その9 抜田先輩の退出
ただ抜田先輩の参加によりうどん生地作りは確かにスピードアップした。
この人、何気に器用で何でもできるのだ。
しかも体重も僕よりあるから足踏み作業もいい感じで進む。
結果として予定の倍以上の量の生地が出来上がった。
ここから先、伸ばして切る作業は金子先輩の担当。
外も賑やかになってきた。
キノコ採取班が帰ってきたようだ。
「ただいまー、あれ、何で抜田先輩いるんだ?」
「今日の午後手伝い予定だったけれど無くなったからな。明日もあんなに早く営業終了されると困るから手伝いに来た」
「何を企んでいるんですか?」
「今回は何も」
美智流先輩にそう言った後さらっと付け加える。
「美智流さんも甘いよ。今日はあと二十玉は用意するべきだった」
「それは確かに反省点です。それで」
「明日は最低九十食は用意して貰おうと思ってさ。あと明日午後の手伝いは私では無く塚原さん、明後日は太田にやって貰う。その後は未定。神通力持ちという観点から見ると鳴瀬さんが順当なんだがあの人に世俗の事が出来るか怪しいから」
「わかりました。その辺の方なら問題無いでしょう」
「参考までに三次も来たがっていたが修行が足りないと言っておいた」
「その方が無難なのだ。ナルは色々問題が多すぎるのだ」
その辺の会話がよくわからない人用に真理枝さんが解説する。
「そこにいる秋良、いや抜田先輩は化狸で工学部の三年よ。塚原先輩は医学科四年で鬼神、太田先輩はやっぱり医学科の三年で雷獣。今名前があがった先輩達は皆さん男性の亜人で抜田先輩も含めて神通力を持っているの。少し先の未来くらいは予知できる程度にはね」
「それで三次さんというのは?」
朱里さんの質問に真理枝さんが肩をすくめる。
「医学科の二年生で吸血鬼、ただちょっと性格に難点があってね。一言で言えばナルシストで女性は皆自分に惚れていると本気で思っているような感じ。確かに美少年風ではあるんだけれどね、ちょっと身長が低いけれど。
ただ神通力までは持っていないかな。あと去年
なるほど、問題がある男性亜人の一人はストーカーまがいの事をした訳か。
それに比べれば抜田先輩は問題は無い方なのだろう。
今回の件を考えるとむしろ抜田先輩は色々頼みやすい方なのかもしれない。
「塚原さんも太田君もいい人ですよ。そこにいる抜田君よりまともだし」
「あ、美智流さんそれは無いだろう。こうやってわざわざ手伝いに来たのに」
「抜田君はいまいち信用できないんですよね。初夏にも一杯食わされましたし」
「あれは夏の元気なご挨拶という奴でさ」
「ご挨拶で下着泥棒の予告をする人が他にいますか」
ざわっ。
朱里さん達三人が一歩後ずさる。
「大丈夫、僕は神通力持ちの相手がいる時しかそういう遊びはしない。それに必ず予告してから犯行に及ぶから」
「それが迷惑なんです。何回私が酷い目にあったと思っているんですか!」
「前回は僕が目的達成できなかったから三勝三敗かな。何なら山井祥子ちゃんあたりを相手にもう一回くらい秋のうちにやってもいいかな」
「やらなくて結構です!」
「あらそれは残念」
抜田先輩はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「それじゃ用件は終わったので僕は帰るとしよう。明日は昼前までには塚原さんが顔を出すと思うのでよろしく。知らんぷりをされるとあの人すねるんで誰か知り合いが店から声をかけてやってくれ。ではでは失礼」
わざとらしく一礼して、そして抜田先輩は外へ。
はあっとため息をつく美智流先輩と真理枝さんに、深川先輩が突っ込む。
「いつも思うのだが、美智流先輩は抜田に対しては饒舌なのだ」
「あれを相手にする人が可哀想だから相手にしているだけです!」
「時にそれだけと思えない時もあるのだ」
「緑!」
微妙な表情の美智流先輩とにやにや顔の深川先輩。
「鬼神様がお怒りのようなので此処までにしておくのだ」
深川先輩がそう言ってわざとらしく逃げる。
どうやらその辺にもなにやら人間関係がある模様だ。
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