第2章 変態狸の犯罪予告

第11話 洒落にならない脅迫事案

その1 要注意人物の登場

 GWが終わると一気に静かになった。

 基本的に学校と自動車学校と家を行ったり来たりするだけの毎日が続く。


 何せ理系は元々大学の授業が多い。

 講義だと一年あたり一コマで四単位。

 なのに実習や実験は半分の二単位にしかならない。

 だから実習や実験が多い理系は必然的に文系より授業のコマ数が多くなる。

 それに国立は一授業あたりの人数が多くないから授業は大体出席をしっかりとる。

 つまり国立理系は卒業や進級を諦めない限り出席必須な授業が多い訳だ。


 こんなの高校時代は知らなかったな。

 道理で遊び歩いている大学生に私立文系が多い訳だ。

 大教室授業だと出席も取れないものな。

 色々納得。


 さて、木曜日の一限は選択語学の中国語で二限は空き時間。

 クラスの仲がいい連中は連中はドイツ語、フランス語履修が多くて別行動だ。

 仕方無いから生協の食堂でのんびり時間を過ごそうかと厚生棟へと向かう。


 ちなみに一人で静かに時間を潰すなら第二食堂がベストだ。

 第一食堂は基本的に食べてすぐ出る用という感じ。

 第三食堂は静かで人も少ないのだが単価が高い。

 第二食堂はカフェテリア方式なので安いものだけを取れば結構安く済む。

 例えば友人の松原君言うところの納豆卵定食ならご飯大盛りでも二百円だ。

 まあ実態は定食ではなくご飯大盛り百二十円に納豆四十円生卵四十円を頼むだけだけれども。

 今日の僕はそれよりはましな自称コロッケ定食を選んで窓際のお一人様席へ。


 リア充が多いらしい都内私立文系大学と違いここはお一人様も珍しくないし恥ずかしくも無い。

 あと時々都内私立文系に対する比較が出てくるのは田舎国立理系大学のひがみだ。

 何せ遊べない、授業多い、留年も多いが女の子はいない。

 そういう悲しい大学生活を宿命づけられているんだ。

 少しくらいひがんでもいいじゃないか!


 テーブルにお盆を置いて、スマホを見ながらのんびりと早めの昼食を食べる。

 毎週のこの時間と同様、誰にも話しかけられる事は無い筈だった。


「やあ、ちょっといいかな」

 知らない声だ。

 だから最初は自分に対する台詞だとは気づかなかった。

 でも考えるとこの付近には僕しか座っていない。

 なので何だろうと思いつつも顔を上げる。


「悪いね、ちょっと失礼するよ」

 丸顔で大柄な男子学生がそう言って僕の横に座る。

 僕の知らない顔だ。


「初対面でいきなり失礼。僕は抜田ぬきた秋良あきら、ここの工学部情報科学科の三年だ。まあそう言ってもわからないだろうけれどね。化け狸の一族の末裔と言えばわかるかな」

 えっ、化け狸。


「堂々とそんな事を言っていいんですか」

 小さめの声でそう尋ねる。


「術を展開しているからさ、聞こえてまずい部分は他人には聞き取れないよ。同じような術を使う奴なら聞き取れるだろうけれどさ。そういう奴は大体同類だから聞こえても問題無いだろ」


 抜田という名字には聞き覚えがある。

「薬学部の抜田先輩のご兄弟ですか?」


「遠縁といったところかな。一族の名字が抜田なんで名字が同じでも実際は血縁関係は結構遠かったりする。まあ同じ一族には違いないけれど」


 ちょっと頭の中で警告音。

 多分この人は以前深川先輩の話に出た『この大学人何人か居る男性の亜人』で『狸の獣人』だ。

 先輩は確か『(この家に)呼んではいけない人々』と言っていたよな。

 つまりこの人は要注意人物だ。

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