その8 夜空の下で
例によってお酒が一部で回り始め、だんだん男子的に危険な状態になってきたので二階へ避難する。
露天風呂が出来てからは一階全体が危険地帯になってしまった。
まあ皆さん楽しそうなので良しとする。
時に勘弁してくれとも思うけれども。
窓を開けてベランダに出てみる。
夜風が涼しくて気持ちいい。
西の空では半月よりちょい太めの月がまもなく沈もうとしている。
そして下からは宴会の賑やかさがここまで聞こえてくる。
現場は色々直視できない部分もあるが、この賑やかさは嫌いじゃない。
楽しんでくれているなと思うと何となく僕まで楽しい。
でもこれも何時までも続くわけではないんだよな。
美鈴さんは焦らなくていいと言ってくれたけれど、僕もいずれ色々考えなければならないのだろう。
この場所をどうやっていくかはきっと僕の責任だから。
どこまでこの場所でやっていけるか、どうすればこの場所でやっていけるか。
例えばイライザ先輩はもう就職の内定が出ていて、卒業したら東京へ出るそうだ。
工学部は卒業後はだいたい東京方面の大企業へ就職するのが普通だ。
元々ここは地元出身者がほとんどいないため、遠くへ就職する事に抵抗はない。
でももし僕が四年で就職しても、亜理寿さんはあと二年大学が残っている。
医学部の
できれば折角出来たこの場を終わりにしたくない。
父の時と違って今はそれなりにここにも残れる道がある。
決して太い道ではないけれど。
出来るだけこの場を残すためは僕がここに残れる方法を考えなければならない。
大学のある研究団地内の企業に勤めるとしても、研究者採用なら最低でも院二年は行く必要があるだろう。
採用そのものも少ないからパイプがある研究室を今から探しておいた方がいい。
僕に出来るかな。でも代わって貰う相手はいない。
やるしかないかな。大変だとは思うけれど。
トントン、僕の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
「入っていいですか」
亜理寿さんだ。
「どうぞ」
亜理寿さんが入ってきた。
「ベランダですか」
「そう、空が綺麗だから」
「お邪魔していいですか」
「どうぞ」
亜理寿さんがベランダにやってくる。
「あの状態じゃ文明さんは下にいられないだろうなと思って。よかったらどうぞ」
どこからともなくミニテーブルを出してくる。
「そしてこれも」
烏龍茶のペットボトルとプラスチックのカップ、川エビの唐揚げと自家製ポテトチップにチーズの燻製が出てくる。
「ついでに椅子も」
キッチンから持ち出したと思われる丸椅子二つまで。
魔法で何処からでも持ってこれるのは便利だ。
「ありがとう。特にこの自家製ポテチ、僕の方まで回ってこなかったんだ」
「大人気でしたしね。やっぱりここで作った野菜は美味しいです」
有り難く頂くことにする。
市販のポテチとは明らかに違う厚さと固さが美味しい。
ちょっと手に油がつくけれどまあそれは仕方無いか。
川エビも同様に美味しいけれど油がつくし。
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