その5 学園祭開始

 取り敢えず一人でふらふら学園祭を回ってみる。

 本当は亜理寿さんと回ろうかと思ったのだけれどクラスメイトの目がある。

 そんな訳で最初は一人だ。

 見るとやっぱり食べ物の模擬店が一番多い。

 焼きそばとかお好み焼き、おでんもあるな。


 取り敢えず知った顔を見つけたので寄ってみる。

「よっ、稲城。早くも店番か」

 ツーリングクラブのホットドッグ売店である。


「来たな津々井、折角だから買っていけ」

「おうよ、シングル一本」

 ここのホットドッグはソーセージ一本入りが二百円、二本入りが三百円だ。

「毎度あり、ダブルで三百円!」

 おいおいおい。でもまあいいか。


「おいよ、三百円」

「毎度あり。悪いな」

「まあお互い様だしな。で、他にクラスの連中どの辺にいるかわかるか?」

 稲城は首を横に振る。

「俺はずっとここだからな。うちのクラスは基本所属無しが多いし、まだ寮で寝ているかもしらん」

「ありそうだな、確かに」

「津々井は何処か参加するのか?」

「ちょい知り合いのヘルプをする位だな」

 実際はどっぷり浸かっているのだがその程度で誤魔化しておく。

 なにせうちのうどん屋は抜田先輩を除けば女子ばかりだし。

 なお抜田先輩は真理枝さん経由で頼んだらあっさり参加してくれた。

 何故抜田先輩を誘ったかはまあ、後程。


 さて僕は早速ホットドッグをいただく。

 パンに二本ソーセージを挟み、マスタードとケチャップをかけてあるだけ。

 でもこういうジャンクな感じが結構美味い。

 あの家にいると正しい食事ばかり食べる事になるのでたまにはこういうジャンクな物を欲しくなるのだ。

 それに案外いいソーセージを使っているようで実際美味しいしな。

 そう言えば美鈴さんにこういったジャンクな食べ物を買っていってもいいな。

 案外喜んでくれるかもしれない。


 さて学園祭、他には演劇とかショーみたいなものもやっているようだけれど余り興味は無い。

 知り合いもそっち方面にはいないし。

 そんな訳で模擬店をひととおり回って、お土産少々買ってからうどん屋へ戻る。

 何かバックヤード側に人が増えていた。

「何か特に行く場所も無くてさ、戻って来ちゃった」

 真理枝さんがそう説明する。

 確かに特に見たい展示とか何か無ければぐるっと回って一時間程度だものな。

 学校自体がそんなに大きくないし。


「売り上げはどんな感じですか?」

「まだ四杯ですね。でもこれから、お昼くらいが勝負だと思います」

「そんな訳で差し入れ。取り敢えず店番優先でどうぞ」

 模擬店で買ってきた蒸し饅頭だ。

 十個ほど買ってきたが人数的にはぎりぎりという感じ。

 案の定あっさりと無くなる。


 饅頭を頬張っていた美智流先輩が突然別の動きを始めた。

 クーラーボックスからうどんを二玉取り出して茹で網に入れる。

「お客さん?」

「二人。つゆは関西と関東で、片方が天ぷらセット」

 ちなみに客はまだ姿も形も見えない。


 実はこれこそが美鈴さんが考えたうどん茹で時間対策だ。

 神通力を使える亜人はある程度の未来を予測できる。

 勿論具体的に全てがわかるわけでは無いらしい。

 でも十分後にうどん屋に客が来るだろう位の事は予知できるそうだ。

 この能力を使えば待たせること無くゆでたてうどんを提供できる。


 ただ神通力を使える亜人は限られている。

 いつもの面子では美智流先輩と深川先輩の二人だけ。

 なので抜田先輩に助っ人を頼んだわけだ。

 抜田先輩は狸だが神通力を使えるらしいから。

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