その3 居るのは何だ

 取り敢えずスクーターで走る事十分少々。

 無事僕は家に辿り着いた。


 周りは完全に真っ暗だ。

 取り敢えずスクーターのライトをつけたまま照明のスイッチを押す。

 玄関付近外回りの照明がついた。


 さて、城間さんはどれ位かかるだろう。

 車ならあと十分くらい。

 道が狭いから車だと時間がかかる。

 自転車だと最低三十分位は必要かな。

 途中にちょっと長めの上り坂があるから。


 家の中で待っているのは実はちょっと怖い。

 既に何か気配がしているような気がする。

 念の為スクーターを門の外方向へ向けて停め直した。

 これでいざという時はさっと逃げられる。

 勿論エンジンはかけたままだ。


 ふと風や家以外の音がした。

 自転車のブレーキ音だ。

 えっ、こんな早く?

 まさかと思うが見てみる。

 城間さんだった。

 ママチャリに乗って登場だ。


「どうやってきたんですか。その自転車だと無理ですよね」

 僕はスクータのエンジンを止めて自転車を見る。

 変速機すらついていないママチャリだ。

 とてもこの辺の坂を登り切れそうに見えない。


「その辺についてはあとでお話しします。この家ですか」

 城間さんは視線を上げて家全体を見回すように見る。

「いいお家ですね。家主がいなくなってもしっかり手を入れていたのがよくわかります。この状態なら問題は無いでしょう」

 まるで霊媒師か不動産鑑定士みたいな事を言う。


「問題が無いというのは妖怪とかを気にしないでいいという事か?」

「いえ、向こうは気にして欲しいようです」

 えっ、どういう意味なんだ。

 やめてくれ怖い。


「ご心配なく。私も一緒に行きますから。玄関の鍵を開けて下さい」

 怖いが城間さんがなんとかしてくれる模様。

 なので取り敢えず言われるままに鍵を開ける。


 普段俺が使っているのは玄関から見て左側。

 こっちにDK八畳と和室八畳、それに風呂がある。

 玄関から見て正面には二階への階段とトイレが有り、左側は廊下が延びていて八畳間の部屋が二室続いている。

 家が広いので僕は基本左側とトイレしか使っていない。


 でも城間さんは見たのは右の廊下の方だ。

「右奥の部屋ですね」

 そこに何があるんだ。


「それでは失礼します」

 城間さんは一礼すると靴を脱いであがって、そのまま右の廊下へ。

 どうしようかと思ったが一人で残っているのも怖い。

 城間さんの後をついていくことにする。

 城間さんは廊下を真っ直ぐ進んで一番奥の部屋の障子前で立ち止まった。


「入りますよ。怖くないから出てきて下さいね」

 怖くないって台詞は向こうに対して言っているようだ。

 どういう事だろう。


 そう思ったら城間さんが僕の方を見た。

「ちょっと話をつけてきますからこのまま待っていて下さい。大丈夫、危ない事は何もありませんから」


 話をつける?

 どういうものが中にいるんだ。

 でも仕方無い。


「わかった」

 でもできるだけ早く戻ってきてくれよ。

 ここで一人で待っているのも怖いから。

 自分の家のくせにそんな事を思いつつ僕は彼女を送り出した。

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