第20話 夜空を見ながら
その1 山へ芝刈りに
九月になると皆、実家から帰ってきた。
真理枝さんに言わせると、
「地元に帰っても遊ぶ相手がいないし、此処の方が楽しいからね」
というのが主な理由だそうだ。
賑やかになると亜理寿さんと美鈴さんだけの静かな日々が懐かしくなったりする。
まあその辺は無い物ねだりという奴だろうけれど。
そんな訳で今日も何人も来ている状態だ。
金子先輩は何人か引き連れて山菜やキノコを採取中。
あと何人かはサバゲ実施中だ。
僕と亜理寿さんはカブを使って薪拾いをしている。
荷台に一番大きい籠と縄を入れてバイク道をゆっくり走り、危険そうな枝とか落ちている枝とかあったら適当な長さに切って籠に入れる。
そんな作業だ。
なお切る作業は亜理寿さんの魔法。
本当はチェンソーを持ってこようとしたが亜理寿さんに止められた。
「危ないし重いから持って行かない方がいいです。太い枝程度なら私の魔法で何とかなりますから」
そんな理由で。
さて後方を走る亜理寿さんのカブが停まる。
「その枝、ちょっと頭にかかりそうですね。元から切っておきましょう」
そう言うと同時にばさっと大きな枝が下に落ちる。
魔法で一気にばっさりやった模様。
ただこのままでは大きすぎて荷台に乗る乗らない以前の状態。
だから枝を引っ張って、何とかバイク道の上へと持ってくる。
「それじゃ適当にカットしますね」
亜理寿さんが魔法で景気よく枝を切り刻む。
僕は軍手で枝を取って籠に入れる。
「この枝はどれ位乾かせば使えるんでしょうね」
「太いのは一年コースかな。含水分率計で二十パーセント以下ってイライザ先輩が言っていたし」
一応薪は切ったり割ったりした順番に例の小屋に置いてある。
「学校で集めた廃材とかで今年の冬は何とか持つと思うけれどね。出来れば不安が無い位に備蓄したいしさ。それに乾いた細い枝とかがあるとたき付けが楽だし」
「皆さん露天風呂が好きですしね」
「燃料がガスや石油じゃなくて良かったよ。燃料費だけで恐ろしい事になったと思うな、実際」
「そうですよね」
そんな事を言いながら枝をカットしては籠に放り込む。
大きめの枝を切ると大きな籠二つでもすぐいっぱいだ。
「この先の尾根の処でUターンして戻りましょうか」
「そうだね」
バイク道は細いのでUターン出来る場所は少ない。
ここから一番近いのは尾根上で歩道と交差するところ。
そんな訳で二人でカブを走らせる。
◇◇◇
「昔話の『お爺さんは山に芝刈りに』というのってこれの作業の事だよな」
そんな事を言いながらバイクを薪小屋兼ボイラー小屋の作業場内に停める。
重い薪入りの籠は獣人ではない僕では持ち上がらない。
だから面倒でも籠から直接取り出して棚に並べるしか無い訳だ。
さてやるかと作業を始めたところで誰かやってきた。
「それ位の作業は私がやるよ」
真理枝さんだ。
「すみません、お願いしていいですか」
「うん、簡単だしね」
真理枝さんは比較的小柄だが腕力は僕より遙かに上。
よいしょと籠を持ち上げて、そのまま棚の上にささっと枝を並べる。
あっさりと作業が終わってしまった。
「それでちょっと二人にお願い事があるんだけれど聞いてくれるかな」
何だろう。
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