その12 ちょっとした緊急事態

 うどん屋は十二時少し前の行列の最後でちょうど売り切れになった。

 抜田先輩や塚原先輩の予想通りだ。

 昨日同様に片付けが始まる。


「このあとどうするのかな」

「ここの模擬店で五百円目安の買い物して一時半に向こう、文明の家に集合するの。そこで買ったものを皆で食べて、それから明日の準備かな」


「わかった。五百円くらいの食べ物を買っていけばいいんだね」

「でも塚原さん達、足はある? 車とかでないとちょっと遠いよ」

「抜田の車を貸して貰っているから大丈夫だ。場所は一応聞いているしさ」

 そんな訳で昨日と同様に動いて解散だ。


「今日は何を買っていく?」

 荷物を積み終わった後に亜理寿さんに尋ねる。

「やっぱり建築クラブのピザ、一枚は欲しいです。あとは何か見てみて美味しそうな者を探してみましょう」


 そんな訳でまずはピザ屋へ。

 本日のピザはダブルチーズピザと書いてある。

 予約名簿に亜理寿さんが名前を書くのを横で見る。

 うんうん、予約名簿に知っている名前がかなり入っている。

 今日のお昼も半分はピザだなきっと。


「売れ行き好調のようですね」

 店に川戸先輩がいたのでそう挨拶。


「ピザ焼きは元々教授せんせいの趣味なんだけどさ。お陰様で思った以上に売れ行きはいいよ。でもそっちのうどんも好調みたいじゃないか」

「おかげで今日ももう閉店です」

「それもいいよな。うちは三回焼いて売って、あとは研究室へやで飲み会だ」

「何なら皆さんでうち来ませんか。だいたい女子の露天風呂は午後六時前で終わりますから」

「いいなそれも。あとで教授せんせいと相談して連絡するよ」

「それじゃ皆さんによろしく」

「ほいほい」


 ピザ屋の予約受付を済ませたら模擬店をそぞろ歩きだ。

「何がいいかな。出来れば普段美鈴さんが作らないものがいいかな」

「そうですね。それ以外だと甘いもの関係でしょうか」

「確かに昨日は甘い系少なかったな」

 そう言いながら歩いていると。


「よっ津々井。あれ?」

「彼女さん連れか?」

 えっ。声の方を振り向く。同じクラスの長尾と松原だった。

 まずい。

 クラスの方では亜理寿さんの事や亜人女子関係の事は秘密にしている。

 どう説明しようか。とっさに考える。


「そっちは学園祭なにかしてんの?」

 まずは話を逸らし作戦だ。


「うんにゃ、何もなし。元々サークルとかやっていないしな」

「それより津々井、彼女がいるとか聞いてないぞ」

 第一作戦失敗。


「彼女というか高校時代からの知り合いだ。ここに来ているって後で知ってさ」

 とりあえず嘘では無い説明をしておく。

 彼女扱いしたら亜理寿さんがいやがるかもしれないしさ。

「クラスでは全然そんな事を言っていなかったな」

「特に聞かれてもいないしさ」

 誤魔化しまくって逃げる作戦……というか他に方法が無い。


「まあその辺は後で昼休みにでもじっくり話を聞こう。今は彼女に免じて尋問はひかえておいてやろう」

「ただし後で紹介よろ。友達も一緒に」

 思ったより簡単に解放してくれた。

 取り敢えずこの場は一安心だ。

 学園祭が終わった後が怖いけれど。


「友人さんですか?」

 亜理寿さんにそう聞かれる。

「同じクラスの奴。工学部は女の子がほとんどいないからさ。彼女なのかどういう関係か色々聞かれた。昔からの知り合いって言っておいたけれど」

「何なら今度から彼女ですって言っておきましょうか。その方が後で面倒なことにならないのなら。勿論文明さんが嫌ならば別ですけれど」


 おいおい、それでいいのかよ。

 でも彼女扱いすると僕の方が色々亜理寿さんの事を気にしてしまいそうだ。

 あくまで僕は亜理寿さんが色々人になれるためのサポート。

 そう徹するつもりだしさ。

 それだけでも充分楽しいし。


「まあ、また聞かれたらその時考えるよ」

 さて、気を取り直して模擬店巡りの再開だ。

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