その3 田舎体験ブートキャンプ開始
土曜日十時半。
車の音が玄関先から聞こえてきた。奴らの到着だ。
出てみると何か見覚えのある車だった。
「これって三年の抜田先輩の車じゃ無いか」
長尾が頷く。
「ああ。一般教養の演劇で色々教えて貰って以来世話になっている。津々井も知っているのか?」
「ああ」
何か抜田先輩の気配というか思念というか思惑を感じた。
ひょっとしてこの襲撃もあの人が糸を引いていたりするのだろうか。
案外ありそうで洒落にならない。
あの人冗談みたいな事ばかりしている癖に実はなかなか出来る人だからなあ。
「さて、着いて早々だが早速仕事だ」
倉庫から出しておいた巨大背負い式竹籠を二つ、手持ち籠を二つ指指す。
「我が家は薪生活だったりする。そんな訳で二人は薪拾いだ。薪というか落ちている枝とかを拾う感じだな。あとこの手持ちの二つの籠は山菜やキノコ用。そろそろ終わりのシーズンだがまだ少しは残っている筈だ。ジャンケンで負けた方が大きい籠、買った方が小さい籠だ」
「お客様をいきなり働かせる気か?」
「勝手にやってくるのは客じゃねえ!」
問答無用! という奴だ。
「成果によって昼飯も変わる。薪の量で午後の対応も変わる。心して拾うように」
勿論実際は変わりはしない。
風呂は既に薪をくべ始めているし、昼食は今までに採った山菜等で美鈴さんが作ってくれる予定だ。
つまりここの本来活動を知ってもらって色々な疑いを忘れて貰おうという作戦。
上手く行くかはわからない。
でも助平心満載で家中を見られるよりはましだろう。
さてジャンケンと思った時だ。
車の音が近づいて来た。そのまま家の駐車場に入る。金子先輩の車だ。
降りてきたのは金子先輩と深川先輩という妙な組み合わせ。
二人は降りてきてまっすぐ僕らの方へやってきた。
「少し寝坊をしたのですが、何とか間に合いました」
「田舎式ブートキャンプの開催なのだ」
えっ、先輩方、それはどういう事ですか?
「昨日主な場所はメモで教えましたけれど、やはり実地で教えた方がわかりやすいかと思いまして」
「そろそろワカサギもいい時期なのだ。折角ここに来たからにはブートキャンプ式に自然の恵みを味わって貰うのだ」
つまりこの裏山一周ハイキングについていく気ということか。
大丈夫かな。でも今更止めることも出来ない。
仕方無いので皆さんを紹介する。
「こちらは深川先輩と金子先輩。深川先輩は医学科三年、金子先輩は薬学科二年生で、それぞれこの山の魚介類、山菜やきのこ類については一番詳しい先輩だ。
こっちは僕と同じクラス、情報科学科の一年。右から順に松本と松原と長尾」
僕は特に意識した事は無いけれど、深川先輩も金子先輩も可愛い系女子だ。
深川先輩は小型細身ロリロリ風。
金子先輩はちょっと丸めの愛玩動物風。
女性に飢えたクラスメイトの三人と一緒で大丈夫だろうか。
「ちょっと車から追加道具を持ってくるのだ」
だだだーっと深川先輩が走って行ってリアハッチを開ける。
いつもの投網が入ったバケツと小型クーラーボックス。それに小さめの普通の網を取り出した。
荷物が多いな、仕方無い。
僕も走って行ってバケツとクーラーボックスを取り上げる。
「荷物ジャンケン変更だ、負け二人が薪用背負い籠、三番目がクーラーボックスと網、四人目と金子先輩がキノコ用手提げ籠で」
「では勝負だ、最初はグー!」
五回に及ぶ熱戦の末、勝負は決まった。
長尾と松本が背負い籠、松原が手提げ籠、僕がクーラーボックスと網だ。
「ではまず畑側からぐるっとまわって行くのだ!」
という事でそれぞれ荷物を持って、深川先輩を先頭に家を出る。
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