その2 うどん屋プロジェクト
「勿体ないな」
そんな川本教授の意見から全ては始まった。
川本教授は建築クラブの顧問で露天風呂を作ったあの人だ。
週末や休日になるといつの間にか現れて一緒に食事を食べていたりする。
時には竹小屋に潜伏していて門山先生に学校に引っ張って行かたりもした。
出版社からの電話から逃げていたそうである。
「あれはきっと先祖にぬらりひょんか狸か狢がいるね、きっと」
真理枝さんがそう言うくらい自然に出現するのだ。
既に獣人や妖怪がうろうろしている事は気づいている筈。
だが気にもしていない模様である。
さて、今日は土曜日の昼間。
昼食で山菜うどんを食していた時のことだ。
「この山菜キノコうどん、学園祭で出す気は無いか」
そう教授が言ったのである。
「これは趣味で作っているだけですから」
「でもこの味を他の人が知らないというのは勿体ない。一見地味だがこんなにうまいうどんは他にはあまり無いぞ。腰も味も文句無いし、つゆや天ぷらの山菜やキノコも美味いしな」
という事で最初の台詞になった訳である。
確かに金子先輩のうどんはとても美味しい。
僕自身はこれより美味しいうどんを食べた事が無いと思う位だ。
「確かにこのうどんなら商売になるかもね」
真理枝さんがあっさり乗った。
「でも数を作ったり、料理したりするのは……」
当人である金子先輩はまだまだ慎重な様子。
「既にここで充分数を作っていると思うがな」
確かに普通のうどん玉にして四十食以上は作っていると思う。
ここに集まる人は大食いが多いし、美味しい分皆さん食べるしな。
「でも場所とか道具とかありませんし」
「それ位うちの部員が幾らでも作るぞ」
おいおい、確かに作りそうだけれど。
「器は業務用の店でスチロール製のC丼でも買ってくればいいだろう。山菜とかキノコとかはどうせここの山のを採っているんだろ。つゆとか天ぷらは此処で仕込んで持っていけば言い。なんならうちの研究室でやってもいいぞ。調理器具はお湯を沸かす鍋とつゆの鍋があればいい。ガスはアウトドア用のでいいならいくらでも出てくるだろう。一日四十食ロット程度なら費用もそんなにかからないだろうし、余れば此処で食べるなりすればいい。注文を受けてから茹でる方式なら無駄も出ないだろう」
「確かにやろうと思えば出来そうですね」
真理枝さんがそんな事を言えば、
「屋台ならうちの研究会の荷車を転用すれば出来ますね。ポーダブルガスとかクーラーボックスを使えば費用はほとんどかからないと思います。あとはここで竹を切って持って行って飾り付けすれば大丈夫です」
稲森先輩は早くも屋台の設計図を頭に描き始めた模様。
「四十食くらいなら用意するのも今と大差無い程度で出来るだろう。それにもし売れるなら業務用にしか売ってくれないようないい小麦粉を買って試すことも出来る。どうかな」
あ、金子先輩の表情が動いた。
「なら吟打ちとか麺街道とか白椿とか……」
「二十五キロロットで買えばどの粉も大丈夫だ。何なら私が取り寄せてもいい。つゆもたっぷり作れば材料にこだわれるぞ。ここで昼食で試す以上に色々選べる。
何なら労働者も提供しよう。飯で釣ればうちの貧乏学生は簡単に雇えるだろう。何ならここの面子で暇な人間に参加して貰ってもいい」
「なら煎酒とかアゴ出汁とか赤酒なんかも……」
「それくらい買っても大丈夫だろう。原価計算はした方がいいと思うが」
「ねえねえわからない固有名詞が出ているけれど何なんだろう」
真理枝さんが小声でまわりに聞いている。
「最初のは小麦粉の銘柄で、あとは醤油とかトビウオを干したのかみりんとかです」
金子先輩本人が教えてくれた。
「その辺の素材は是非使ってみたいです。でも少し考えさせて下さい」
「わかった」
教授は頷いた。
「もしやると決意したら是非連絡してくれ。材料の注文はこっちでしてもいいしそっちに伝手があるならそれでもいい。及び屋台なり模擬店なりは言ってくれれば申請なり制作なりこっちでしよう」
「何か面白そうだね」
そんな訳でうどん屋模擬店プロジェクトがスタートしてしまった。
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