。
☆☆☆☆☆☆
――太平洋戦争より六十年後 異世界ワルプルギスにて
春雷が訪れ、荒れ狂うその日。
トリスヴァン王国にある城の一室にて。
室内では天蓋付きベッドに横たわり、長時間に及んだ出産の疲れから眠りに就く母親。
その横では赤子用のカゴの中でスヤスヤ眠りに就く生まれたばかりの赤子。
そしてカゴの中に入れられたその赤子を挟んで二つの影が重苦しい空気を纏っていた。
「寄りにも寄ってこの子に神殺しの力が宿ってしまうとは……」
スラリとした細身で高身長、銀髪の長髪で中性的な美しい容貌を持ち、質素だが質の良い生地が使われた服を着た青年が深刻な顔をして考え込む。
「まだ力には目覚めていません。 ですが、いずれ太陽神に気付かれてしまいます。 そうなれば、御子様の命は……」
悲しそうに赤子を見つめるお仕着せを着た恰幅の良い小柄な女性。
「分っている。 幸い、この事を知っているのはこの場に居る私と君だけだ。 其処で君に頼みたい。 この子は死産した――と言う事にして欲しい」
「……どうするおつもりですか?」
「この子の中にある【ブレイブエンブレム】の力を何重にも封印を施し、日本帝国にあるタマキの実家に預ける。 幸い、太陽神は冥界に籠もって異世界にまで関心を持ってはいない。 気付かれる事はないだろう」
「しかし! そうなれば、イオル様やこの子の母親である彼女は、滅多に会う事はできなくなります! 下手すれば一生――」
「最悪、そうなっても致しかたない」
青年は静かに目を瞑り自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「この子が生きていてくれているだけで私達は幸せなのだ。 例え生涯、会う事が叶わなくとも、な ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます