その3 燻製作成中
この燻製機は外見から見て薬品用のドラム缶を改造したもののようだ。
そのため中はかなり大きめ。
燻製するものを入れる棚も三段あり、それぞれ独立して横から出し入れ出来るようになっている。
教授は一番下の棚に鮒、二番目に細めの魚と卵、三番目にジャガイモと枝豆、チーズを入れた。
「今回は一番上が三十分、二番目が一時間、三番目が一時間二十分という処かな」
そんな事を言いながら一番下から四角い鍋状のものを取り出してチップを六掴みほど入れる。
最後にその鍋と電熱器を燻製機の下に入れ、コンセントを接続したら終了だ。
「さて、あとは待つだけだ。温度調整は自動でやるように作ってある」
「出来たらすぐ食べられるんですか?」
「本当は出来上がった後少し寝かせておくのが理想だ。チーズだと一日位かな。だが今日はテストという事もあるし、最後の鮒などが出来たら全部味見をしてみよう」
「魚は寝かせなくていいんですか」
「寝かせた方がいいのだけれどな。まあ寝かせなくともチーズよりは大丈夫だ」
そんな事を話していたら入浴中だった皆さんが風呂から出てきた。
「おっ、もうやっているな」
燻製機から煙が出ているので一目見ればわかる。
「これはどんな仕組みなんですか」
アンドレア先輩が教授に尋ねる。
「簡単だよ。下に電熱器と燻す木のチップをのせる鍋。上に燻す食材をのせる網棚を三段。網付近にセンサーをつけてマイコンくっつけて電熱器を温度によってオンオフするようにしてある。仕組みは露天風呂の湯温調整より簡単だ。あのボイラーを手作りする位なら簡単に作れるだろう」
「実は溶接や金属加工は得意だけれど電子工作はあまり得意ではないんです。あのボイラーの湯が六十度以上で出る装置は知り合いに作ってもらったので」
「そうだったのか。でもあのボイラーはいい出来だな。思った以上に熱効率も良さそうだ」
「厳密な測定はしていないですけれどね。冬場でも何とか使えそうです」
イライザ先輩以外の入浴中だった面々も出てきた。
「何でしたら燻製が出来るまで、ちょっとひとっ風呂でどうですか。いい感じに沸いていますよ」
いかにも湯上がりという感じの真理枝さんがそんな事を言う。
「そうだな。少し一服させて貰うか。それでは稲森君、悪いが燻材の適当な取り出しを頼む」
「わかりました」
「文明も入ってきたら?さっき川に散々浸かったし」
「そうします」
そんな訳で僕も露天風呂へ。
◇◇◇
ひとっ風呂というにはのんびり露天風呂に入ってからさっきの燻製機の前に戻る。
「チーズとジャガイモ、枝豆は冷蔵庫に入れたところだよ。他はまだ。二段目がそろそろかな」
稲森先輩がそう教えてくれた。
「もう二段目も大丈夫だろう。そろそろ出そう」
これは門山先生。
「それじゃ出しますね」
稲森先輩は軍手をはめ、大きいトングを片手に燻製機二段目の蓋を開け、慣れた手つきで網ごと外へと取り出す。
二段目は多分ウグイと思われる魚と煮玉子だ。
煮玉子は元々茶色だがちょっとまた違う系統の茶色に。
魚の方は本当に綺麗に茶色になっている。
「それじゃこれも冷やして冷蔵庫お願いね」
「はい」
亜理寿さんが皿に並べて台所方面へ。
冷やすというのは魔法でという意味だろうな。
そう思いつつ僕はその後ろ姿を見送る。
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