第4話 二度目の週末

その1 次の週末がやってくる

 大学に自動車教習所にと平日は結構忙しい。

 教職科目を入れてしまったので大学はほぼ時間びっちり。

 家に帰ってご飯食べて寝るだけという感じになってしまう。

 復習の必要がある授業もあるので実は結構大変だ。


 そんな訳で週末がくるのはあっという間。

 金曜日の夜九時過ぎに家に帰ると既に住民が二人増えていた。

 小坂井ウサウサさんと摩耶まやさんだ。


小坂井ウサウサが楽しみ過ぎて今日から来てしまった」

「明日は朝から畑作りだよ」

 確かに凄く楽しみという感じだ。


「耕運機はどうも使えるみたいだよ。明日アンドレアが色々持ってきてくれるって。だから耕運機を入れる前に取り敢えず畑は燃やして雑草を取り除いてと」

「先週は山道の除草で手一杯だったからな。やっと別の事が出来ると思ったのだが」

「まあまあ。畑が出来たら作物を分けてあげるから。人参は比較的肥料が少なくても大丈夫らしいんだ。だから取り敢えず耕しまくって種をまけばいいらしいよ。それに今回はいい物を仕入れたしね」


 小坂井ウサウサさんは段ボール箱を開いて中を見せてくれる。

 何かゴマが散らばってくっついたタコ糸みたいなものが入っていた。


「シーダーテープだよ。これを畑で伸ばせば理想の間隔で種まき完了なんだって」

「人参の種まきは難しいけれどそんな物があるんだ、美鈴さんが感心しています」

 確かにこれは便利だな。


「あと枝豆も一緒に作るといいらしいんだ。何か虫の害を防げるって。だから枝豆の種も買ってきたんだ。他にもジャガイモ種芋とかミニトマト苗も仕入れたよ」

 その辺は玄関に苗が置いてあったので知っている。


「何か随分やる気だよね。結構お金かかったんじゃない?」

「どうせ此処ではお金を使う場所も無いからね。それに国立大医学部だから親の経済負担も少ないし。その分お小遣いを実は貰っていたりするしね。しかも使い処がないから結構貯まっている状態」

 確かに国立大医学部と私立の医学部の学費は恐ろしいほど違う。


「泊まる部屋は美鈴さんの部屋を借りたから。あと明日は美久コン達が十人ほど引き連れて日帰りで来るって。色々開発を進める予定だって言っていたよ」

「何か楽しそうで悔しいな」

 思い切り本音だ。


「文明君は早く免許取らないとね。そして車がくればまた使い放題と。四駆の軽トラなんていいな」

「流石に軽トラだと学校で浮くと思うぞ」

「だって軽トラなら安いし便利だよ。荷台に肥料積んだりとかも心置きなく出来るよ。多少人数が多くても荷台に載せれば定員以上に人を運べるし」

 そう言われてみると確かに便利かもしれない。

 僕はそう思いかけて慌てて考え直す。

 ここで乗せられたら負けだ。


「流石に大学生の通学用車に軽トラは無いと思います」

「そうかなあ。なら自分で買おうかな、夏休みにバイトでもして」

 おいおいおい。


「夏のバイトくらいじゃ車は買えないですよね」

「正確には『夏にバイトして海外旅行へ行くの』と親に言うんだよ。そうしたらバイトしないでいいってお金くれるから」

 酷い。


「こんな会話知ったら親が泣くね」

「だって頑張って無事国立医学部入ったんだもの。私立の授業料と寄付金を思えばこれくらいは」


 本当、この会話は親に聞かせられないな。

 あと仕送りが少なく貧乏な俺のクラスメイトの皆さんにも聞かせられない。

 何せ昼食にご飯と納豆と味噌汁とか、ご飯と生卵と味噌汁とか。

 第二食堂でそんな注文して倹約している奴が多いものな。

 まあ僕も付き合って倹約していたりするけれど。


「そんな訳で明日の夜も賑やかになるけれど、一応皆帰る予定だから安心してね」

 一瞬ドキッとする。

 何せこの前は女子に三方囲まれて眠れなかったしな。

 その辺バレていないよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る