その2 リア充爆発しろ

「あれは色々あって亜理寿さんが僕に対して色々平気で、その分距離感覚が狂っているだけですよ」

 そう、恋愛とかそういうのとは別の問題だと思うのだ。

 単に亜理寿さんが僕に対して色々気にしないだけで。


「そういう口実にしているだけ、とは思いませんか?」

 美智流先輩がそう突っ込んでくる。


「実際、塚原さんや太田あたりとも普通に会話は出来るように見えたけれどな。更に言うと以前来た津々井君のクラスの人とも普通に受け答えしていただろ」

「表面的には困らない程度の受け答えは出来るって言っていましたから」


「そこまで出来たら基本的には普通の人と変わらないんじゃないかな」

 抜田先輩が更に追い打ちをかけてくる。


「他の人の車に乗れない、乗ると疲れるというのは本当だと思うけれどね。その辺はまあ、文明が頑張ればそれで済むと思うよ。それに亜理寿ちゃんは実際は車より速い交通機関を自分で持っているし」

 真理枝さんまで。


「お互いの気持ちは今回の件で充分わかったと思うのだ。そんな訳で我々は二人に対し『もう観念してリア充爆発しろ!』の言葉を贈ろうと思うのだ」

「実際今回みたいな件が何度も起こると大変だしね。そろそろ覚悟を決めて貰おうかと思ってさ」

 覚悟を決めろなんて、何処かの父親みたいな事を言わないでくれ。


 あ、そう言えば今の台詞で気になる事を思いだした。

「そういえば僕や亜理寿さんが気絶した後、どう片付けたんですか?」


「最初に駆けつけたのは私です。他の皆さんは授業があるので」

 まず美智流先輩が駆けつけたと。

「何かの術式的反応を感じたので研究室から出向いて見たところ、文明君と亜理寿さん、そして五十メートルほど離れて口羽君が倒れているのを確認しました。私一人では手に余ると判断して、抜田君を呼びました」


「取り敢えず三人ともざっと見て怪我等無いのを確認した。ただ口羽は明らかに何か恐怖を受けた様でちょっと酷い様相だった。だから触らずに術で寮の自室へ放り込んでおいた。

 更に医療関係で何かあるとまずいんで念の為緑ちゃんも呼んだ。更に授業をさぼった皆さんの出席点の為に真理枝を呼び出して指示した後、車の荷台に津々井君と亜理寿ちゃんを乗せて、美智流さんと緑ちゃんを乗せてこの家まで来た訳だ。

 更に言うと口羽は僕が見た時点で既に魔法のほとんどを失っている状態だった。まあ触れずに術で部屋に押し込んだのは他の理由もあるけれどな。あ、身体的な怪我等は無かった筈だ。それは一応確認した」


「あとは仕方無いから私が全員の授業を回って術で出席したことにした後、秋良に迎えに来て貰って此処に帰ってきた訳」

「その時に私が文明君の車を回送してきたから、明日の通学は心配しなくても大丈夫ですよ」


 なるほど。取り敢えずあの後の一部始終はわかった。

「どうも色々お手数お掛け致しました」

「それはいいですから」

「僕は一応警告したと思うけれどな。まあ何とかなったからいいけどさ」


「そんな訳で、文明は亜理寿とそろそろ決着をつけるべきなのだ。いい加減リア充が目の前でうだうだしているのを見ると爆発しろと思うのだ」

 おいおい深川先輩。

「深川先輩も結構モテるじゃ無いですか」

「踏まれたい枠だとか、合法ロリ枠とかの扱いはいい加減勘弁して欲しいのだ」

 踏まれたい枠って、ひょっとして。


「学園祭のあの闇ミスコンですか。医理大踏まれたい女子コンテスト」

 そう言えば文化祭の時、掲示板にコンテスト結果が出ていたな。

「今年は遂に三位に入賞してしまったのだ。そんなのばかり、いい加減にして欲しいのだ」

「私は二位でした」

「今年の一位は摩耶ちゃんだったみたいだね。僕は美智流さんに一票入れたけれど。やっぱり現役学生、それも三年までの方が強いなあ」

「抜田君、あなたもですか!」

 明らかに何らかの術がぶつかった気配がした。

 見た限りでは抜田先輩が美智流先輩の攻撃を捌ききった模様。

「まだまだ甘いな」

 抜田先輩がそんな事を言ってうそぶいているし。

 まあこの人は投票だけで無く委員会に参加していてもおかしくないけれどな。

 とっても楽しそうに作業していそうだ。


「さて、そろそろお姫様が起き出してくる時間だ。そんな訳で賑やかしはこれくらいにしておこう。真理枝も覗いたりするんじゃないぞ」

 抜田先輩と深川先輩が立ち上がる。

「はいはい」

「私は少し亜理寿さんと話をしたいと思うのですけれど」

「はいはい美智流先輩も今日は大人しく帰るのだ」

「そうそう」

 美智流先輩は二人に引っ張られるようにして立ち上がる。


「今日は本当にありがとうございました」

「いや津々井君、本日の君の本当の正念場はこの後だ」

「その通りなのだ」

 三人、正確には二人と微妙に引きずられた形の一人はそんな感じで出ていった。

 すぐ後に車のエンジン音がして、そしてそれも遠ざかっていった。

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