その6 ため池と沢
「ここのため池は小さいけれど色々住んでいるのだ。でも今日の第一のターゲットはワカサギなのだ」
ため池の北側護岸部分を歩きながら深川先輩が説明する。
「ボートとか氷に穴を開けて釣りをする奴ですよね」
「そうなのだ。でもこのため池はこっち側が深くて陽が当たって温かいから、場所さえ知っていれば岸からでも捕れるのだ」
「その前に右側の沢、ちょっと入ります。滑りますから慎重に」
金子先輩がため池に注ぐ小さな沢に入る。
それほど奥までいかない処で立ち止まった。
「これが典型的ななめこですね。こういう林の、倒木や落ち葉の下なんかによく生えています」
沢沿いの朽ちかけた倒木に、茶色のキノコがびっしりついていた。
「なめこってこんなに生えているんだ」
「ここの山は十数年人が入っていないようですから。なので色々残っています」
「どうやって採るんですか」
「ナイフで下をそぎ取る感じで採りますね。出来るだけゴミがつかないようにするのがポイントです」
そんな訳で百円ショップで買ったナイフを交代で使ってナメコを採る。
「このちょっと形が違うのもナメコですか」
「ええ、それは傘が開いた状態ですね。大きいけれどナメコです」
小さめのスーパーの袋ぎっしり採って、再びため池へ戻る。
「さて、さっきの沢から栄養分が入って、深さもそこそこあって、かつ日当たりが良くて温かい、ここがこの池のワカサギのポイントなのだ」
深川先輩がバケツから投網を取り出す。
「普通の場所だと投網は禁止されていたりするのだが、ここは文明の家の管理場所なので問題無いのだ。そんな訳で」
深川先輩は両手で網を持ち、ぐるっと半身を回転させて斜め上に広がるように網を投げる。
網は綺麗な円形に広がって水面へと落ちた。
「何気にこの網を投げるの、結構訓練したのだ」
そう言って網をヨイショよいしょとひっぱる。
網の黒い部分の少し上に銀色のキラキラした小魚が何匹も入っていた。
「第一投目にしてターゲット補足なのだ」
皆で網から外して袋に入れてクーラーボックスへ。
十二匹程確保した。
「次、やってみたい人手をあげるのだ」
僕と金子先輩を含む全員が手をあげる。
そんな訳で投網の練習会だ。
「ここを揃えて、ここを束ねて持つ。ここの錘が時間差で広がれば理屈上はうまく広がる筈なのだ」
そう説明されてもすぐに上手く投げられる訳じゃ無い。
投げてもなかなか綺麗に広がらないのだ。
ただ魚影はかなり濃い模様。
ちょっとでも広がれば数匹程度は入ったりする。
一人三投くらいして、やっと少し網が広がる程度までやったところで終了。
ちなみに僕の網にかかったのはワカサギ三匹、亀一匹。
成果はいまいちだけれど楽しい。
「でも思った以上に難しいな、投網って」
「実は夏休み、後半を使ってここで何回も練習したのだ」
「そうだったんですか」
「川組四人で特訓したのだ。亜理寿も忘れていなければ綺麗に投げられる筈なのだ」
亜理寿さんもそんな事をしていたのか。
そう言われれば時々オイカワとかを数匹捕まえてきたりもしていたけれど。
「さて、次は沢沿いを滝の手前まで行きましょう」
そんな訳で次はため池に注ぐ一番大きい西側の沢へ向かう。
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