その10 男性亜人の登場

 今日も朝九時半にはうどん屋を無事開店。

 今回は開店早々から十杯、一気に売れた。

「昨日見ていて美味しそうだったけれどさ、気がついたら売り切れていて」

という事だそうでさる。

 幸先がいいというべきだろうか。


 ただその後は比較的暇な時間が続く。

「何だったら学園祭、他の処も見てきたらどうですか?」


「うーん、わざわざ見に行って面白いのって、演劇部と軽音くらいなんだよね。漫研と文芸部の学園祭号は買っちゃったし」

「そうですね。基本的には模擬店ばかりですからね」

「演劇は土日じゃなくて平日見に行った方が空いているし、軽音は最終二日の夜がいいんだよね。他はまあ、知り合いのところに顔を出す位かな」

 なるほど、それで今日はあまり動かない予定という訳か。

 そんな訳で皆、うどん屋の裏でのんびりたむろしている。


 深川先輩がふっと動いてうどんを六玉、茹ではじめた。

「お客さん?」

「一応は、なのだ」

「建築クラブかな」

「そっちはあと三十分後なのだ」

 そういう予知って便利だよな。

 でも一応お客さん、というのは何だろう。


 取り敢えずうどんを茹でている間に丼と箸を用意する。

 うどんを洗って丼に投入したところで”一応“の意味がわかった。

 五人連れの男性客なのだが一人非常に見覚えのある人がいる。

 抜田先輩だ。


「食べに来たぞ。全員セットで五人分」

「男性亜人揃って来るのは珍しいのだ」

 という事はやっぱり、皆さん男性亜人なのか。


「何やかんや言って最近いろいろやっているようで皆気にしているからさ」

「また何か企んでいませんよね」

 これは美智流先輩。

「今日の処は案内役ってだけだな。そんな訳で注文、僕は関西風でかしわときのこセット」

「では僕は関東風、マイタケとシメジとちくわ」

「じゃあ関東風で、かしわとキノコ汁」

「同じく関東風、かしわ、きのこセット」

「関西風、きのこセットとかしわ」

 きのこセットというのはサワモダシとサクラシメジとムキタケの天ぷらだ。

 天ぷら三つで二つ分のお値段になっている。


「新人も増えているな。後で自己紹介宜しく」

「抜田君はどうせ全員知っているでしょ」

「実はその通りだが僕以外はそうでもないのでね。まあ先にこっちが自己紹介しておくか。僕は抜田、工学部三年。そこにいる真理枝の親戚みたいなものだ。宜しく。じゃあこっちは塚原さんから学年順で」


「塚原です。医学科四年で、正体は鬼です。よろしく」

 塚原さんは男性としては小柄で人当たりの良さそうな人だ。

 鬼という感じはまるでない。


「太田だ。医学科三年で雷獣。ここの屋台には明日の昼に世話になる。よろしく」

 細めだががっしりした感じで、格闘技をやってそうな感じの人だ。


「粟屋といいます。工学部機械工学科二年で狼男です」

 丸顔でやや太めで、狼男という感じはあまりない。


「長谷、工学部電気工学科二年。インキュバス」

 確かに細めで美青年という感じだ。


「あとは鳴瀬さんと三次ってのがいるけれど、鳴瀬さんは残念ながら捕まえられなかった。三次はまだ危険なので誘わなかった。あと一年男子で一人亜人がいるけれどまだ連絡取るほどの仲じゃ無い。そんなところだな」


「あれ、じゃ抜田先輩、この人は?」

 粟屋先輩が不思議そうに僕の方を見る。

「ああ、津々井君は普通の人間だ。この女性亜人の溜まり場の大家だと思えば間違いないな。近くに山付き畑付き一軒家があって、そこの家主だ」


「家主って、親とかは?」

「元々祖父と祖母の家で、十年くらい誰も住んでいなかったんです。大学が近いからその家に引っ越して」

「本来は一人暮らしを謳歌していた筈だが、座敷童がいたおかげで女性亜人一同に半分以上乗っ取られてしまった被害者だと思ってやってくれ」

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