その5 追いかける僕

「僕が亜理寿さんを意識したのは、やっぱり高校の頃だな。駅ビルの本屋とかマックとかで時々見かけただけだけれどさ。誰ともつるまないで凜としていて綺麗だな、そう思ったのが始まりかな」


「独りだったのは他人が怖かったからで、格好いい理由ではありません」

「うん、それは此処に住むようになってから聞いた。でもそれは納得出来る理由だったし、それで幻滅するという事は無かったな」

 そうさらっと答えて、僕は続ける。


「まあそんな訳で僕が医理大に来て、そして亜理寿さんに再会した。雰囲気が高校の頃と同じだったからすぐに気づいたな。声をかけようかどうか迷った時、亜理寿さんから話しかけてくれてちょっとほっとした」

「あの時は文明さん、まだ名前は知らなかったですけれどね、再会出来て嬉しかったのでつい声をかけてしまいました。ついでに随分余分な事も言ってしまいました」


「その後美鈴さんの件があって、あの時は亜理寿さんが来てくれて助かったな。多分亜理寿さんが来てくれなかったら、ここから出て寮に入っていたと思う」

「私はお近づきになりたかったのでこれ幸い、という感じでした。だから感謝する必要はありません」

「でも僕は感謝しているよ。亜理寿さんのおかげで美鈴さんとも出会えて、そして結果ここが楽しい場所になったんだから」


「此処にこれだけ色々な人が集まるようになったのは、真理枝さんのおかげだと思います」

「真理枝さんが来たのも亜理寿さんがいてくれたからだよ。亜理寿さんのおかげで美鈴さんとも意思疎通出来るようになって、それで真理枝さんもやって来たんだし」


「でもその後、色々な事を文明さんに話してしまいました。文明さんが優しいからつい色々愚痴のような事を言ってしまったり、泣きつくに近いような事もしたり。そのたびに幻滅したんじゃないでしょうか」

「そんな事は無いな。実際亜理寿さんとしては色々大変だったんだと思うしさ。ちょっとでも楽になれるのなら幾らでも話して欲しいし、幾らでも話を聞くよ」


「でも私って面倒くさい女の子ですよね、本当に」

「その辺を含めて亜理寿さんなんだろ。それに面倒くさいと思ったことは無いよ。むしろ色々言ってくれるようになったな、と嬉しいくらいでさ」

「本気ですか?」

「何なら魔法で見てくれてもいいよ」

 ちょっとというか大分恥ずかしいけれど。


 こうやって今までを思い返してみて気づいた事がある。

 深川先輩や真理枝さんの言う通りだった。

 言葉を色々変えながらだけれど、亜理寿さんは僕に対して好きだとずっと言ってくれていたんだ。

 僕も勇気を出すことにする。

「僕は亜理寿さんの事が好きだ、だから一緒にいて欲しい」


 

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