その12 露天風呂の時間です

「いやあ、最後の一戦、先輩達強すぎるなまったく」

「まあここはうちのホームフィールドだからね」

 サバゲは四人での生き残り戦二回、四人対美智流先輩&アンドレア先輩二回の合計四回実施した。

 僕は一回目が松原と同率優勝(二ポイント)、二回目が準優勝(やはり二ポイント)で松原が優勝(四ポイント)。

 なお初心者対経験者のフラッグ戦は二回とも経験者チームが圧勝した。

 何せアンドレア先輩も美智流先輩も動きが速いし狙いも正確なのだ。

 初心者の一般人が何人いても勝てる気がしない。

 まあ獣人と鬼だから勝てないのはある意味当然だけれども。


「これで一通り終わりですか」

 松原がアンドレア先輩に尋ねる。

「いや、最後の体験がひとつ残っている。あと夕食も用意してあるから食べていけ」

 夕食まで用意してあるのか。

 最初の予定とずいぶん変わったな。

 その辺を変えたのは誰だろう。美智流先輩か真理枝さんか、はたまた美鈴さんか。

 そんな事を考えながら家まで帰ってきた。


「さて、汗かいただろうから文明、外回りで風呂案内してやれ。タオルは棚にもう四人分置いてあるはずだ」

 アンドレア先輩の台詞に松原が?、という顔をする。

「風呂ですか」

「露天風呂だ。薪割りで作った薪は露天風呂用に使っているんだ。折角だから三十分くらいは楽しんできてくれ。その間に飯の準備をしておく」

「先輩達は」

「後から入るから大丈夫だ」

 先輩の方を未練がましく見ている長尾。

「さて、風呂はこっちだ」

 僕は三人を露天風呂へと案内する。


「何だよ、こんなに広いのか」

「なんでこんな広い露天風呂があるんだ」

「おーっ、風呂桶と椅子がケロリンだ。凝っているな」

 松本が何か違う処に感心しているが先に使い方を説明しよう。


「取り敢えずそこが脱衣棚。タオルは一人一本で、ボディシャンプーとシャンプーは適当にその辺のボトルのを使ってくれ。なおシャワーなんてものは無いから浴槽から直接お湯を汲んで体を流してくれ」

「取り敢えず了解。昔の温泉風の使い方だな」

「これって温泉なのか」

「残念ながら只の井戸水を沸かしただけだ。昼に割った薪でさ」

「それで薪割りが必要なのか」

「そういう事」


 一通り身体を洗い終わった後、浴槽へ。

「しかし何でこんなでかい風呂があるんだ?」

「畑だのサバゲだのバイクだの汗かく事が多いからさ。風呂が混むからという理由で作ってしまった」

「かなりおぜぜがかかったんじゃないか」

「風呂釜はアンドレア先輩のお姉さんのイライザ先輩の自作、この風呂は趣味の建築クラブの手作りだ。合計で七万円くらいかかったかな、風呂専用の中古井戸ポンプ込みで」


「これだと津々井、覗き放題だろ」

「結構しっかり囲いが出来ているしさ。強いて言えばリビングの窓から見えるけれど、風呂に誰か入っている時は基本的にあそこは閉めたままだしな」

「という事はこの風呂は混浴という訳か。ありがたやありがたや」

「いや実際混浴で入ることは無いから」

「でも時間交代で女子も入るんだろ。なら混浴だ」

「それって余り意味がないんじゃ……」

「ここにあのお姉様方が入っている、そう思えるだけで意味はある!」

 おいおい長尾、それは想像力豊かすぎるだろ!


「ただ思い切り体を伸ばせる大きい風呂っていいよな、確かに」

「確かにそれは言える。このややぬるめの湯加減もなかなか」

「そう言えばここって温度調整は出来るのか」

「一応ここに流れてくるお湯の温度を調整は出来る。あとは水で埋めるとかさ」

 実際は皆さんぬるめの温度で長湯をするのが好きらしい。

 だから温度調整はだいたいそうなるようにセットしてある。


「あと向こうの竹製の小屋は何だ?」

 露天風呂併設のサウナについても聞かれた。

「サウナを作るつもりだったけれど熱源がまだ出来ていない」

 まさか熱源は魔法使いだとは言えないので、そう言っておく。

「サウナが出来たら確かにいいかもな。特に寒い時期は良さそうだ」

「あと横に立ててあるあのミニプールは何だ?」

「あそこのパイプからの水を流して水風呂にするんだ。夏用だな」

 本当はサウナ用なのだがその辺はも誤魔化させてもらう。


「それにしても津々井の家、随分色々な施設があるんだな。昔からこうなっていたって訳は無いよな」

「今年春から色々作ったんだ。ユンボやトラクタもあるしさ、皆で切り開いて土木作業して」

「随分と大がかりな事をしたんだな」


「参考までにそのメンバーって全員女性か?」

「露天風呂は男子学生や建築の教授も混じって作ったけれど、他はほぼ女子学生ばかりだな。基本的に真理枝さんの知り合い繋がりで集まっているからさ」

「なんとうらやましい。もげろ、爆発しろ!」

「だからそんな関係じゃ無いって」


 それにしてもこの季節の露天風呂はなかなか気持ちいい。

 空気が冷たい分、ちょうど頭寒足熱で入ったら出られなくなるのだ。

 女子の皆さんも平気で一時間二時間と入っていたりする。

 サウナとあわせて数時間こっちに居るなんてのも珍しくない。

 おかげで僕が入る時の確認が色々大変だ。

 何せ真夜中に入っていたりもするから。

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