その4 先住者と思わぬ提案
城間さんが中に入って結構経った気がする。
何か家の中でする音がいちいち気になる。
大丈夫、これは家が古いせい。
隙間も多いしそれなりにガタもきているだろう。
家本体は昔ながらの作りで丈夫なようだけれども。
それにしても妖怪に襲われそうな時はどうすればいいのだろう。
お札の効力は気休め程度だって城間さんが言っていたしな。
お経でも唱えれば少しは効くのだろうか。
でもお経なんて憶えていないしな。
南無阿弥陀仏とでも唱えれば少しは効果があるのだろうか。
こんな事なら般若心経でも憶えておけば良かった。
それとも何か密教系の真言の方が役に立つだろうか。
そんな事を考えていた時だ。
「もう大丈夫ですよ。驚かせないよう静かにどうぞ」
何を驚かせないようにかはわからない。
でも取り敢えず城間さんの言うとおりに。
「失礼します」
小さくそう言って僕は障子戸を開ける。
中に二人程座っているのが見えた。
一人は城間さんで、もう一人は見知らぬ女の子。
白いワンピース姿で色白、多分中学二年生くらい。
何処からこの子は出てきたんだろう。
「彼女の言葉は津々井さんには聞こえないと思うので私が紹介します。この家の座敷童で
彼女は僕に向かって小さく頭を下げる。
えっ、座敷童!
あれってこんなにはっきりと見えるのか。
どう見ても普通の女の子にしか見えない。
ここまで普通だと確かに怖くないけれど、逆に誘拐とかそっちの方が心配になる。
本当に座敷童なんだろうか。
「この春に家を直したり家具を入れたりして、久しぶりに此処の家も賑やかになると思って美鈴さんは喜んでいたそうです。でも引っ越してきたのは一人だけで、それも夜遅く帰ってきてすぐ寝てしまうだけ。遊んでくれるどころか気づいてももらえない。だから寂しくてつい、昨夜は気づいてほしいと色々やってみたそうです」
言われてそれは納得出来た。
あの足音とか戸を少し開けた感じとかは夢では無かったわけだ。
座敷童、いや美鈴さんは何かを城間さんに言っている様子。
城間さんは少し考えて何か僕に聞こえない言葉で美鈴さんに話している様子。
そのまま二人で何か話し込んで、そして同時に僕の方を見た。
「それでここからはお願いです。津々井さんはこちらの二間と二階の二間を使っていないそうですが、宜しければ奥の部屋を私に貸していただけないでしょうか」
えっ?
美鈴さんは更に何か俺に向かって言っている様子。
でも残念ながら僕には聞こえない。
その代わり城間さんが再び口を開く。
「美鈴さんが言うにはこの家に津々井さん一人だとちょっとまだ寂しいそうなんです。それに私は今学生寮を借りているのですけれど狭いし人口密度が高いし人目も多いしでちょっと不便なんです」
ええ、同棲!?
いや部屋が違うから単なる同居だ。
でもそれでも風呂とかトイレは一緒になるぞ。
洗濯物とかもあるぞ。
いいのか?
「ただ部屋をお借りする前に一つだけ津々井さんに言わなければならない事があります。私の正体というか種族というか性質というか。
それを確認してもし大丈夫だと判断したら、その時はどうか宜しくお願いします」
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