その2 土曜日の夜に
翌日午後八時過ぎに帰宅。
案の定家の中は賑やかだ。
ただ日帰りの皆さんは寮に帰宅したらしい。
いるのは今朝と同じ面子だ。
「おかえりなさーい」
皆さん絶好調という雰囲気が流れまくっている。
「ただいま」
「ちょうどご飯が出来たところだよ」
メインは鶏肉、タケノコ、人参等が入ったいかにもという感じの煮物だ。
それにワラビとゼンマイのおひたし状のもの。
名称不明な山菜の佃煮風もついている。
味噌汁は今日は豆腐とわかめだ。
「美鈴さんに作って貰うと正しい日本のご飯という感じになるよね」
「でも普段はハンバーグとかも作るぞ。鶏の照り焼きとかも」
「いいなあ。いつもは学食とコンビニ弁当だもんね」
「自分で作ればいいじゃない」
「一人だと作る気力が無くなるの」
そんな事を言いながら夕食を食べ始める。
「そう言えばトラクター使えるようになったよ。他の機械も大丈夫だって」
おっとそれは朗報だ。
「でもよく動いたな。あれ十年以上前のだぞ」
「アンドレアが言うには完璧な保護状態にしてあったって。ガソリンを抜いたり開口部をテープで塞いだり。多分機械について詳しい人がまた使うつもりで念入りに保護しておいたんだろうって」
父だな、とすぐわかる。
父は元々は機械屋だ。
多分自分が使うつもりか何かで念入りに措置しておいたのだろう。
「でもあんなにきちんとしてあった機械類、勝手に使っちゃったけれどいいのかな」
僕はここへ来る前の父の言葉を思い出す。
「多分機械類を使う事も想定内だったんだろうな。この家にある物は何でも自由に使っていい。ただ自分の責任で管理しろ。そうわざとらしく父が言っていたから」
「お父さんですか。でもお父さんはこうやって畑を再開したりする事を予想されていたんでしょうか」
亜理寿さんの疑問。
「わからない。元々機械屋だったからさ、単に性分として機械類もそうやって保存したのかもしれない」
僕にもその辺はよくわからない。
父はどういうつもりだったのだろう。
「でも有り難く使わせて貰ったよ。畑はほぼ完成。明日はいよいよ色々植えるんだ」
「あとユンボとチェンソーも使えるみたいだからね。明日は少し山の中を切り開いてみようかという話になっているんだよ」
「新しい玩具が使えるようになって色々試したくして仕方無い感じなんだ、皆。トラクターも我先に乗りたがっていたしな。何か今の持ち主の文明より先に使うのは申し訳無いような気もしたが」
「僕はむしろ色々やっていただいて有り難いくらいだよ。残念ながら明日も教習所があるけれどさ」
「そうか、悪いな。では遠慮せず使わせて貰うぞ」
「でも文明さんも一度山や畑の方を見て見るといいと思います。結構色々整備できましたし歩くだけでも楽しいです」
亜理寿さんがそんな事を言う。
「そうだね、来週はGWだし山の方も一度見てみようかな。教習所も順調だし」
「その方が楽しいよ、絶対。参考までに教習所はどれ位進んだ?」
「明日に第一段階の修了検定予約してきた」
「オートマ? マニュアル?」
「マニュアル」
「凄く早いじゃない。私なんてオートマでも第一段階クリアまで2ヶ月以上かかったのに」
「私と
「まだ学生少ないし空いているから」
実際田舎のせいかかなり空いている感じだ。
二月から三月は無茶苦茶込んでいたと教官は言っていたけれど、
「なら軽トラが来る日も近いと」
「だから軽トラを通学用に買わないって。それに車は父が選ぶって言っていたし」
「ちっ、残念」
そんな
「自分で軽トラ買うって言っていなかったっけ」
「私が欲しいのは四駆の軽トラ。でも私のAT免許で乗れるちょうどいいのってほとんど出物が無いのよ。だいたい中古の四駆軽トラはMTだから」
「ならMT免許に限定解除したら?」
「無理。ATでもあれだけ苦労したんだもん」
なるほど。
なら、と思いかけて慌てて気を引き締める。
僕は軽トラを買う必要は無いぞ!
間違えるな!
「まあそれはともかく、明日の朝食前にでもちょっと山を散歩してみたらどうでしょうか。見晴台までならそんなに時間もかからないですし」
亜理寿さんがそう提案。
確かに自分の家だけれどその辺は全然知らないな。
「なら明日朝、案内よろしく」
「まっかせておいてー」
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