その7 質問
「大丈夫だけれど」
声は隣の部屋から、亜理寿さんだ。
「ちょっと色々お聞きしたいのですけれど、宜しいでしょうか」
何だろう。
「いいよ、どうせまだ寝ていないしさ」
「私は先日、ここに半ば勢いという感じでお邪魔してしまいました。それで改めてお聞きしますけれど、私がここにいて邪魔じゃないですか。いない方が楽だとかそう思ったりはしないですか」
いきなり何をと思う。
「今なら私がいなくても真理枝さんがいますし、美鈴さんが怖いというのも無いでしょう。多少妖怪が出たところで害がないのもわかった筈です。だからもう私がいなくても文明さんは平気だと思うのです」
確かにそう言われればそうかもしれない。
でもその辺は僕にも言い分がある。
「確かに最初はその辺の理由で亜理寿さんに世話になったけれどね。でもだからと言って今いない方がいいなんて事は無いよ。勿論亜理寿さんがひとりになりたいなら別だけれどさ。僕は僕で今のこの状態、結構気に入っているから」
そう。
女の子が襖一枚先にいて、変な物音は立てられないなんて緊張感があっても。
「私が魔女だとわかっているのにそう言えますか」
「逆に亜理寿さんが魔女でなかったらこうならなかったろうしね」
ちょっと間が開く。
「さっき亜人はどう生まれるか聞きましたよね。私の場合は父も母も普通の人間でした。私も小学五年の夏までは普通の女の子でした。ある事件がきっかけで魔法が使えるようになって、でもずっとそれを隠してきました。何度かばれて化物を見るような目で見られましたけれど。
中学でも高校でも隠し事をしているという意識があったので基本ひとりでした。
高校時代には亜人と普通の人とを見分ける事が出来るようにもなりましたが、それでも基本ひとりのままでした」
そこでまた間が開いた。
「そしてここの大学に来ました。思った以上に仲間が多くて気が緩んだせいか、つい文明さんに話しかけてしまいました。普通の人間だとわかっていたのについ気が緩んで。でも二度目にお会いした時、百鬼夜行をが見えているのに気づいて、またついつい話しかけてしまって。そして三度目、成り行きとは言えお家に押しかけてしまって。冷静に考えたら自分でもどうかしていると思います」
「そのおかげで僕は助かったんだけれどな。亜理寿さんがいなければ美鈴さんときちんと会う事も出来なかっただろうし、現にまだ話せないしさ」
思いついて更に付け加える。
「下手すれば登校拒否になっていたかもしれないしさ、百鬼夜行やら何やらで」
「でもその辺はきっと他の人、例えば真理枝さんなり誰かがきっとどうかしてくれたと思います」
「でも実際は亜理寿さんが助けてくれただろ。そういう事」
またちょっと間が空いた。
「あと私はちょっと色々あって、男性が極端に苦手なんです。本来は話したり二人になる事さえ怖いんです。文明さんは何故か比較的大丈夫なのですが、きっとそれ以上に仲が進むことも無いと思います」
何かあったのかな、と思う。
でもその辺はきっと気にしてはいけない部分なのだろう。
だからあえて原因についてはそれ以上考えない。
「べつにそれはそれで今の状態なら問題無いと思うけれどな」
まあ本当はもっと仲良くなりたいとか思ったりもするけれど。
でも別に恋人募集で部屋を貸している訳じゃ無い。
強いて言えば別に恋人が出来て連れ込むなんて事態の時には困るだろうとは思う。
でもうちの学校の男女比を考えるとその辺の期待は絶望的だ。
「だから僕は亜理寿さんがいてくれて助かったし、これからもいてくれればいいなと思う。まあ亜理寿さん自身にここにいたくない理由があれば別だけれどさ」
「本当にそれでいいんですか」
「勿論」
ちょっとだけ間が空いたその後に。
「ありがとうございます」
そう返事が返ってきた。
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
それで会話は終わった。
でも僕は暗い中、少し考える。
亜理寿さんはどういう気持ちなんだろう。
昨夜のような騒がしいという訳では無いと思う。
僕の見た限りでは亜理寿さんも充分楽しんでいた感じだったから。
なら何故、ここに居ていいかなんで聞いたのだろう。
勿論考えても僕には答はわからないけれど。
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