その5 まあ仕方無い

 亜理寿さんの僕との距離感覚はやっぱりおかしい。

 理由は大体わかっている。

 亜理寿さんは元々他人が苦手で他人と近づくという事が余り無い。

 その分親しい間柄との距離のとり方に慣れていない訳だ。

 そしてたまたま見た僕の行動で僕だけは信頼していいと思ってくれている。

 結果今回みたいに何でもありに近い状態になっているのだろう。


 決して僕のことを恋愛的に好きだとかそういう理由じゃ無い。

 そこは誤解しないようにしないと。

 亜理寿さんは綺麗だしたまには誤解したくもなるけれどさ。


 着替えてエアコンの効いたリビングで涼みながら亜理寿さんから借りた本を読む。

 ハインラインにシルヴァーバーグにラリー・ニーヴンにブラッドベリか。

 正統派にしてガチガチのSFファンだな、これは。

 まあ大体僕も読んだ事がある奴だけれども。

 でも僕は最近はラノベばかり読んでいるからな。

 たまには初心に返ってこんなのを読んでみるのも面白い。


 そんな訳で猫が出てくるSFとして有名な某扉を読み終わる。

 今改めて読むとSFとしてはちょっと甘いし猫小説としては今三だな。

 それに猫はメインとは関係無いし。

 どうせ猫SFならラノベだけれど猫の地球儀くらいまで猫らないと。

 日本物SFなら一人で歩いて行った猫なんてのもいいな。

 あれはなかなか綺麗で良かった記憶がある。

 本音を言うと僕は犬派だからどうでもいいけれど。


 そんなしょうもない事を思いながら時計を見る。

 そろそろ午後四時だ。

 買い物にでも行くとするか。

 今日は惣菜を中心に買ってきて美鈴さんに楽をして貰おう。

 なお二人はまだ入浴中だ。

 確かにあの露天風呂気持ちいいからな。

 でもそろそろ薪が燃え尽きるだろう。


 買い物へ行くついでに薪を足しておこう。

 そう思って財布と車の鍵を持って外へ出る。

 薪を足しながら風呂の方へ声をかける。

「ちょっと買い物に行って、ついでにお惣菜をいくつか買ってきます。だから今日は夕食の準備はしないで大丈夫です。まだ豚汁もご飯もありますし」

「わかりました。美鈴さんも了解だそうです。あ、ちょっと出るの待って下さい」


 何だろう。

 とりあえず太めの薪を三本入れる。

 かなり太いのでこれで結構持つだろう。

 冬や来年に備えて今のうちに薪になる木を数本伐採しておこうか。

 今は木の水分が多いから冬になってからやった方がいいだろうか。


 そんな事を考えていると亜理寿さんがやってきた。

 服はきちんと外出できる範疇だが若干髪が生乾き気味なのがちょいエロい。

「私も一緒に行きます。車ですよね」

「そうだけれど大丈夫?」

「いつもと違うおかずを色々見て見たいです。それに人の車に慣れる練習もしなければいけませんから」


 そう言えばそうだった。

 他人の車に一緒に乗るのも苦手だったんだよな。

 でも僕をそこまで信じていいのか?

 まあ実際なにもしないとは思うけれどさ。

 まあいいか。

 取り敢えず亜理寿さんの恋愛とかその辺は色々その辺が普通になってから。

 それまでは気安い同居人に徹して付き合うとしよう。

 今日の色々みたいな困難もきっとあると思うけれど。


 キーのボタンを押してドアロックを解除する。

「助手席で大丈夫?後部座席がいい?」

「助手席で大丈夫です」

 この車は横幅が軽自動車並に狭いし前後も短い。

 これで大丈夫で他の人運転の広い車は駄目って理不尽だよな。

 そう思いつつまあ仕方無いとエンジンをかける。

「スーパーは何処にする?」

「取り敢えず一番近い業務用から回りましょう」

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