その3 川組の作業のあと
「ここが緑が作ったと言っていたビオトープですか」
一見すると稲が植わっていない水田。
でもよく見ると中の深さが浅いところと深いところがある。
「結構しっかり作ってありますね。重機も使って」
「掘って水を張っただけですけれど、深川先輩的にはこれで充分だそうです。放っておけばそのうち草や水草も勝手に生えるし、ため池や川から生き物も移ってくるって」
「緑にはその辺が全部見えているんでしょうね、きっと。それにこういう事をしたかった、って感じが何かわかります」
今はただの大きい水たまり。
底の泥も見えるし植物も生えていない。
でも深川先輩にはきっともうここの数ヶ月後くらいが見えているんだろう。
本人は授業があるから寮に帰ってしまったけれど、それでもそう感じる。
「多分川との水位とか、ため池からの水位とかも緑なりに色々考えているんでしょうね。魚とか小動物が移ってきやすいように」
「深川先輩はフナとドジョウと川エビが繁殖してくれないかって言っていましたね」
「それはきっと食べて美味しい川の恵みって話のような」
「きっとそうですね」
そんな事を話ながらさらに上流へ。
ため池の水門の処に出た。
ため池には水門が二つある。
一つは川へ流れていくもの。
もう一つは恐らく農業用水用と思われる水路に続く物。
今は両方とも同じ高さにして、同じように水が出るようになっている。
水門の幅が違うので川に二倍以上の水が流れていくようになっているけれど。
「これはついこの前調整したんです。ため池と川と両方に流れるように。前は水田を使っていないので細い方は水が出ないようになっていたんですけれどね」
「水門は結構重かったよね。暫く動かしていなかったから」
「アンドレアが油さしたりグリス塗ったりして貰ったから当分大丈夫だと思うよ」
「あいつもちまちま働いているよな」
そんな事を言いながらため池側へ。
ため池は北側はある程度整備してある感じで、南側は自然な感じ。
歩けるのは整備してある方の北側。
明らかに摩耶さんが除草したと思われる黒焦げの道を奥へ歩く。
川が流れ込んでいるところに出た。
「ここに流れ込む中でこの沢が一番大きいかな。ヤマメを捕ったのもこの沢」
そこからは川沿いに登っていく感じ。
所々焦げているのは摩耶さんの除草跡だろう。
ちょっと大きめの淵を通り、滝っぽい場所は横の岩や木を登る感じで越える。
赤いビニール紐が所々に巻き付けてあるので何処を通ればいいかはすぐわかる。
「ここを登るコースを開拓するのも結構楽しかったよな」
「緑は身長が無いからどうしても色々苦労していたよね」
そんな感じで登っていくとそこそこ大きな滝に出た。
滝の高さは合計で十メートルくらいだろうか。
上部は岩の間を流れているような感じで、下部五メートル位は一気に落ちている。
滝壺というか淵も結構大きい。
いわゆるマイナスイオンがたっぷりのイメージの場所だ。
理系としてはマイナスイオンという表現は嫌いなのだけれど。
「ここでヤマメを捕って、結局ずぶ濡れになったんだよね」
「気持ちいいからついそのまま泳いじゃいました」
確かに気持ちはわかる。
いい感じの場所だ。
「確かにここにお弁当持ってきたら楽しいよね」
真理枝さんの台詞に思わず頷いてしまう。
「この滝は流石に越えるのは無理と判断したんだ。だから前はここから下に戻ったな。でも獣道っぽいのが斜め上に伸びている。多分そこを伝って支尾根沿いに登れば上の尾根道に出ると思う」
摩耶さんは斜め上方向に伸びる、言われてみれば踏み跡かなという隙間を指す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます