その5 取り敢えずの結論
どういう事だろう。
城間さんはすっと右手を伸ばし、さっと回転させる。
淡い青色のカーディガン姿が黒一色の服装に変化した。
黒い長い上衣、とんがり帽子。
何も持っていなかった筈の右手にはいかにもという杖が握られている。
この格好はどう見ても……
「滅多にこの格好はしないのですけれどこれがわかりやすいでしょう。見た通り私は魔法使いです。妖怪等にある程度詳しいのも自転車でここまで普通に来る事が出来たのもそれ故です」
城間さんにはいい加減慣れているせいだろうか。
今さら怖いという気は起こらなかった。
むしろ今まで感じていた雰囲気とかを考えると納得できたりもする。
でもちょっと疑問も。
「魔女も妖怪等と同じようなものなの?」
城間さんは頷いた。
「ええ。同様に信じる人が多ければ存在が楽になります。今はファンタジー等も流行っているので魔女にとっては比較的住みやすい状態です」
そういう事か。
「そういう訳で私は魔女です。それでもそこの部屋を貸していただけますでしょうか。勿論お代は払いますから」
特に考えるまでも無く僕の中で結論は出ていた。
「お金はいらないですよ。美鈴さんもその方がいいならむしろこっちからお願いしたい位です」
「本当にいいのですか。私は魔女ですけれど」
「城間さんである以上、特に問題は無いです。それにどうせそちらの二間は使っていないからお金もいりません。電気ガス代は親から貰ってますし」
座敷童の美鈴さんがにこっとしたのがわかった。
うん、この子もなかなか可愛い。
一人暮らしでこの家怖いなという処からの大逆転だ。
「それでは今日からお邪魔します。どうぞ宜しくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしく」
美鈴さんを含めて三人で頭を下げる。
そして。
「さて、それでは衣服その他一式をここに持ってきます。寮は一応個室だけれど狭いしシャワーだけだし、下手に魔法をつかったり空飛んだりすると見つかりそうだしで色々と大変だったんです」
城間さんは表情が比較的わかりにくいタイプ。
でも全開の笑顔なのが俺には何故かわかる。
彼女は魔女姿のまま杖をガンガンと振るった。
洋服ダンスだの衣装ケースだのがどどんと出現。
「家財道具一式をとりあえず移動させました。それとお風呂を案内して貰っていいですか」
「どうぞ」
僕、美鈴さん、城間さんの三人でDKの先の風呂へ。
「ああ、ちゃんとした浴槽がある。良かったです。寮の風呂は各個室にあるシャワーだけだったので。早速今日から使わせて貰いますね。取り敢えず風呂掃除開始と」
おっと、これはちょっと何だな。
自分の家の風呂に女の子がいるというのはちょい何か妙な感じになる。
勿論覗こうとか手をだそうとかそういうのは無いけれど。
とりあえずDK部分を少し片付けておくかな。
この部屋は共用になるだろうし。
僕の私物はその先の八畳に移動しておこう。
城間さんの鼻歌が聞こえる。
何だか妙に楽しそうだ。
いつもの雰囲気からはそんな感じを思い浮かべにくいのだけれど。
さて、部屋を片付けるか。
とりあえずDKを優先して。
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