その3 あとは若い者だけでごゆっくり
そんな訳で怒濤の様に三人が去ってしまった。
気がつけば真理枝さんと美鈴さんと三人だ。
うーん。静かになると微妙に気まずい雰囲気になる。
それにこの先、僕は亜理寿さんに何を言えばいいんだろうか。
こんな状況には当然慣れていないので不安を通り越して固まっている状態。
そして真理枝さんも立ち上がった。
「さて、この後は文明に任せるとするか。ねえ美鈴さん」
何だと! そう来るか。
美鈴さんが何か言って立ち上がる。
「あとは若い者だけでごゆっくり、だって」
「お見合いかよ」
まあ美鈴さんの実年齢を考えると、若い者扱いされても仕方無いのだろうけれど。
「あと夕食まだでしょ。キッチンに二人分用意してあるから。それじゃまあ、頑張ってね」
そう言って二人とも本来の自分の部屋の方へ戻ってしまう。
結果、リビングに一人だけ残されてしまった。
仕方無いので残されたガラスポットに入った紅茶をいただく。
うん、落ち着かない。
どうしようか。自分の部屋に帰ろうか。
でも夕食もあるんだよな。
一人で部屋に持って帰るのも何だし、食べてから部屋に帰ろうかな。
そう思った時、階段の音が聞こえた。
今の状況で階段を使うのは亜理寿さんだけだ。
足音が一番下まで降りてきて、そして扉が開く。
「文明さんだけですか」
仕方無い。
「さっきまで美智流先輩と深川先輩と抜田先輩の三人もいたんだけれどね。寮に帰ったし真理枝さんと美鈴さんも自分の部屋に戻った」
頷いてそう答える。
「そうですか。それで文明さんは火傷とか大丈夫ですか」
「傷すら何も残っていない。あと口羽は魔法を失ったって。美智流先輩達がその辺一通りを話してくれた」
「伺って宜しいですか」
「勿論」
亜理寿さんが僕の向かいに座る。
「それじゃ僕が気を失った後から、主に美智流先輩の話を中心に時間順に話すよ」
まずは状況の説明から。
僕は美智流先輩が魔法に気づいたところから、時間順になるように整理して話し始める。
◇◇◇
「つまり私と文明さんが気を失った後、鳴瀬先輩が火傷等を治してくれて、美智流先輩達が後始末をしてくれた訳ですか」
「うん、そんな感じだ」
僕は頷いた。
ちなみにリア充爆発しろとかその辺については流石に言っていない。
僕が起きた事を確認して、状況説明をした後帰ったという事になっている。
さて、ここからが本題なんだけれどどうしようか。
正直な処僕は真理枝さん達に言われた事をあまり信じていない。
亜理寿さんにとっては僕は“色々大丈夫な人“であってそれ以上ではない。
僕は今もそう思っている。
「そんな訳だけれど亜理寿さんの方は本当に大丈夫? 火傷とか魔法の支障とか?」
「ええ、それは全く問題ありません」
そう言った後、亜理寿さんは少し何かを考えている感じ。
あと表情がちょっと硬い気がする。
亜理寿さんは慣れないと割と無表情に見えるのだけれど、流石に一緒に暮らしているとそれくらいはわかるのだ。
「それでは夕食にしませんか。文明さんもまだなのですよね」
「うん」
「それでは用意しましょうか」
そんな訳でポットやカップを片付け台所へ。
亜理寿さんと僕の分の夕食を電子レンジや鍋で温める。
今日の夕食は肉じゃが、ブリの西京焼、サラダ、味噌汁という感じ。
五分もしないうちにテーブルに一通りが並んだ。
「それでは、いただきます」
二人での夕食というのは多分始めて。
ついでに言うと向かい合って食べるのも始めてかもしれない。
ここだと大体僕と亜理寿さんが並ぶ形になるから。
口羽対策で学食で食べた時も亜理寿さんとはいつも横並びだったし。
正面にいるので亜理寿さんの様子がよくわかる。
やっぱり何か動きというか雰囲気が固いように感じる。
勿論じっと見るのも何なので普通に食事をしながらの観察だけれども、
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