その6 騒ぎの後で

 翌日は朝御飯を皆で食べて、そして僕は自動車学校へ。

 皆さんは寮に帰るなりホームセンター行くなり山を整備するなりするそうだ。

 それに参加するのも楽しそうだがまず自動車免許を取らないとならない。

 土日は技能や座学を進める絶好の機会なのだ。


 そんな訳で午前午後目一杯講習を受け、夕方五時過ぎに帰宅。

 流石に残っているのは本来の住民だけだった。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 リビング代わりの八畳間もすっかり片付いている。


「ごめんね土曜は色々騒いじゃって。皆を紹介するだけのつもりだったんだけれど、何かもう皆はしゃいじゃって」

「僕は別にいいですよ。楽しかったし」


「あんなにいたんですね。大学には」

 亜理寿さんの言葉に真理枝さんは首を横に振る。

「ノンノン、本当はもっといるんだよ。昨日のは仲がいい日本妖怪と獣人メインで集まってもらっただけだから」

 確かに構成が偏っていたな。


「どれ位の人数がいるんですか」

「連絡網に載っているだけで五十人ちょいかな。公言していなかったり色々あって連絡網に載せていない人を含めると八十人近くはいると思うよ。何せ素質がある人はここに引き寄せられるしね。まあ学力はそこそこ必要だけれども」

 かなり多いな。


「研究団地にある企業もやっぱり亜人がいるみたいだけれどね。社会人になると皆さん忙しいからあまり遊ぶ機会も無いんだ」

 社会人もいるのか。

 そう思ってふと以前思った事を聞いてみた。


「そう言えば亜人って代々狸だったとかそういう家系なのか。それとも存在が単独で自然発生するのか。普通の人間がなったりするのか。その辺どうなっているんだ」

「色々だよ」

 真理枝さんはあっさりそう答える。


「獣人とか吸血鬼とか魔女は遺伝が多いかな。父か母のどちらか、または両方が亜人だって。でも普通の人の間の子供でもそういう力を持って生まれる場合があるし、美鈴さんのように時間と共に生まれる存在もいるしね。その辺は色々で千差万別。

 ただ共通するのは完全に忘れられると消えてしまう事かな。能力や属性だけが消える場合もあるし存在ごと消えてしまう場合もあるけれど。

 だから仲間意識が強いし結構お互いの付き合いもあったりするんだよ。お互いに憶えあって消えないようにね」


 そうか。

 消えないようにという感覚は言われないとわからなかった。

 何せ僕なんかは“我思う故に我あり”が当たり前だと思っていたから。

 我思えなくなるなんて事態は想像すらしなかった。


「美鈴さんが夕食出来ましたと言っています」

 亜理寿さんの台詞で俺達はテーブルの方へ。

 この辺はいつも通りだ。


 ◇◇◇


 明日も真面目に一限から授業。

 そんな訳で僕と亜理寿さんはそれぞれ自分の部屋へ。

 真理枝さんはもう少しリビングで美鈴さんとのんびりしているそうだ。

「おやすみなさい」

という事で亜理寿さんとそれぞれの部屋へ入る。

 まあ襖で間を仕切っているだけなんだけれどさ。


 昨日は女の子の気配でムンムンという感じでなかなか寝付けなかった。

 今日は寝るぞと思って布団を出す。

 最早どれが僕の布団かわからない状態だがまあいいや。

 一番上にあった敷き布団と掛け布団を押し入れから出して敷く。

 さて寝るぞ、と思って横になる。

 部屋の電気をリモコンで消して目を閉じたところだった。


「文明さん、ちょっといいですか」

 小さな声が聞こえた。

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