その9 昼ご飯の時間

 一人あたり十数本の丸太を割っただろうか。

「ご飯が出来たよ」

 真理枝さんの声で家の方へ。

「薪割り、思ったより疲れるし難しいな」

「まあ慣れと言えば慣れだけどな」

 アンドレア先輩はそう言うが、それ以前に結構腕力も必要だ。

 なにせ木って結構重いから。


 さて、今日はリビングの方に昼食を用意してあった。

 座卓が並べてあり女子含め全員で卓を囲む方針のようだ。

 僕としてはあまり皆さんを表に出さないつもりだった。

 でもまあこうなってしまっては仕方無い。

「取り敢えず食べながら自己紹介その他をしましょう」

と美智流先輩が言うので全員で、

「いただきます」

と唱和してから食べ始める。


 今日の料理はキノコ入り豚汁、キノコの天ぷら、ワカサギと小エビの唐揚げ、野菜と鶏肉の煮物という、この家だと良くあるメニューだ

「このキノコや唐揚げはさっき採った奴ですか」

「キノコは種類が少なかったのでここで採って冷凍したものも入っています」

 この説明は金子先輩。


「キノコ、汁も天ぷらも美味いなあ」

 がっついているのは松本。

「ところで皆さん、従姉妹の方を除いて医理大の学生ですか?」

 女子に注意が行くのが長尾だ。

「そうですね。他は皆さん学年や学科は違うけれど医理大の学生です」


「いつもここに集まっていらっしゃるんですか」

「私と亜理寿ちゃんと美鈴ちゃんがここに住んでいて、あとは寮員だよ。摩耶さん達は畑をやっていて土日は大体来ていて、美智流先輩と緑先輩、金子ネコさんとイライザは文明の友達が来るっているからここの紹介に来ている感じかな。あとはバイクとかサバゲーとかで来る感じ。

 ところであの車、抜田のよね?」

 真理枝さんも気づいていたか。


「ええ、三年の抜田先輩が貸してくれました、お知り合いですか?」

「遠縁みたいなものよ。数代遡った親戚。あいつ色々問題あるけれど、そっちに迷惑掛けていない?」

「いえ、般教の演劇学で知り合ったのですけれど、同じ科の先輩なので以前のテスト傾向や課題の作成例を教えて貰ったり、色々お世話になっています」

 長尾が中心に答えるところを見ると、抜田先輩と知り合いなのは長尾のようだ。


「じゃあ、ひょっとしてここへ来るように仕掛けたのも抜田君の仕業ですか」

 あ、長尾が一瞬反応した。

 一方で松本と松原は反応無し。

 これは有罪ギルティだな。


「いや、津々井が彼女連れて歩いているのを学園祭で見て、そう言えば彼女さんの事をここで見たってバイククラブの奴が言っていたんです」

「うちのツーリングクラブではここの家の事を言わないようにしようって言っていたんだけれどな」

 アンドレア先輩の台詞で長尾がまたびくっと動く。

 こいつ、本当にわかりやすいな。


 そして美智流先輩が小さく頷いた。

「その辺の筋書き含めて抜田君の入れ知恵でしょう、きっと。文明君をどう攻めようとか、何なら問い詰めるための証拠資料とかもきっと用意した上で。

 だいたい都合良くあの車を貸りたというのも変ですよね」

 なるほど、そういう事なのか。

 どうりで長尾の追及が色々厳しかった訳だ。


「抜田先輩とこちらの方とって、知り合いなんですか」

 松原の質問に美智流先輩と真理枝さんが大きく頷く。

「色々あるんだよ、実際」

 とりあえず僕はそう答えておく。

 パンティ泥棒の件とかは言えないけれども。


「まあ何となく抜田君の意図はわかるのですけれどね。今回は悪意ではないと思います。まああの人の場合、悪意無くタチの悪い悪戯を仕掛ける癖もありますけれどね」

「珍しいね。美智流さんが秋良の事を悪く言わないのって」

「天敵ですけれど評価はしているんですよ、残念ながら。さて」

 美智流先輩の視線に長尾がいちいち反応するのがなんとも言えない。


「実のところは抜田君が自分の思惑に皆さんを巻き込んだだけで、皆さんが悪い訳ではないから安心して下さい。あとご飯を食べたら、バイクとサバゲーの初歩をやって、更に最後のお楽しみをやる予定です」

「道具は一通り持ってきたから心配しなくていい。ついでだからここでどんな風に集まって遊んでいるか見て貰おうと思ってさ。文明が女子学生囲っているなんて噂になったらまずいしな」

 イライザ先輩、やっぱり気づいていましたか。

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