◆カナメと真実と殺人犯。




「ふざけるな。俺はやってない!!…とでも言ってほしいのか?」





 おそらくこの探偵は全部解ってて言ってる。


その言葉遊びに付き合ってやる気は無いが、犯人を知る為にはこの下らない茶番が必要なのかもしれない。





「まさか。誰も君がやったなんて言ってないさ」





「だったらもう一度犯人の名前を言ってみろ」





「何度でも言ってやろう。犯人はカナメだ」





 いい加減にしろよ。





「俺はやってないって言ってるだろうが」





「そうだな。君がした事と言えばせいぜいショッピングモールで紅茶君を助けようと飛び出した勇敢なクラスメイトの後頭部を殴りつけた事と群馬で縁を殺害しようとした事くらいか」





「な…っ」





 探偵の言葉に緑茶女が目を剥き出して俺を睨む。が、外見が紅茶だからかすぐに睨むのをやめ、どんな表情をしたらいいのか困惑しだした。





「まぁまぁ。縁は死にかけたんだから怒るのも解るが…死ななかったんだから良しとしておいてくれ。じゃあ…順序は前後するがいろいろ説明していこうか」





 その説明は必要あるのか?


俺が緑茶にどんどん怨まれるだけのような気がするのだが…。





「まずは縁の疑問というかすっきりしない部分を解決しようか。縁が死にかけたのは二回。まずはカート乗り場…」





 待て待て。


あれは殺害計画とは呼べない。





「勘違いするな。あれは偶然いいタイミングだったから上手く行けば死んでくれるかもと思ってアクセサリーのビーズをばら撒いただけだ。あれが俺の本気だなんて思うなよ」





「そんなツンデレみたいな事言われてもなぁ…。どちらにせよ実際にこいつは縁を事故に見せかけて殺そうとしてたから制約は多かったんだろうね。殺すだけなら縁はもう何回死んでるか解らないだろう」





「…紅茶に殺されるならともかく紅茶の外見をした何かに殺されるのは嫌だな…」





「縁を殺そうとした理由は…そうだな。紅茶の事を思って縁を殺すのなら、失う痛みを少しでも減らすためにさっさと殺す。ってところか」





 …頭にくるがこいつの言う事は当たっている。





「紅茶は緑茶女に依存し始めていた。不安定になった精神をこの女に依存する事で保っていた…。そんな事が続いて完全に依存しきってしまったら、それこそ失う時に精神が崩壊してしまう」





「ちょっと待てよ。言いたい事は解るけどどうして失われるの前提なんだ?」





 心なしか緑茶女がニヤニヤしながら言った。


依存されてた事がそんなに嬉しかったのかこの女は…。





「事件の犯人は紅茶の周りの人物を殺して紅茶を揺さぶるのが目的だろうからな…緑茶女は遅かれ早かれ殺されていただろう。それが後になればなるほどその時のショックは大きくなるから少しでも早いうちに俺が消してしまおうと思ったんだよ。…勿論理由はそれだけじゃない。余計な事まで嗅ぎ回ろうとしてたからって言うのが一番大きいよ」





「…そっか。紅茶の過去を知られたくなったって事か…じゃあ、おばあさんの話を聞いた時紅茶の記憶が飛んでたのって…」





「ああ、途中から聞かせられないような話になったからな…俺が代わった。んでその後崖の上から岩を投げたんだが上手い事かわしやがって…。すぐに探偵が到着して殺す機会は失われちまったしな。その時点で俺はもうお前らを殺すのを諦めたよ。少し面倒だが話の流れが怪しくなったら俺が出て聞かせないようにすればいいと思ったし、緑茶女を殺させないように出来る限り気をつけるつもりではいたさ」





「…それは、感謝すべきところなのか?正直複雑だよ」





 緑茶女はなんだか腑に落ちないといった様子だったが、そんな事はどうだっていい。





「それにしたってよく俺が紅茶の中に居るって解ったな」





 紅茶の幼少期の話を聞いて不思議に思うのは解る。だからといって俺の存在にまで辿り着くのは簡単じゃないはずだ。





「いやいや。疑いだしたら簡単だったよ。監視カメラを調べたら一発さ」





 …そうか。


知らない人が見れば俺の外見は紅茶だが、見る人が見れば紅茶じゃないのは丸解りだったと言う事か。





「そもそも君はご丁寧に僕と会う時必ず酒葡さんと呼んでいただろう?紅茶君は僕の名前なんか覚えちゃいないからな。葡萄のお姉さんとしか呼ばない。モールでそう呼ばれた事を思い出してね、監視カメラを調べたら君が吉田の後頭部を殴り、暴れていた犯人の顔面を蹴り飛ばして逃げて行く所が映っていたよ。あれは…紅茶君とは思えないよなぁ流石に」





 …それもそうだ。


アレは俺でも失策だったと思っているが、あの時は俺が出て行くしかなかった。


…というかあいつの名前は吉田っていうのか。





「ちなみにその吉田俊夫はその後殺害されているが今回の連続殺人事件とは全く関係のない事件だったので割愛するぞ」





 ああ、俺の知らない事件の奴か。


あれはあいつがどこの誰かに偶然殺されたって事なのか…?


タイミングが悪いにも程があるだろ。


このタイミングで紅茶の関係者が死んだら警察なども関連のある事件だと思ってしまう筈だ。


まぁ、紅茶の関係者と言えどほとんど会話した事も無いような間柄なわけで、そんな奴が死のうが俺にはどうでもいいけれど。





「ついでに言えばな、君はその後喫茶店に入って珈琲を三杯ほど飲んでいるね?…無糖で。紅茶君なら絶対にあり得ない事だ」





 う…。


 確かにブラック珈琲を三杯も飲むなんて普段の紅茶を知っている人間ならあり得ないと解るだろう。店の中のカメラもチェックしたのか。


あの時は焦って逃げてきたところだったからな…完全に油断していた。


どうも俺はつまらないミスが多い。


俺の生みの親が紅茶というのも原因かもしれない…。


流石に紅茶ほど阿呆では無いが、紅茶と比べてしまっている時点でなんだか悲しくなってくる。





「それに、縁を背負ってとぼとぼ歩いている紅茶君の姿が数秒間だけ街頭のカメラに映っていたよ。これは探すのがかなり難しかったよ…僕が探したわけじゃなくて坂…警察に協力してもらってな。人海戦術ってやつだ」





 まだ日の出前だった事もあってあたりは薄暗かったし大丈夫だろうと思っていたが意外と俺の行動はあちこちで補足されていたようだ。





「なるほどな。確かにポイントを絞って証拠を探せば解る事だったのかもしれないな」





 別に悔しくは無い。


俺のミスだし、そもそもカメラに映った所で紅茶が映っていると思われるだけと油断していたのが悪い。





「確認しておきたいのだが、何故君は一件目と二件目の殺害現場付近にいたんだ?」





 あぁ、確かに俺があちこち行っていたせいで紅茶の目撃情報が出てしまい事態がややこしくなったというのは否めない。


説明する義務というのはあるだろうな…。








第一の事件、山中大樹が殺された日。


俺は家に大樹から紅茶宛に届いた封書を見つけた。


勿論嫌な予感がしたので紅茶には見せてはいない。


中を確認すると、やはり大樹からの呼び出しだった。


どうせ呼び出して紅茶に告白するつもりだったのだろう。


俺はいつものように危険分子を排除すべく、待ち合わせ場所に向かった。


だが、そこに居たのは大樹ではなく大樹の死体だった。


流石に俺でも困惑したし、現場に落ちていたメモに気付いてさらに混乱した。





『次は誰を殺そうか?』





 メモにはそう書いてあった。


誰かが大樹の行動を知り、紅茶はそういうのを律儀に会いに行って断るというのも知っていて、その上で紅茶に死体を見せるつもりで殺したのだろう。





俺は危機を感じた。


何者かが悪意を持って紅茶の感情を揺さぶろうとしている。





何のために?


それは解らないが、俺には非常に困る展開だった。


何せ紅茶があの時の事を思い出してしまうかもしれないからだ。


思い出した事でどうなるかは解らない。


だけど、場合によっては紅茶の精神が崩壊してしまうかもしれない。


それだけは避けなければいけない。


俺は独自に犯人を突き止めるために動き始めた。





勿論慣れていない捜査で犯人の手がかりを掴む事は難しいだろう。


それでもやらなきゃいけない。


紅茶を守るのは俺しかいないから。


俺が守らなきゃいけないから。





そんな時だ。


再び家に封書が届く。


今度は筆跡がわからないように新聞などの文字の切抜きを使って紅茶を呼び出す文章だった。





『オマエに関わりノあル人間を殺ス。止めたければ指定サれた場所に来イ』





 きっと差出人は大樹を殺した犯人だ。


俺は指定場所に急いで向かい、犯人を突き止めようとした。


別に犯行を止めようとは思っていなかった。


誰が死のうと俺にはどうでもよかったからだ。


だが、止められればそれに越した事は無い。


紅茶を揺さぶらずに済めばその方がいい。





しかし、俺が到着した時にはもう惨劇は終わっていた。


大樹の時とは違い凄惨な現場。


何故わざわざ犯人がこんな殺し方をしたのか、それは考えるまでもなかった。


紅茶に出来る限り大きなダメージを与えるためだ。





俺は怒りに打ち震えた。


犯人は必ず俺が見つけてぶっ殺す。


そう決めてすぐだ。





まだ近くにいるかもしれない犯人を捜していた時、背後の方角に人の気配を感じた。


そちらを伺うと、明らかに怪しい風貌の男が女に刃物を振り下ろそうとしていた。





俺は急いでそちらに向かうが、男は俺に気付いて逃げ出す。


すぐにでも追いかけたかったのだが、そこでその女が緑茶女だと気付いてしまった。





俺の外見は紅茶なのだからこんな所にいると知られてはいけない。


慌てて俺は目的を変更し、姿を見られないように蹴りを入れて昏倒させた。


上手くいった…と、思う。


だがそのまま緑茶女を放置していくわけにもいかない。


仕方ないので家まで担いで運んだのだが…その様子が監視カメラに写りこんでいた。





「…と、まぁそんなところだ」





 かいつまんで俺が知っている事を告げると、探偵は満足そうに頷く。





「ふむ、やはり君は犯人から直接呼出しを受けていたと言う事か。しかし犯人も紅茶君を呼び出しているつもりでその守護者を呼び出していたとは思うまいよ」





「そこから先はお前も知ってる事だろうぜ」





「…なるほどな。君しか知り得ない情報はとても参考になったよ」





「それで、そろそろ犯人を教えてくれてもいいんじゃないのか?」





 探偵は俺の言葉を聞くと目を丸くして、何をおかしな事をと言わんばかりだった。





「だからさっきから言ってるだろう?犯人はカナメだ」





「もうその冗談は聞き飽きたんだよ。俺が知りたいのは連続殺人事件の犯人だ」





「君も頑固な奴だな…。僕がそうだと言ったらそうなんだよ。連続殺人事件の犯人は…」





 探偵はそこで一瞬空を仰ぐように顔を上にあげ、ゆっくり戻しながら、俺が想像もしていなかったとんでもない事を言い出した。





「君じゃない方のカナメだ」





 …はぁ?





ちょっと混乱している。


俺以外にも誰かカナメがいるのか?





まさか紅茶が俺以外にもう一人カナメを作り上げて、俺すら気付かないうちに殺人を犯していたとでも言うのか?





もしそうだとしたら俺は、俺と紅茶は…何をやっていたんだ?


同じ体で、紅茶を狙うカナメからカナメが必死に守ろうと…?





馬鹿か。





そんなオチは絶対に納得が出来ない。





「おいおい、何を絶望しているのか知らないが君とは関係ないぞ」





 …どういう事だ?


だったらどこにもう一人のカナメが居るっているんだ。





「僕が言っているカナメは、そのままの意味だ。カナメはカナメだよ」





 俺は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。





そんな馬鹿な事があってたまるか。


まだ俺の中にもう一人カナメが居ると言われた方が納得できる。





「嘘だろ…?じ、じゃあ…犯人は…」





「ああ、やっと解ってくれたか。僕が言ってるのは…」





 信じられない。


俺の存在すら揺らいでしまう。


紅茶にに知られる訳にはいかない。


だって、だってそのカナメは…








「当時紅茶の父親を殺害し、入院、転院の後に死亡した…そのカナメ。かなにぃ本人さ」



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