第3話 爆ぜろ!―【火遁】紅梅―
『初めまして』
血管が萎縮し寒空の下に放り出されたかのように緊張に指が震える。
このメッセージが私を助けてくれる一助となるかどうか勝手に期待しているせいだ。
過度な希望は抱きたくない。なぜなら絶望へと変わった場合の落差が激しければ激しいほどこのあとの私はみっともなく暴れるからだ。そんな自分の未来すら見えてしまう。
だからタップするのに恐ろしいほどの覚悟を必要とした。
唾と息を呑み、唇をぎゅっと結びタップする。
そこにはこう記されていた。
『私はこの世界の管理をしている存在です。
異邦人であるあなた方にメッセージを送っています。
おそらくこの世界に訪れてさぞ困惑しているでしょう。でも安心してください、帰還は叶います。
【荷物】にとあるポーションを入れています。それを飲めばいつでもこちらに来訪する直前にまで遡りあなたがいた元の世界に戻れることを保証します。
また、もしこちらでしばらく暮らしたいという方はそれでも構いません。
こちらとあなた方の住む世界とは進む時間の速度が違うので、人の一生を終える時間を過ごしても一日も経っていないでしょう。死亡された場合も送還します。特に制限もしません。
ただ魔物を倒したときに出る『魔石』を供えて頂くと量によって特典をご用意しています。
宜しければ魔石を供えて頂ければありがたく思います。
それでは楽しい異世界生活をお送りください』
開いた口が塞がらないとはこのこと。
何度も読み返す。何度見てもなんじゃこりゃ、という感想しか出て来なかった。
【荷物】をソートして新着順に変更すると確かに『帰還用ポーション』というのがあった。
「あは……あはははははは……」
途端に笑いが込み上げてきて、ベッドに倒れた。
帰還はできる! 帰還はできる! 帰還はできる!!
緊張感がひょうし抜けしたように霧散し、力が入らない。
良かった。本当に良かったよ。
危惧してたことが一気に解決できて涙まで出てきそうだった。
でもまだ気になる点はある。
メールには『あなた方』とあった。複数形だ。
これが意味するところは私以外にもやってきている人がいるってことだ。
……ちょっと会ってみたい気もする。
いつポーションを飲んでもあの直前にまで戻れるならこの世界を旅するのも悪くない。
ちょうどスーパーマンのようなこのアバターの力もあるのだから。
帰れると分かってちょっと欲が出てきたかもしれないわ。現金なもんだね。
「それにしたって、腰が低い神様だわ」
世界を管理という遠まわしな言い方だけどつまりは神様のことだろう。
いきなりやってきた私たちを気遣ってくれているのが窺える文面だった。
魔石集めを促しているけど見返りもあるみたいだし供えるっていう具体的な方法が分からないけど、帰る前に助けてあげてもいいかな。
なんだか急に前向きな気持ちになってきた。
「そうと決まれば……寝るしかないか」
まぁもう夜なので寝るしかない。
でも日が暮れてそこまで経ってもいない時間で寝るって無理だ。現代っ子舐めるなよ。
せめてお風呂でもあれば……ってそういやあった。
がばっと起き上がりいそいそとドアを開いて外に出る。
外気が頬に当たり日が沈んだ外は涼しい。
すでに夜になっていて外灯なんてあるはずもないこの村の闇は濃い。しかし私にはスキルがあるから問題はなかった。
ただそれを使う前に見上げると、空に広がる夜空のキャンパスには煌く満点の星々が描かれていた。
――うわぁ……すごい。
月並みな感想だけどこれは本当に素晴らしかった。あまりの全景パノラマに声を発することも忘れるほど。
小学校の時分に林間学校で山奥に泊まったことがあってそのときに夜に見た空も綺麗だった覚えがあるけどこれはそれ以上だ。
きっと周りに明かりが無いおかげかな。邪魔をする光が無いおかげで感動的な一面が広がっていた。
他の家はすでに窓も閉じていて全く明かりが見えない。
地上は空恐ろしくなってくるような暗黒で自分の手足すら闇に紛れるほど。
なのに頭上は別世界。それこそ精霊や神様がいてもおかしくないような輝きと神秘に溢れていた。
――この感動を独り占めしたい。
そんな欲望のまま私はウィンドウの【荷物】から『五右衛門風呂』を出現させた。
人一人が入れるサイズの木の蓋のある大きな釜がどんと地面に置かれる。
丸みを帯びたフォルムで底だけ平らになっているので転がる心配はない。
蓋を持ち上げると、もわっと大量の湯気が立ち上った。
このアイテム自体は大和伝ではゲーム内通貨で買える拠点用のインテリアの一つだ。
曰く付きだけど別に呪いのアイテムでもなんでもないただのフレーバーだ。
すでに良い湯加減なので薪で下から焚いたりする必要がないのはありがたい。
私はきょろきょろと周りに誰もいないことを確かめてから装備をボタンで全部解除する。
案の定、インナーの上下だけの姿になった。
ゲームでは服のまま入浴するシュールな光景でスクリーンショットを撮ったりして面白かったけど、今それをしたらただの馬鹿だ。
「よいしょっと」
蓋の上に脱ぎ捨てすっぽんぽんになる。
ちょっぴり開放的な夜空にテンションが上がってかなり大胆な行動をしている自分に恥ずかしくて頬を染める。
素肌に澄んだ夜風が当たり新鮮味のある刺激が肌を刺す。これは何かに目覚めてしまいそうだ。
いや、こんなところで痴女の称号を獲得している場合じゃない。
ゆっくりと指をお湯に浸ける。
「温かい……」
お湯加減を確かめてみるとやや熱いがお風呂ならちょうど良い。
本当なら木の蓋を底に敷いて入るそうだけど火を使っているんじゃないしこれなら要らないかな。
かなり高い位置に縁があるので元の体なら踏み台が無いと入るだけで難儀しそうだったけど、今の指一本で逆立ちできる強靭な体なら楽勝だった。
足から腰、そして肩まで浸かると私の体積分のお湯が盛大に零れ、ふぃ~と変な声が出る。
ちなみにこの体のモデリングは私の理想体型だ。
現実の体よりも身長は少し高めで、胸はやや大きく、腰は細い。
顔も含めるとキャラメイクに一時間ぐらい掛かった代物だ。課金アイテムでいつでも変更はできると知ったのは後だったけど。
指でちょんちょんと釜の縁を触ると熱いことは熱いけど
肩と体重を縁に預けると自然と音も無く瞬く壮大な星に目がいく。
良い体験させてもらってるねぇ。ついさっきまで悩んでいた自分が恥ずかしくなってくる想いだ。
まさしく汗と一緒に洗い流されていく、心の洗濯とはよく言ったもんだ。
「この世界はどんなところなんだろう」
待っているのは魅惑的な幻想の風景だろうかあるいは地獄のような惨状だろうか。
人が住み、モンスターが
それこそ、私がゲームに求めていたものではないだろうか。
あの空の続く未知の先はどうなっているんだろう。まだ何も知らない。何も分からない。
文字通りトクトクと期待に胸が高鳴った。
「あぁ、良い湯だなぁ」
手でお湯を掬い顔をバシャバシャと洗い擦っていく。
熱で血管が開いていき頬がほんのりとピンク色に染まるのを感じた。
そうして遮るもののない満天の闇夜に感嘆と白い蒸気が溶けていくのをゆったりと眺めこの世界に想いを馳せる。
十分に異世界入浴を満喫し体を拭き服に着替えてから五右衛門風呂を一度ウィンドウに戻して再度出すという実験をしてみたらまた温かくなっていた。
これでいつでもお風呂に入れるね!
自分でも気付かないほど思ったより気を張っていたのか五右衛門風呂でリフレッシュしたおかげか、それからすることもなくベッドに戻るとそのまますぐに意識が落ちていった。
翌朝は、どんどん、と扉を叩く原始的な音で目が覚めた。
小さくて古い家だからノッカーすら付いていないのを寝ぼけまなこで思い出し旅館で用意されるような藍色の模様が入った浴衣の寝巻き姿でベッドから出る。
これは性能は低い見た目用のファッション系の装備だ。
入手したもののほとんど使わなかった無駄アイテムたちが意外とここにきて役に立っているのは嬉しい。
「はいはい、新聞の勧誘は間に合ってますよ~」
のそのそとした足取りで玄関まで歩く。
施錠を外し扉を開けると誰もいなかった。ホラーだ。
まさかファンタジー生活二日目がホラー体験とは思いもしなかったよ。いやこの場合は
「お姉ちゃん! おはよう!」
いやいた。
顔を下に向けるとリズがテンション高めの挨拶をしてきて、にっこりと笑顔を作っていた。
「おはよう」
昇る太陽を窺う感じだとまだ七時ぐらいだろうか。
いくらなんでも早過ぎない? あぁでも皆早く寝るから起きるのも夜明けとかなのかな。カルチャーショックだわ。
リズは私の浴衣を見て目をぱちくりとさせていた。
こっちではなかなか見ない格好だろうし驚くのは無理もない。
「あれ? そんな服持ってたの?」
「えぇ、魔法で出したの」
「すごーい!」
説明するのも難しいので適当に返すと予想以上に目を輝かせてくる。
見たこともない浴衣の形状や柄にご執心のようだ。
丸きり嘘ってことじゃないけど何でも魔法のせいにするのは心がチクっと痛む。
でも他に説明の仕様がないしなぁ。私だって何でゲームのコマンドやアイテムが使えているのか分かってないんだもん。
「それより朝からどうしたの?」
「あ、そうだった。ねぇ、お姉ちゃん。朝ご飯まだでしょう?」
「えぇまぁ」
「持ってきたよ。一緒に食べよう!」
リズがバスケットにパンとスープの入った深皿を用意して持ってきてくれたようだ。
こっちでの食事に興味があるし、頷いて招き入れた。
机に座り、期待して出てきたのは固めのコッペパンのようなパンだった。
毎日齧ると歯が鍛えられるかもしれない。唾液で少しずつ柔らかくなっていくと食べやすくなるけど美味しくないね。
スープは赤く、啜るとトマトスープのような酸味の利いた味がした。
具材はじゃがいもと白菜のようなものだろうか。こっちはまだ食べられる。でもちょっと薄味。
「ねぇ、リズ。いつもこんな感じの食事なの?」
「えぇそうよ。お母さんが助けてもらったお礼に持って行きなさいって。あ、パンはスープにひたして食べるのよ?」
むむむ、ちびっ子に教わることになるとは。
それはともかく自身の境遇に無自覚な瞳はこの食事に不満がないと語ってくる。
味もそうだけど、量も少ない。まだ幼い少女ならこれで事足りるのかもしれないけど、私としてはこれが一食分とするなら
こういう豊かではない生活をしているのならきっと
あえてそこは訊かず感謝を抱きながら食べ終わる。
でもやっぱりまだ物足らなかった。
「ねぇ、甘いものが欲しくない?」
「甘いもの!? あるの?」
ウィンドウを弄り、HP回復用の【みたらし団子】を机に置く。
笹の中にある串に刺さった丸い団子には少しお焦げが付いていて、とろりと甘ったるいハチミツのようなみたらしが掛かっている。
リズは突然現れた食材に興味津々のようで、鼻をすんすんしながら犬みたいに嗅ぐ。
「これはみたらし団子って言ってね。お米っていう食材を粉にして丸めて焼いたものなの。三本あるから二本あげるわ。串の先を喉に当てないように気を付けてね?」
「ありがとう! ……うわぁ、何これ何これっ! ハチミツよりも甘くてまるで砂糖が溶けているみたい! 丸いのも歯で噛んだ感触が無いぐらい柔らかいわ!」
大好評のようだ。口元に茶色い蜜を付けながら嬉しそうに弾む姿は可愛い。
気のせいか血色が良くなっている気もする。HP回復効果が効いてたりするかな。
「そういえば、薬草はどうだった?」
「少し効いたみたい。だいぶ楽になってたわ。ゴブリンがいる前はずっと採りに行ってたんだけど、今はなかなか森に入れないの」
「そうなんだ」
「でもたぶん大丈夫。今、村の人がお金を集めて町に強い冒険者さんたちを集めに行っているの。退治してもらったらすぐに前の生活に戻れるわ」
一瞬、私がやろうか、と口から出そうになった。
でもまだ自分がどこまでやれるか分からないし、出しゃばるのもよくないことかもしれないと思い直し話題を変える。
「町って近いの?」
「少し遠いわ。馬車で三日ぐらいだって。私はまだ行ったことがないけど大人になったら行くのが夢なの」
「へぇ」
「あ、そうだ。ねぇ、お姉ちゃん。村を案内してあげる。行きましょ! 急げばヤギのお乳がもらえるかもしれないわ」
「え? え?」
突然のリズの提案に戸惑った。
ヤギのミルクは正直要らない。それでも善意から来る行動に断りきれなかった。
「さぁ早く!」
「ちょっと待って、着替えてから!」
引っ張られるように外に連れて行かれる。
もちろん服を着替える時間はもらったけど。
村は思ったより活気が少なかった。
まだ早朝と言って差し支えのない時間帯なのにすでに仕事を始めている姿は随所で見られたが、誰もかれも思いつめたような表情をしている。
その理由には思い至らずなんだか暗い村だな、という感想を持ちながら歩く。
他に目に付くものはなく、畑で作業する人や川で洗濯する主婦などが時折こっちを訝しがったり恐がったりするように遠巻きに排他的な視線を向けてくるがそれぐらいだ。
ちょっと警戒心が強過ぎる気もするが、かなり田舎っぽい村だしよそ者への対応としては間違ってないのかもしれない。
リズの先導に行き先を任せているとその途中に十数人程度の集団が剣呑な雰囲気で話し込んでいるのを発見した。
「ねぇ、あれ何しているの?」
「分かんない」
「ちょっと近付いてみましょ」
距離を縮めると男たちの重苦しい声が届いてきた。
その中の中心にいる弓を持った三十代ぐらいの男性を見てリズが「お父さん」と小さく呟いた。
「ゴブリンたちは殺気立ってた。ひょっとしたら今日明日辺り襲って来るかもしれない」
「せめてあと一日。一日あれば冒険者たちが来るはずなのに。なんでこんなことに……」
「一体誰が昨日ゴブリンを殺したんだ? 殺したのはまだしも死体をそのまま放置とか最悪だろ。俺たちがやったように思われるってのに!」
「全員で今から掛かればなんとかなるんじゃねぇか? しょせんはゴブリンだろ?」
「馬鹿、スコットの話を聞いてたか? 洞窟には五十匹以上はいるそうじゃねぇか。勝てたとしても確実に被害が出る。働き手がいなくなったら村はお終いだ」
「だからって何もしないよりはマシだろ! 現に農作物や家畜が盗まれてんだ。これ以上我慢できっかよ!」
私は立ち尽くし青ざめた。
断片的にも会話を聞けば分かる。
私のせいだ。私のせいでこの村が狙われているらしい。
そうか、さっきみんなに悲壮感が漂っていたのは私が原因だったんだ。
「お姉ちゃん……」
ぎゅっとリズが強く手を握ってきた。
この子も罪悪感に
さっきまで屈託なく笑っていたのに花がしおれるかのように急に曇ってしまった。
その表情は怯えて唇を噛み締め不安げだ。
そこに狩人風の男――リズの父親がこちらに目を向けてきた。
髪は彼女と同じ栗色。目元と顎のラインがよく似ている。
彼の目線に他の村人たちも気付き振り返ってきた。
「見慣れない娘だ」
「昨日、迷子になってたリズを森で助けたってよ」
「まさかあいつがゴブリンを殺したんじゃねぇだろうな」
こういうときほどなぜか
知らない人間たちの断罪するような突き刺さるような視線がナイフのように抉ってきて痛い。
体だけは丈夫なのに心は逃げたくなる。
けれど、
「お姉ちゃん――怖いよ」
すぐ傍でされたことがないだろう大人たちの無遠慮な態度に
私は何を考えているんだ? こんな小さな少女が助けを求めているのに自分だけは逃げようとしていた? 馬鹿げてる。
「そもそもなんでゴブリンを……」
まずい、と思った。
このまま放っておくとリズにも飛び火する。
私だったら構わない。どれだけ汚名を着ようともどこへでもこの身一つで飛び出せる。
だけど、ここで暮らす彼女に迷惑が掛かるのはいけない。
「お姉ちゃんは……お姉ちゃんは、悪くないよ!」
予想外にも、そんな私を救おうとしたのは私の胸ほどにしかない小さな少女だった。
周りは年上の大人たちばかりの中、なのに最も華奢で若いリズが声を上擦らせながら声を振り絞ったのだ。
今にも泣き出しそうな顔は引きつり、拳は固く握られ小刻みに震えている。
心が押しつぶされそうな錯覚を私は味わう。
思いも寄らないとこからの宣言に誰もが唖然として彼女に目を見張った。
だがその勇敢な行為も効果があったのはたった数秒だ。
すぐに我を取り戻した大人たちはむしろさらに疑惑の色を強める。
「悪くないってことはまさか……」
言い方が悪かったみたいだ。リズの言葉の意味をすぐに察せられた。
これはもうどうしようもない。
「お嬢さん、ちょっと訊くがあんたが「私がゴブリンを殺しました」」
こんな小さな子が勇気を振り絞って守ろうとしてくれたんだ。
その一生懸命さに胸が焦がれる。焦がして焦がしてそれが私の心に火を点ける。
そしてその意思を瞳に乗せ、しっかりと彼らを見据える。
だから集団の一人が言い終わる前に自分から告白した。
逃げるわけにはいかないでしょ!
「なんだって!?」
「おいおい嘘だろ」
「ならあいつのせいで……」
そして空気が一変する。
誰もが目を大きく開けて非難がましく睨んできた。
「お姉ちゃん」
眉間の眉を曇らせリズがこちらを見上げるので、心配いらないとばかりに微笑で返す。
大丈夫、今の私は女子校生の
こんな突発的な
「責任を取ります」
「責任って、お前が全部退治するとでも言うのか!」
一番近くにいた若い男が喧嘩腰ににじり寄ってくる。
どこかで見覚えがある気がした。確か村長の息子だ。
「そうです」
率直に告げた言葉はしかし彼の怒りに油を注いだだけのようだった。
十代半ばの鍛えてもいない体の女の子がそんな主張をすれば信じられないのは当然だ。
見る間に眉毛が吊り上がり血管が浮かぶ。
「ふざけるな! お前のせいでこっちはいい迷惑だ! 死人が出たらどうしてくれる!?」
唾を飛ばし激高する。当然、誰も私を庇う人はいない。
それどころか全員が彼を支持するようだ。
もっともな言い分だ。言い訳する気もない。
――だから行動で示す。
「実力をお見せします」
私は急いでウィンドウを操作し【忍術】欄をクリックする。
食い入るような視線の中、自分の胸を思い切り叩いた。
「―【
「「「なっ!?」」」
瞬きする間に突如私が消失し、その代わりに丸太が出現した。
一日一回(大和伝では一日が四時間)の制限がある緊急回避忍術だ。
視界に映る任意の場所に瞬間移動可能。本来は敵の攻撃を食らうタイミングで発動させるものだが、自分で自分を攻撃しても使うことができる。
消えた私を追おうとして村人たちは右往左往しながら目を剥いて動揺する。
「こっちです」
私がリズの父親の後ろからひょこっと姿を現すと彼らは一斉にこちらを向いた。
みんなが口を開けて呆然としている様は手品を披露しているみたいな感覚で面白い。
ぶっつけ本番でやったがどうやら忍術もちゃんと使えるようだ。
もし使えなかったら地味に身体能力の高さを見せるしかなかったけど、これなら調子に乗って見栄えするのをお見せしましょうかね。
再度ウィンドウを開きタップする。手の平に巻物が出現した。
急に何もないところから物体が現れたことに周囲はさらにざわつく。
「耳を閉じた方がいいよ」
私の注意にちゃんと従ったのはリズだけだった。
他は驚き過ぎたのか元から信じる気がないのか呆気に取られたまま。
その様子を見て口元を緩めるように微かに苦笑しながら、巻物を上空に放り投げる。
「爆ぜろ! ―【
突如、私の
SP消費で何度でも使える大規模の火属性の範囲忍術だ。
爆発の余波でビリビリとした衝撃波が僅かに体を通り過ぎていく。
明るい青空では映えないけれど、破裂した効果音も大きく花火のようでインパクトは十分だろう。
現に遠くから馬や牛の悲鳴のような
「これでも私じゃ力不足ですか? ……あれ?」
格好良く決めたつもりだったけど、空を向いていた顔を下げると村人たちが全員尻餅を着いて怯えていた。
しまったやりすぎた!
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