その8 抜田先輩の参戦

 皆で模擬店で購入した色々を持ち寄っての昼食。

 ただ結果的に買って帰った品物にかなりの偏りが出てしまった。

 圧倒的に建築クラブのピザばかりだったのだ。


 僕が最初に回った時には無かったのだけれども、どうも皆でうどんを食べた後から焼き始めたらしい。

 うどん屋と正門通りを挟んで反対側の通りの隅にいつの間にか出店していた。

 一枚五百円で具はチーズペパロニピザの一種類のみ。

 焼き上がり時間が書いてあって、それにあわせて売り出すタイプで予約も可能。

 美味しそうだったので午後一時焼き上がりを僕と亜理寿さんで頼んで持ち帰った。

 でも帰って皆で広げてみたらもう皆さん圧倒的にピザ、ピザ、ピザという感じ。


「知り合いがやっているのもあるけれど、やっぱり美味しそうだったからね」

 真理枝さんの台詞にうんうんと皆で頷いている。

 他のメニューは

  ○ ツーリングクラブのダブルのホットドッグ四本

  ○ 旅行研究会のサーターアンダギー五個入り二袋。

だけである。


「まあ焼きそばやカレーあたりは家で作った方が美味しいし、仕方無いですね」

「そうなのだ。でも今日の昼食はうどんのつもりだったので微妙に調子が狂うのだ」

 そんな事を言いながら皆で分け合って食べる。

 美鈴さんもピザやホットドッグはあまり食べた事が無いらしく喜んでいる模様。


「さて、食べ終えたら明日の仕込みを開始しますよ」

「目標七十食分なのだ」

 そんな訳で生地作りグループとキノコ採取グループに分かれる。


「マイタケってそんなに簡単に採れるんですか?」

「今回の学園祭分くらいは出そうな場所を確保してあります。でも明日からはマイタケの天ぷらは一人一個限定にした方がいいかもしれません。他にもサワモダシとかサクラシメジとかムキタケとか色々あわせてキノコのセットにしてもいいかなと」

 今回は金子先輩を始め主な面子はキノコ採取班へ。

 確かに天気もいいし外を歩く方が楽しそうだし。


 そんな訳で生地作りはいつも家にいる面子、美鈴さん中心に僕や亜理寿さん、真理枝さんで作成だ。

 混ぜて練って捏ねて丸めてとやっていたところ、聞き慣れないエンジン音が表から聞こえた。

「誰だろ? ちょっと見てみ……ええっ!」

 真理枝さんのその反応、誰が来たんだろう。

 見ると見覚え無いワンボックスバンから知っている人が降りてくるところだった。

 おいおいおい。いいのかこの人がここに来て!

 まあその、つまりは抜田先輩だ。

 勿論真理枝さんの事では無く、男性で通称悪狸と言われている出入り禁止なあの御方だ。


「手が足りなさそうだからな、手伝いに来た」

「それって本気?」

「本気も本気さ。だいたい明日の日曜日分、何食用意するつもりだ?」

「予定では七十食のつもり。今回五十食で昼直後に売り切れたから、二十食足して」

 悪狸氏はにやりと笑う。


「それだと明日はお昼まで持たないな。今日と同じで午前中いっぱいなんとか持たせるのを目標としても、あと二十食、九十食は用意しないと。

 塚原さんも太田も食べられなくて残念がっていたぞ」

 誰だろうその人達は。

 でも真理枝さんにはわかったようだ。


「その辺りまで話が行っていたんですか」

「当たり前だろ。特に塚原さんなんてここに顔を出したくてうずうずしているんだからさ。女子ばかりだしあの人は控え目だから何も言わないけれど、今回ここの味を再現するって聞いてかなり楽しみにしていたようだぞ」

 その台詞で何となく思い出した。

 男性の先輩亜人さん達だ。


「さて、そんな訳でうどんを量産するぞ。最低九十食! それ以上はまあつゆとか天ぷらの都合もあるだろうから無理かもしれないが、それくらいは作らないと明日は大変だ」

 そんな訳で強引に抜田先輩が仲間に加わる。

 まあ美鈴さんが何も言わないから多分問題無いのだろうけれど。

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