その5 動くのもめんどい位に
生地はあらかじめ練って冷蔵庫で寝かしてあった。
それを取り出してコッペパンくらいの塊に分ける。
それを製麺機の上から入れてローラーで平らで長い板状にする。
板状の物は粉を振って丸める。
生地が足りなくなったら上に新しい生地を投入。
長い長い板状の生地をぐるぐる丸めたものが完成。
その生地をまた製麺機に入れて更に伸ばす。
「何回くらいやるんですか」
「今日はうどんだから太め、二回でいいです」
全員で製麺機を回したり生地を送ったり粉して丸めたり。
「こうやっていつもの昼食をつくっていたんだ」
「でもこういうごっつい手回し式の製麺機ははじめて見たな」
いかにも鋳物ですという感じの重々しい、何か道具感あふれる感じだ。
青地の本体の横側に小さく『田中式』と文字がある。
「実家の近所には昔は結構あったようです。最近まで使っている人はあまりいませんけれど」
平たい生地を巻物のように丸めた物が完成した。
「これを今度はこっちに通して切っていきます。この刃の間隔は決まっているので、細い麺を作る時は何回も延ばして生地を薄くして、うどんで良ければ今日みたいにある程度厚いままで。ここを通して、これを回して」
皆で回したり麺を送るのを手伝ったり。
シュレッダーのように麺が細切りになって出てきた。
「美鈴さんが熱湯の鍋を用意しているので、長さがこれ位になったら包丁で切ってあっちに持って行って茹でて下さい」
そんな感じで回して切って茹でてを繰り返す。
十人分以上のうどんが完成した。
これもなかなか楽しいな。
何事もやってみるものだ。
「きょうのうどんは茹で上げのもちもちと、水でしめた腰が強いのを両方試して下さい。漬け汁はキノコと鶏出汁で、山菜の天ぷら付きです。釜玉したい人は茹で上げに生卵をかけて下さい」
そんな訳で夕食開始。
まず何事も経験という事で釜玉につゆバージョン。
確かにこれはもちもちしている。
「これも初めての食感だね」
「製麺してすぐ茹で上げるとこんな感じです」
あっという間に食べきって,今度は水でしめた方へ。
この腰はこのまえ食べたうどんで体験済み。
でも今日の方がちょっと太いからよけい腰が強く感じる。
しかもキノコのうま味たっぷりな汁ととても良く合って美味しい。
山菜の天ぷらをのせてもなかなか。
「こういうのを食べ慣れると後が大変だよね。安い茹でうどんを食べるたびにきっと恋しくなるんだ、この腰が」
「冷凍のうどんも美味しいと思ったけれどこれが本物なんだな」
「またこのキノコの汁が合うんだ本当に」
いつもと違い人数が少ないのでおかわり自由。
そんな訳で皆さん食べまくる。
恐ろしい勢いで麺も汁も天ぷらも消えて行く。
「今日帰った人に申し訳無いけれど美味しいよね」
「人数が多いとどうしても作ってすぐ食べてが出来ないので」
「キノコも美味しいよな。これってさっきの山の何処にあったんだ?」
「多かったのは滝の周りの林の中ですね」
「そういえば椎茸栽培もやろうって言っていたけれど忘れていたな」
「ほだ木で本格的にやると二年かかりますけれど」
「そんなにかかるのか」
「普通は冬に仕込んで次の次の秋ですね」
話が終わるころには汁の鍋もざるのうどんも、勿論天ぷらも空になっていた。
そして気がつけば動くのも面倒という状態に。
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